眠らない劇場
「みんな、劇の途中で眠らないでね。なんか、発表する度にお客さんが半分以上寝ちゃうんだって。だから、最後まで眠らないで見てって誘ってくれた友達に言われてるの」
中学時代の友達にここの高校の劇に誘われたショートカットに、前髪をヘアピンで留めている千冬(ちふゆ)が俺たちに言った。
この高校の正門前の坂を登った疲れを微塵も見せない、俺の隣の席のお嬢様然としている幸江(ゆきえ)が小首を傾げた。
「発表する度、ですか」
「劇がつまらないとかそういうことなんじゃないのか?」
俺が言うと、
「いや、それは無いね。ここの演劇部は毎年全国大会に出てる」
優男な義明(よしあき)が反論した。
「詳しいな」
「従姉妹がここの高校に通っててね。天文部部員。天文部部室の化学準備室で惑星や星座の劇をしてるよ。部員が星座や惑星になりきって演技するの」
俺に言っているのなら残念だが、俺は宇宙に興味は無い。だが、幸江は違った。
「面白そう。劇が終わったら行ってみましょうよ」
「そうしようね、ゆっちゃん」
えっ。これは俺も行かねばなるまいか。
義明が天井を指差した。
「お客さんが眠っちゃう理由は秋も深まると外は寒い。体育館に入るとこの温かさで眠くなるんじゃないのかな」
「だからって毎回はおかしいよ」
ん?僅かな振動を感じた。
「床が揺れなかったか?」
「電車の振動だね。学校の傍に路線があって絶え間無く電車が通るんだ」
そう、義明が答えた時、劇の開始を知らせるブザーが鳴った。
照明が落とされた暗い室内の中で、唯一明るい舞台で劇が始まる。
二人の生徒が出てきて、無言でセットに座り、見つめ合った。
どこからか音楽が流れ始めた。ゆったりとしたリズムの、催眠療法にはうってつけの曲だ。
床が揺れた。
ストーリーは魅力的で、シーンごとに流れる音楽も興味をそそる。面白いが、俺は睡魔と戦っていた。欠伸を噛み殺し、閉じそうになる目を開ける。そうして序盤は過ぎ、中盤に入った時、俺は肩に重みを感じた。
ちらりと見ると、幸江だった。
俺の肩に頭を預け、こっくりこっくり船を漕いでいた。
思考が止まり、頭が真っ白になる。理性と本能が葛藤する。
俺は健全な男子高校生。あんなことやこんなことをすれば今後の生活に影響が出る。第一、本人の許可を得ずに行うのは犯罪だ。
助けを求めようと、義明や、その隣に座る千冬に視線を送ると、二人とも寝ていた。
義明は千冬の肩を枕にし、千冬もそんな義明に寄りかかるようにして眠っていた。
序盤にかかったあの音楽が流れ始める。その曲を聴いていた俺は閃いた。
劇の客の大半が眠ってしまう理由。
秋の深まった季節。この体育館に来るためには緩やかだが、長い坂を登って来なければならない。室内が暗くなり、劇が始まると、催眠療法に使われるような曲が流れ始め、暖かい室内にいる軽く疲れた体にはちょうどいい。電車の振動により、絶え間無く床は揺れ、電車に乗っているような感覚に陥り、眠ってしまう。
本で読んだが、電車に乗ると眠ってしまうのは電車の音が胎内にいたときの音に似ているからだとか。母ちゃんのお腹の中にいるような安心感で眠ってしまうらしい。
これは寝てしまうだろう。
「博道(ひろみち)さん……」
幸江の言葉に心臓が跳ね上がる。
恐る恐る幸江を窺うと、幸江はぐっすり寝ていた。
見応えのある劇も、眠気と本能の前では無力だということが俺が今日、抱いた唯一の感想だった。 まつりさん(静岡・13さい)からの相談
とうこう日:2020年8月8日みんなの答え:0件
中学時代の友達にここの高校の劇に誘われたショートカットに、前髪をヘアピンで留めている千冬(ちふゆ)が俺たちに言った。
この高校の正門前の坂を登った疲れを微塵も見せない、俺の隣の席のお嬢様然としている幸江(ゆきえ)が小首を傾げた。
「発表する度、ですか」
「劇がつまらないとかそういうことなんじゃないのか?」
俺が言うと、
「いや、それは無いね。ここの演劇部は毎年全国大会に出てる」
優男な義明(よしあき)が反論した。
「詳しいな」
「従姉妹がここの高校に通っててね。天文部部員。天文部部室の化学準備室で惑星や星座の劇をしてるよ。部員が星座や惑星になりきって演技するの」
俺に言っているのなら残念だが、俺は宇宙に興味は無い。だが、幸江は違った。
「面白そう。劇が終わったら行ってみましょうよ」
「そうしようね、ゆっちゃん」
えっ。これは俺も行かねばなるまいか。
義明が天井を指差した。
「お客さんが眠っちゃう理由は秋も深まると外は寒い。体育館に入るとこの温かさで眠くなるんじゃないのかな」
「だからって毎回はおかしいよ」
ん?僅かな振動を感じた。
「床が揺れなかったか?」
「電車の振動だね。学校の傍に路線があって絶え間無く電車が通るんだ」
そう、義明が答えた時、劇の開始を知らせるブザーが鳴った。
照明が落とされた暗い室内の中で、唯一明るい舞台で劇が始まる。
二人の生徒が出てきて、無言でセットに座り、見つめ合った。
どこからか音楽が流れ始めた。ゆったりとしたリズムの、催眠療法にはうってつけの曲だ。
床が揺れた。
ストーリーは魅力的で、シーンごとに流れる音楽も興味をそそる。面白いが、俺は睡魔と戦っていた。欠伸を噛み殺し、閉じそうになる目を開ける。そうして序盤は過ぎ、中盤に入った時、俺は肩に重みを感じた。
ちらりと見ると、幸江だった。
俺の肩に頭を預け、こっくりこっくり船を漕いでいた。
思考が止まり、頭が真っ白になる。理性と本能が葛藤する。
俺は健全な男子高校生。あんなことやこんなことをすれば今後の生活に影響が出る。第一、本人の許可を得ずに行うのは犯罪だ。
助けを求めようと、義明や、その隣に座る千冬に視線を送ると、二人とも寝ていた。
義明は千冬の肩を枕にし、千冬もそんな義明に寄りかかるようにして眠っていた。
序盤にかかったあの音楽が流れ始める。その曲を聴いていた俺は閃いた。
劇の客の大半が眠ってしまう理由。
秋の深まった季節。この体育館に来るためには緩やかだが、長い坂を登って来なければならない。室内が暗くなり、劇が始まると、催眠療法に使われるような曲が流れ始め、暖かい室内にいる軽く疲れた体にはちょうどいい。電車の振動により、絶え間無く床は揺れ、電車に乗っているような感覚に陥り、眠ってしまう。
本で読んだが、電車に乗ると眠ってしまうのは電車の音が胎内にいたときの音に似ているからだとか。母ちゃんのお腹の中にいるような安心感で眠ってしまうらしい。
これは寝てしまうだろう。
「博道(ひろみち)さん……」
幸江の言葉に心臓が跳ね上がる。
恐る恐る幸江を窺うと、幸江はぐっすり寝ていた。
見応えのある劇も、眠気と本能の前では無力だということが俺が今日、抱いた唯一の感想だった。 まつりさん(静岡・13さい)からの相談
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