一陣の風
私は三日以内に死ぬ。
私がかかった病気は地球に隕石が衝突する確率よりも低かった。本当に稀な病気。
なんで私が?そう思った。何度も、何度も。
ノートに書いた文を私は見る。
“人間はいつか死ぬのに、なんで生きるの?”
この問いに答えられる人間は果たして何人いるだろうか。
苦しくても、傷ついても、必死に生きても、死はすぐ目の前にある。楽しくて、快楽にまみれた人生を送っても、今日、死ぬかもしれない。
生きたのに、死ぬ。
プラスマイナスゼロ。
私なんて、三日以内に死ぬ。すぐ目の前どころじゃない。
時計を見ると、検査まであと少しだった。
準備のためノートを閉じると、部屋が光った。
手で目を覆う。けれど、光は指の隙間から入ってくる。
強く、白い光だった。
何これと思った途端、意識がふっと途切れた。
「うわっ」
ドンっと土の上に着地した。
顔をしかめ、お尻をさすりながら立ち上がる。
辺りを見回すと、のどかな場所にいた。
山々が広がり、木は青々と茂り、鳥が鳴き、太陽に反射してキラキラと光る、水色の川が流れる。
イマドキ、見かけないくらいのどかな場所だ。
こんな場所があるなら移住したいくらいだ。
けれど、
「ここ、どこ」
夢だとは思えない。
白く、強い光ははっきりと覚えているし、幻覚とも思えない。
つまり、これは現実。
私は歩き出した。
何か分かりますようにと祈り出した。
怖い。
街がちっとも見えない。民家も、街灯も一部分も見えない。
怖い。
ここが怖い。
何も見えないのが恐ろしい。
足が止まった時、どこからか声が聞こえた。
「相葉嘉代(あいば かよ)」
重々しく、尊大な声は空から聞こえた気がして、空を見上げた。
「……誰?」
「神だ」
「は?」
神?
神様なんて、いるはずない。
病気にかかりませんようにとお願いした翌日、具合が悪くなって病気が発覚した。
御百度参りをしても、お父さんの病気は治らず死んでしまった。
お願い事が叶ったことなんて、一度もない。
経験から言って、神様はいない。もしいても、願いを叶えることなんて無い。
「神様なら、お父さんの病気を治して欲しかった」
「それは出来なかった。お前の父親がかかった病は稀な病ではなかった」
「稀な病にかかった人だけ、ここに来られると?」
「そういうことだ」
と、答えると、
「お前がここ、私が作った世界に住むことを決めたら、永遠の生を得ることが出来る。お前がいた世界では死んだことになる。この世界は食べ物も充実してるぞ」
「……」
「断れば、もとのお前が住んでいた世界に戻ることになる」
悩んだのは一瞬だけだった。
「もとの世界に戻る。この世界には住まない」
神様は驚いたそぶりも見せなかった。
「何故だ」
「生きて死ぬ。これこそが人間なんじゃないの?永遠の命なんて欲しくないし、得てもきっと、良いことなんてない。だって、人が死んで、自分の周りから消えていく。そんなの寂しいし、虚しいよ。
生きるのは死ぬためじゃないの?死んでこそ、分かる何かがあるんじゃないの?それを生きてる状態で掴みとるために生きてるんじゃないの?生きることこそに意味があるんじゃないの?模索して、失敗して、成功して。死んでから見える世界が、それの集合体なのかもね。そう思わないと、必死で、傷ついても生きてる人が報われないよ。
それに、私は家族に会いたい。
生きて、ずっと出来てなかったお父さんのお墓参りもしたいし、おばあちゃんやおじいちゃん、お母さんに会いたいよ」
神様。酷いよ。稀な病気にかかった人だけって。気づいたら、私は叫んでいた。
「何で死なせたの!ずっと、働いて、家族思いで、素敵なお父さんだった。そんな人を殺して何が楽しいの!」
「素敵な人は欲しい。死後の世界において、清涼剤のような、潤滑油のような役目を果たす」
私は黙りこくった。
何も言い返せない。
「お前も欲しいところだ。だが、お前は簡単には死なない」
神様が何か言った気がするけれど、私の意識は朦朧としてよく聞き取れなかった。
気づくと、ふかふかの病室のベッドに腰掛けていた。
時刻は私はあの、よく分からない世界に行った時間と変わらなかった。
担当医とお母さんが病室に入ってきた。
お母さんが私に抱きつく。
「陶子(とうこ)、病気、治ったって」
夢かと思った。けれど、これは間違いなく、現実だった。
「病気が治ったんです。奇跡ですよ」
担当医が嬉しそうに言った。
風が一陣、吹いた気がした。 ダンゴムシさん(静岡・13さい)からの相談
とうこう日:2020年8月12日みんなの答え:1件
私がかかった病気は地球に隕石が衝突する確率よりも低かった。本当に稀な病気。
なんで私が?そう思った。何度も、何度も。
ノートに書いた文を私は見る。
“人間はいつか死ぬのに、なんで生きるの?”
この問いに答えられる人間は果たして何人いるだろうか。
苦しくても、傷ついても、必死に生きても、死はすぐ目の前にある。楽しくて、快楽にまみれた人生を送っても、今日、死ぬかもしれない。
生きたのに、死ぬ。
プラスマイナスゼロ。
私なんて、三日以内に死ぬ。すぐ目の前どころじゃない。
時計を見ると、検査まであと少しだった。
準備のためノートを閉じると、部屋が光った。
手で目を覆う。けれど、光は指の隙間から入ってくる。
強く、白い光だった。
何これと思った途端、意識がふっと途切れた。
「うわっ」
ドンっと土の上に着地した。
顔をしかめ、お尻をさすりながら立ち上がる。
辺りを見回すと、のどかな場所にいた。
山々が広がり、木は青々と茂り、鳥が鳴き、太陽に反射してキラキラと光る、水色の川が流れる。
イマドキ、見かけないくらいのどかな場所だ。
こんな場所があるなら移住したいくらいだ。
けれど、
「ここ、どこ」
夢だとは思えない。
白く、強い光ははっきりと覚えているし、幻覚とも思えない。
つまり、これは現実。
私は歩き出した。
何か分かりますようにと祈り出した。
怖い。
街がちっとも見えない。民家も、街灯も一部分も見えない。
怖い。
ここが怖い。
何も見えないのが恐ろしい。
足が止まった時、どこからか声が聞こえた。
「相葉嘉代(あいば かよ)」
重々しく、尊大な声は空から聞こえた気がして、空を見上げた。
「……誰?」
「神だ」
「は?」
神?
神様なんて、いるはずない。
病気にかかりませんようにとお願いした翌日、具合が悪くなって病気が発覚した。
御百度参りをしても、お父さんの病気は治らず死んでしまった。
お願い事が叶ったことなんて、一度もない。
経験から言って、神様はいない。もしいても、願いを叶えることなんて無い。
「神様なら、お父さんの病気を治して欲しかった」
「それは出来なかった。お前の父親がかかった病は稀な病ではなかった」
「稀な病にかかった人だけ、ここに来られると?」
「そういうことだ」
と、答えると、
「お前がここ、私が作った世界に住むことを決めたら、永遠の生を得ることが出来る。お前がいた世界では死んだことになる。この世界は食べ物も充実してるぞ」
「……」
「断れば、もとのお前が住んでいた世界に戻ることになる」
悩んだのは一瞬だけだった。
「もとの世界に戻る。この世界には住まない」
神様は驚いたそぶりも見せなかった。
「何故だ」
「生きて死ぬ。これこそが人間なんじゃないの?永遠の命なんて欲しくないし、得てもきっと、良いことなんてない。だって、人が死んで、自分の周りから消えていく。そんなの寂しいし、虚しいよ。
生きるのは死ぬためじゃないの?死んでこそ、分かる何かがあるんじゃないの?それを生きてる状態で掴みとるために生きてるんじゃないの?生きることこそに意味があるんじゃないの?模索して、失敗して、成功して。死んでから見える世界が、それの集合体なのかもね。そう思わないと、必死で、傷ついても生きてる人が報われないよ。
それに、私は家族に会いたい。
生きて、ずっと出来てなかったお父さんのお墓参りもしたいし、おばあちゃんやおじいちゃん、お母さんに会いたいよ」
神様。酷いよ。稀な病気にかかった人だけって。気づいたら、私は叫んでいた。
「何で死なせたの!ずっと、働いて、家族思いで、素敵なお父さんだった。そんな人を殺して何が楽しいの!」
「素敵な人は欲しい。死後の世界において、清涼剤のような、潤滑油のような役目を果たす」
私は黙りこくった。
何も言い返せない。
「お前も欲しいところだ。だが、お前は簡単には死なない」
神様が何か言った気がするけれど、私の意識は朦朧としてよく聞き取れなかった。
気づくと、ふかふかの病室のベッドに腰掛けていた。
時刻は私はあの、よく分からない世界に行った時間と変わらなかった。
担当医とお母さんが病室に入ってきた。
お母さんが私に抱きつく。
「陶子(とうこ)、病気、治ったって」
夢かと思った。けれど、これは間違いなく、現実だった。
「病気が治ったんです。奇跡ですよ」
担当医が嬉しそうに言った。
風が一陣、吹いた気がした。 ダンゴムシさん(静岡・13さい)からの相談
とうこう日:2020年8月12日みんなの答え:1件
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おもしろい!
最後の方感動しました!私じゃこんなの書けないです!
病気が治ったのは神様のおかげ?って想像させられて...
これも作戦ですか? 笑
面白かったです! kittyさん(東京・11さい)からの答え
とうこう日:2020年8月13日
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