忘れられ病
ある中学校に通う田中は休み時間の中、目の前で起きている全く経験のない事態に顔を歪ませていた。
「君、誰...?」
大柄な、いかにも喧嘩っ早そうな男の田中に怯えながらそう言ったのは、友人の広川であった。広川は小柄で、女顔である。制服がセーラー服で、髪が長ければかわいい女子と見間違うだろう。だが広川は男子だ。そして、昨日までは親しい友人だった広川は田中に対して、まるで初めて会うような反応をしている。
やがて思考が追い付き、自らが名前を問われて以後フリーズしていたことに気が付いた田中は広川が怯えているのは冗談なのかと問う。
「お、おい、そんな怯える必要ないだろ、ほら、俺だよ、俺。初めて会ったわけじゃないだろ? なんかの冗談か?」
だが、田中のそんな言葉は広川の否定の言葉でバッサリと斬られるのであった。
「し、知らないよ、なんの用なんですか?」
「え...」
驚きと、悲しみで、不意に声が漏れた。親しかった友人が一晩にして自分の事を忘れるという悲しみは、再び田中をフリーズさせるには十分だった。だが、フリーズしている時間は長くは続かなかった。
「ちょっと! あんた広川に何してんの!?」
甲高い声で田中を叱り付ける声は、間違いなく女子の声であった。声の聞こえた方向に吸い寄せられるように田中は視線を向ける。
そこには、白長袖セーラー服に身を包んだ、ボブヘアの髪形をした小林であった。さらに小林は叱り付ける口調で続ける。
「あんた誰? なにしてるの!? 広川が怖がってるじゃん! 」
「あ、いや、そんな...そんな気はない...」
田中は思わずその剣幕で睨みつける小林に怯え、思わず目をそらす。だが、それによって周りの目が田中に睨みつけるような視線になっているのに初めて気が付く。
「なんで...なんでだよ...? 昨日も同じクラスだったろ...?」
大勢の冷ややかな視線に気が付いた田中は素直な疑問を漏らす。だが、それも記憶にないのか、小林は真っ向から否定する。
「あんたなんか知らないよ、背、高いし年上でしょ? 何でここにいるのさ?」
田中は本当に全員から忘れ去られていることの実感がその身にしみこんでいく。そして、田中は周りの視線に耐えきれずに叫んだ。
「なんだんだよお前ら!? 全員で俺を馬鹿にしてんのか!?」
すぐそばにいた、広川がビクッと動くところが視界の端に映るが、それを無視して、田中は走り出す。スニーカーの靴底がリズミカルに地面を蹴る音が周りに響いていく。視界はどんどん動いていき、校舎端の階段に到着する。田中は階段に座り込みながら考える。朝休みで、学校へ行く前の朝ご飯を食べて準備しているときは家族は正常だった。それがなぜ、学校へ来たと途端こうなのか、過去の記憶を振り返るが、何も心当たりはない。
やがて、学校を見回っていた担任の女教師と鉢合わせする。だが、田中は何も言わず、座ったまま、通り過ぎるのを待った。だが、教師は田中を無視することは無かった。
「あら?見ない子ね。 あなた、うちの生徒なの?」
やはり、自らを覚えている人はこの学校にはいないのかと、田中は顔も上げずに失望していた。この先、どうやってクラスとなじんでいけるだろうか、先生は自らをどう思うだろうか、心の中に様々な思いが渦巻いていた。
「生徒指導室へ連れて行くわよ? どこの学校の子なの?」
おっと、それはまずいと思ったのか、田中は勢いよく立ち上がる。制服は、しっかりとこの学校指定の物であるし、忘れられたといえど、この学校であるという証拠を出さねばならない。田中はブレザーの内側にしまわれた生徒手帳を差し出す。
「ほら、これでいいんですよね?」
田中はこうまでしても不安であった。制服はよく見えるように立ち上がったし、生徒手帳も教師に渡した。だが、これでも田中は不安であった。もしかすると、先生には今までいない子が突然転校などの情報一切なしで突然やってきたようにしか見えないだろうからと予想したのであった。
「...ちょっと職員室で相談しましょう」
先生は生徒手帳を預かったまま、職員室のある下の階へと歩き出す。田中もそれに追従する形で歩く。おそらくこの後も先生たちの誤解は解けないだろうと予測した田中の心は依然として暗いままだった。これから田中はどうやって過ごしていけばよいだろうか? Advanceさん(京都・14さい)からの相談
とうこう日:2020年7月17日みんなの答え:1件
「君、誰...?」
大柄な、いかにも喧嘩っ早そうな男の田中に怯えながらそう言ったのは、友人の広川であった。広川は小柄で、女顔である。制服がセーラー服で、髪が長ければかわいい女子と見間違うだろう。だが広川は男子だ。そして、昨日までは親しい友人だった広川は田中に対して、まるで初めて会うような反応をしている。
やがて思考が追い付き、自らが名前を問われて以後フリーズしていたことに気が付いた田中は広川が怯えているのは冗談なのかと問う。
「お、おい、そんな怯える必要ないだろ、ほら、俺だよ、俺。初めて会ったわけじゃないだろ? なんかの冗談か?」
だが、田中のそんな言葉は広川の否定の言葉でバッサリと斬られるのであった。
「し、知らないよ、なんの用なんですか?」
「え...」
驚きと、悲しみで、不意に声が漏れた。親しかった友人が一晩にして自分の事を忘れるという悲しみは、再び田中をフリーズさせるには十分だった。だが、フリーズしている時間は長くは続かなかった。
「ちょっと! あんた広川に何してんの!?」
甲高い声で田中を叱り付ける声は、間違いなく女子の声であった。声の聞こえた方向に吸い寄せられるように田中は視線を向ける。
そこには、白長袖セーラー服に身を包んだ、ボブヘアの髪形をした小林であった。さらに小林は叱り付ける口調で続ける。
「あんた誰? なにしてるの!? 広川が怖がってるじゃん! 」
「あ、いや、そんな...そんな気はない...」
田中は思わずその剣幕で睨みつける小林に怯え、思わず目をそらす。だが、それによって周りの目が田中に睨みつけるような視線になっているのに初めて気が付く。
「なんで...なんでだよ...? 昨日も同じクラスだったろ...?」
大勢の冷ややかな視線に気が付いた田中は素直な疑問を漏らす。だが、それも記憶にないのか、小林は真っ向から否定する。
「あんたなんか知らないよ、背、高いし年上でしょ? 何でここにいるのさ?」
田中は本当に全員から忘れ去られていることの実感がその身にしみこんでいく。そして、田中は周りの視線に耐えきれずに叫んだ。
「なんだんだよお前ら!? 全員で俺を馬鹿にしてんのか!?」
すぐそばにいた、広川がビクッと動くところが視界の端に映るが、それを無視して、田中は走り出す。スニーカーの靴底がリズミカルに地面を蹴る音が周りに響いていく。視界はどんどん動いていき、校舎端の階段に到着する。田中は階段に座り込みながら考える。朝休みで、学校へ行く前の朝ご飯を食べて準備しているときは家族は正常だった。それがなぜ、学校へ来たと途端こうなのか、過去の記憶を振り返るが、何も心当たりはない。
やがて、学校を見回っていた担任の女教師と鉢合わせする。だが、田中は何も言わず、座ったまま、通り過ぎるのを待った。だが、教師は田中を無視することは無かった。
「あら?見ない子ね。 あなた、うちの生徒なの?」
やはり、自らを覚えている人はこの学校にはいないのかと、田中は顔も上げずに失望していた。この先、どうやってクラスとなじんでいけるだろうか、先生は自らをどう思うだろうか、心の中に様々な思いが渦巻いていた。
「生徒指導室へ連れて行くわよ? どこの学校の子なの?」
おっと、それはまずいと思ったのか、田中は勢いよく立ち上がる。制服は、しっかりとこの学校指定の物であるし、忘れられたといえど、この学校であるという証拠を出さねばならない。田中はブレザーの内側にしまわれた生徒手帳を差し出す。
「ほら、これでいいんですよね?」
田中はこうまでしても不安であった。制服はよく見えるように立ち上がったし、生徒手帳も教師に渡した。だが、これでも田中は不安であった。もしかすると、先生には今までいない子が突然転校などの情報一切なしで突然やってきたようにしか見えないだろうからと予想したのであった。
「...ちょっと職員室で相談しましょう」
先生は生徒手帳を預かったまま、職員室のある下の階へと歩き出す。田中もそれに追従する形で歩く。おそらくこの後も先生たちの誤解は解けないだろうと予測した田中の心は依然として暗いままだった。これから田中はどうやって過ごしていけばよいだろうか? Advanceさん(京都・14さい)からの相談
とうこう日:2020年7月17日みんなの答え:1件
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すごいです! もし、自分だったら...と思うと、怖いです。家に帰ったら、家族にも忘れられているのでしょうか...。原因が見つかるといいです!
「忘れる」じゃなく、「忘れられる」視点が面白いと思いました! はちみつさん(千葉・14さい)からの答え
とうこう日:2020年7月18日
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