保健室に行けるまで
ある日、僕は社会の授業を受けていた時の事、突然、前兆が来たことを感じ取る。地球の引力により椅子に押し付けられた尻が痛みとして主張を強めている。
僕の耳の中に先生の低い声が響いている。
机から漂うわずかに感じる木の香り。
近眼により正常よりも視力が大幅に落ちてしまった僕の眼。
不意に感じた前兆により止まってしまった僕の手。
動かなくなった手の隙間に差し込まれるようにして存在する新品の長い鉛筆。
今感じるあらゆる感覚の中で明らかにおかしいものが存在する。僕が今感じている前兆は、''視覚異常''だ。僕の場合、閃輝性暗点(せんきせいあんてん)の症状が出る。
閃輝性暗点は今、僕の視界に出現している。それは僕の視界の一部を侵食し、徐々にその面積を広めている。侵食された部分の視界はもう何も見えないが僕の脳が勝手に想像であたかも’’見える’’ように見せかけていた。このため、前兆が来ていることに気づくのが遅かった。
それはつい先ほど、社会の教科書の本文を読もうとしたときに気が付いた。閃輝性暗転はすでに僕の視界の3分の1を侵食し、社会の教科書を読むことを困難にさせていた。教室の中で最も存在感のある深緑の黒板を見ているときには気づかなかった。
本来ならば直ちにこのことを報告し、保健室に向かうのが最も聡明な判断であったが僕はこの授業が一瞬止まるのを恐れてためらってしまった。これが今回の片頭痛の一番の過ちだと僕は感じている。視界の侵食はさらに進行し、第二の前兆が僕の体に現れた。それは強い倦怠感だった。
今、やるべきことは先生が黒板に書き込んでいることをそのまま自らのノートに書き写す行為だった。しかし、僕の左腕はそう簡単には動かなかった。左腕を力いっぱい動かし、ノートの左端に持ってくる。そして、手首が下向きに動くように力を加え、鉛筆の先とノートの表面との接触面の圧力を高める。そして先生が書いた通りに指を動かしながら左腕を右へ右へと持っていく。たったこれだけの’’書く’’という行為がひどく億劫に感じられた。この作業を数回繰り返した後、前兆が示していた通り、いよいよ頭痛が僕の体を襲った。
「うっ…」
僕はそんな声を漏らした。掠れるような声であった。その痛みは初期段階であることもあって、左のこめかみが少し痛む程度であったが、この頭痛が拍動と同時に強くなるのを感じた。思わず、こめかみを重い左腕で抑えた。こめかみに血管が通っており、それが拍動と同時に脈を打っているのがはっきりと感じられた。
僕はいつしか意地になっていた。その痛みを抑え、半分ほどになった視界と強い倦怠感の三つを抱えながら、いつも通りを装って授業を受けた。
そんな意地も長くは続かなかった。
だんだんと左のこめかみの痛みが強くなり、授業に集中できないほどの吐き気が襲いかかった。おそらく僕はこの時思わず口を手で押さえただろう。乗り物酔いのような強烈な不快感が僕の体を駆け巡っていた。そしてついに僕は先生に報告した。
「先生…しんどいんで、保健室に言っていいですか…?」
「わかった、いってこい」
一斉に三十人分の視線が僕に向いていた。僕はこの視線が嫌いだった。僕はこの視線を見るたびに
(何言ってんだこいつ?)
と、思われている。といった被害妄想を瞬時にしてしまう癖があった。だがその時の僕はもうどうでも良かった。早く保健室のベッドで横になりたい。楽になりたい。という強い思いが僕の頭を支配していた。だが、問題があった。我が6年3組の教室は保健室よりも上にあったのだった。それはつまり、階段を通らなければいけないということを意味する。
歩くことさえ億劫な体にムチを撃って階段を下りた。段差がいくつも並んでいる道で重い足を一歩、また一歩、と降ろしていく。僕はフラフラになりながら歩き続けた。こみ上げてくる強烈な不快感を抑えに抑え、念願の保健室にたどり着くことができた。だが、まだ問題がすべて解決したわけではなかった。
保健室を利用するには、自らの年、組、名簿番号、名前を言わなければならない。僕は頭痛、視覚異常、倦怠感、吐き気、などの体調不良を四つも抱えた体で声が出るのか不安であった。体調不良の体はここまで来るまでの道のりですっかりスタミナを使い果たしていた。しかし、ベッドの目の前でここで折れるわけにはいかず、無理やり自分で自分の士気を高め、僕は息を整え、意を決して保健室の重い扉を開き、かすれるような声で言った。
「し、失礼します…えー、6年3組の…広川…です」
僕はやっとの思いで保健室に入ることができたのであった。 Advanceさん(京都・14さい)からの相談
とうこう日:2020年6月27日みんなの答え:2件
僕の耳の中に先生の低い声が響いている。
机から漂うわずかに感じる木の香り。
近眼により正常よりも視力が大幅に落ちてしまった僕の眼。
不意に感じた前兆により止まってしまった僕の手。
動かなくなった手の隙間に差し込まれるようにして存在する新品の長い鉛筆。
今感じるあらゆる感覚の中で明らかにおかしいものが存在する。僕が今感じている前兆は、''視覚異常''だ。僕の場合、閃輝性暗点(せんきせいあんてん)の症状が出る。
閃輝性暗点は今、僕の視界に出現している。それは僕の視界の一部を侵食し、徐々にその面積を広めている。侵食された部分の視界はもう何も見えないが僕の脳が勝手に想像であたかも’’見える’’ように見せかけていた。このため、前兆が来ていることに気づくのが遅かった。
それはつい先ほど、社会の教科書の本文を読もうとしたときに気が付いた。閃輝性暗転はすでに僕の視界の3分の1を侵食し、社会の教科書を読むことを困難にさせていた。教室の中で最も存在感のある深緑の黒板を見ているときには気づかなかった。
本来ならば直ちにこのことを報告し、保健室に向かうのが最も聡明な判断であったが僕はこの授業が一瞬止まるのを恐れてためらってしまった。これが今回の片頭痛の一番の過ちだと僕は感じている。視界の侵食はさらに進行し、第二の前兆が僕の体に現れた。それは強い倦怠感だった。
今、やるべきことは先生が黒板に書き込んでいることをそのまま自らのノートに書き写す行為だった。しかし、僕の左腕はそう簡単には動かなかった。左腕を力いっぱい動かし、ノートの左端に持ってくる。そして、手首が下向きに動くように力を加え、鉛筆の先とノートの表面との接触面の圧力を高める。そして先生が書いた通りに指を動かしながら左腕を右へ右へと持っていく。たったこれだけの’’書く’’という行為がひどく億劫に感じられた。この作業を数回繰り返した後、前兆が示していた通り、いよいよ頭痛が僕の体を襲った。
「うっ…」
僕はそんな声を漏らした。掠れるような声であった。その痛みは初期段階であることもあって、左のこめかみが少し痛む程度であったが、この頭痛が拍動と同時に強くなるのを感じた。思わず、こめかみを重い左腕で抑えた。こめかみに血管が通っており、それが拍動と同時に脈を打っているのがはっきりと感じられた。
僕はいつしか意地になっていた。その痛みを抑え、半分ほどになった視界と強い倦怠感の三つを抱えながら、いつも通りを装って授業を受けた。
そんな意地も長くは続かなかった。
だんだんと左のこめかみの痛みが強くなり、授業に集中できないほどの吐き気が襲いかかった。おそらく僕はこの時思わず口を手で押さえただろう。乗り物酔いのような強烈な不快感が僕の体を駆け巡っていた。そしてついに僕は先生に報告した。
「先生…しんどいんで、保健室に言っていいですか…?」
「わかった、いってこい」
一斉に三十人分の視線が僕に向いていた。僕はこの視線が嫌いだった。僕はこの視線を見るたびに
(何言ってんだこいつ?)
と、思われている。といった被害妄想を瞬時にしてしまう癖があった。だがその時の僕はもうどうでも良かった。早く保健室のベッドで横になりたい。楽になりたい。という強い思いが僕の頭を支配していた。だが、問題があった。我が6年3組の教室は保健室よりも上にあったのだった。それはつまり、階段を通らなければいけないということを意味する。
歩くことさえ億劫な体にムチを撃って階段を下りた。段差がいくつも並んでいる道で重い足を一歩、また一歩、と降ろしていく。僕はフラフラになりながら歩き続けた。こみ上げてくる強烈な不快感を抑えに抑え、念願の保健室にたどり着くことができた。だが、まだ問題がすべて解決したわけではなかった。
保健室を利用するには、自らの年、組、名簿番号、名前を言わなければならない。僕は頭痛、視覚異常、倦怠感、吐き気、などの体調不良を四つも抱えた体で声が出るのか不安であった。体調不良の体はここまで来るまでの道のりですっかりスタミナを使い果たしていた。しかし、ベッドの目の前でここで折れるわけにはいかず、無理やり自分で自分の士気を高め、僕は息を整え、意を決して保健室の重い扉を開き、かすれるような声で言った。
「し、失礼します…えー、6年3組の…広川…です」
僕はやっとの思いで保健室に入ることができたのであった。 Advanceさん(京都・14さい)からの相談
とうこう日:2020年6月27日みんなの答え:2件
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すごいですね! 表現がとても素晴らしかったです!
主人公の辛さが伝わってきました。 ゆんさん(選択なし・13さい)からの答え
とうこう日:2020年6月29日 -
いいね ふつうにいいけどなんかやっと最初ささっとみたら保健室にいけたはずかしがりやのひとの物語に見えたw
ごめんなさい!!! 名無しさん(青森・12さい)からの答え
とうこう日:2020年6月28日
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