過去のこと
ゆきの喉がゴクリとなった。
ブラウンがかった瞳は、角を曲がった少女から離れない。制服はゆきの家の近くの公立中学校のものだった。
「恵理子(えりこ)ちゃん……」
十年近く前の光景がまざまざとゆきの目の前に映った。
階段から突き飛ばされ、無視され、陰口を叩かれた。
小学校は遠くの私立を両親が選んだ。恵理子と同じ小学校に行かせるのは不安だったのだろう。いかに遠くの私立でも、ゆきは小学校が不安だった。平和に過ごせるか、穏便に過ごせるか、いじめられることはないか。必死に通った。だが、小学三年生になる頃にはすっかり忘れていた。中学校に上がった時、近くの公立高校の生徒が同じ学校の生徒をいじめるところを目撃した。それを見た瞬間、いじめの光景が鮮やかに蘇った。
それから、ゆきは学校に行けていない。友達もそこそこいたし、そこそこ楽しい生活だった。それが一気に崩され、毎日通っていた図書館も行く回数が激減した。本を買いに行くことも無くなり、最新刊が出た時は母が父にお金を渡して、銀行に行くついでなどに寄ってもらうようになった。同級生と会うのが嫌だった。恵理子に会うのが嫌だった。知っている人と会うのが怖かった。
ゆきは下唇を噛み締めた。
雨戸を握った左手が震えた。
こんなに苦しいのに、こんなに怖いのに、自分をいじめた奴はのうのうと生きている。
涙が滲んだ。
ゆきは思った。復讐してやると。その復讐は……。
「ゆき、送ってこうか?」
「ゆき、大丈夫か?」
ゆきは笑顔を見せた。赤いスカーフ、クリーム色のセーラー服に袖を通すのは久しぶりだった。
「大丈夫だよ。心配しないで」
通学鞄を手に持ち、ゆきは学校へ向かう。不思議と気分は軽かった。
「ゆき、久しぶり」
ゆきと最も仲の良い明(めい)が休み時間、ゆきに駆け寄ってきた。
「久しぶり。ごめんね、ずっと休んでて。いつも、電話ありがとう」
「ううん。電話も楽しかったから」
今だ。
「ねえ、明。今日、遊びに来ない?」
「良いの?他に誰、誘うの?」
「彩花(あやか)や日向(ひなた)」
明が嬉しそうに笑う。
今日から一週間、ゆきの通う学校は下校時刻がいつもより早くなる。恵理子の通う学校の下校時刻は調べてある。復讐に一歩、近づいた。
時間になると、ゆきは明、彩花、日向を外に誘った。そして、玄関を出たタイミングで、恵理子が家の前を通った。ゆきは恵理子に話しかけた。
「恵理子ちゃん」
話しかけると、恵理子は体ごとゆきの方を向いた。明るい笑みを浮かべる。
「誰?」
ショートカットに白い肌、明るい日向がゆきに聞いてきた。
「幼稚園が一緒でね。家も近くなの。私は遠い私立に通ってるけど」
小柄で、美人な彩花が聞いてきた。
「何で?」
ここでゆきは言い淀む。ややあってゆきは口を開いた。
「……嫌なことがあって」
聞いてはいけないと悟ったのだろう、三人は気まずそうに俯いた。
「恵理子ちゃん、学校はどう?なにもない?」
最後の言葉はなにもしてないかという意味が込められている。
「私、なにもしてないよ。ゆきちゃんをいじめて以来、いじめてないし」
三人が一斉に顔を上げた。恵理子を睨みつける。
「じゃあね」
ゆきは踵を返し、公園に向かう。
復讐完了。ゆきは三人と笑いながら、心の中でほくそ笑んだ。 ウクレレさん(静岡・13さい)からの相談
とうこう日:2020年7月28日みんなの答え:0件
ブラウンがかった瞳は、角を曲がった少女から離れない。制服はゆきの家の近くの公立中学校のものだった。
「恵理子(えりこ)ちゃん……」
十年近く前の光景がまざまざとゆきの目の前に映った。
階段から突き飛ばされ、無視され、陰口を叩かれた。
小学校は遠くの私立を両親が選んだ。恵理子と同じ小学校に行かせるのは不安だったのだろう。いかに遠くの私立でも、ゆきは小学校が不安だった。平和に過ごせるか、穏便に過ごせるか、いじめられることはないか。必死に通った。だが、小学三年生になる頃にはすっかり忘れていた。中学校に上がった時、近くの公立高校の生徒が同じ学校の生徒をいじめるところを目撃した。それを見た瞬間、いじめの光景が鮮やかに蘇った。
それから、ゆきは学校に行けていない。友達もそこそこいたし、そこそこ楽しい生活だった。それが一気に崩され、毎日通っていた図書館も行く回数が激減した。本を買いに行くことも無くなり、最新刊が出た時は母が父にお金を渡して、銀行に行くついでなどに寄ってもらうようになった。同級生と会うのが嫌だった。恵理子に会うのが嫌だった。知っている人と会うのが怖かった。
ゆきは下唇を噛み締めた。
雨戸を握った左手が震えた。
こんなに苦しいのに、こんなに怖いのに、自分をいじめた奴はのうのうと生きている。
涙が滲んだ。
ゆきは思った。復讐してやると。その復讐は……。
「ゆき、送ってこうか?」
「ゆき、大丈夫か?」
ゆきは笑顔を見せた。赤いスカーフ、クリーム色のセーラー服に袖を通すのは久しぶりだった。
「大丈夫だよ。心配しないで」
通学鞄を手に持ち、ゆきは学校へ向かう。不思議と気分は軽かった。
「ゆき、久しぶり」
ゆきと最も仲の良い明(めい)が休み時間、ゆきに駆け寄ってきた。
「久しぶり。ごめんね、ずっと休んでて。いつも、電話ありがとう」
「ううん。電話も楽しかったから」
今だ。
「ねえ、明。今日、遊びに来ない?」
「良いの?他に誰、誘うの?」
「彩花(あやか)や日向(ひなた)」
明が嬉しそうに笑う。
今日から一週間、ゆきの通う学校は下校時刻がいつもより早くなる。恵理子の通う学校の下校時刻は調べてある。復讐に一歩、近づいた。
時間になると、ゆきは明、彩花、日向を外に誘った。そして、玄関を出たタイミングで、恵理子が家の前を通った。ゆきは恵理子に話しかけた。
「恵理子ちゃん」
話しかけると、恵理子は体ごとゆきの方を向いた。明るい笑みを浮かべる。
「誰?」
ショートカットに白い肌、明るい日向がゆきに聞いてきた。
「幼稚園が一緒でね。家も近くなの。私は遠い私立に通ってるけど」
小柄で、美人な彩花が聞いてきた。
「何で?」
ここでゆきは言い淀む。ややあってゆきは口を開いた。
「……嫌なことがあって」
聞いてはいけないと悟ったのだろう、三人は気まずそうに俯いた。
「恵理子ちゃん、学校はどう?なにもない?」
最後の言葉はなにもしてないかという意味が込められている。
「私、なにもしてないよ。ゆきちゃんをいじめて以来、いじめてないし」
三人が一斉に顔を上げた。恵理子を睨みつける。
「じゃあね」
ゆきは踵を返し、公園に向かう。
復讐完了。ゆきは三人と笑いながら、心の中でほくそ笑んだ。 ウクレレさん(静岡・13さい)からの相談
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