鈍感なあいつへ
「今からゲームね! 道路の白線しか踏んじゃいけないゲーム!」
そう言って、俺はまだ参加するとは言ってないのに、琴乃は勝手に一人ではじめる。まるで小学生。いや、幼稚園児?
「りょーまー、早く参加してよ」
「はあ? ヤだよ。ガキじゃねえんだし」
「まだ未成年なんでガキです〜」
「琴乃って五歳くらいで成長止まってそうだよな」
「うっさい! あ、負けたほうがジュースおごりね」
「何勝手に話進めてんだよ」
そう言いつつも、小学生ですらやらないようなくだらないゲームに参加してしまうのも、惚れた弱みってやつだ。
琴乃とは幼なじみっていう相柄で、小さいころからよく言えば天真爛漫、悪い言い方すると永遠のお子ちゃまの琴乃に振り回されてきた。そして、次第に琴乃のことが好きになった。
「亮真、私さ、告られたんだ」
さらっとなんでもないことのように言うから、思わず聞き流しそうになった。俺が返事しないから不審に思ったのか琴乃は振り返って、呆然とする俺を指さして笑う。
「なにその顔〜。私は絶対モテないって思ってたわけ?」
「そんなこと言ってねえだろ」
「言ってなくてもわかるもん」
わかるわけねえじゃん。ずっとそばにいても俺の気持ちに気がつかないほど鈍感なくせに。
「亮真とは長い付き合いだからね、大概のことは言わなくてもわかっちゃうんだから」
いひひ、といたずらっ子のように琴乃が笑う。
「……お前さあ、大概のことがわかるんなら、なんで一番大事なことは気づかないんだよ」
「へ? なんか言った?」
「別に」
そっけなく答えると、琴乃はちょっと唇を尖らせて拗ねた顔になった。でも、すぐに笑顔に戻る。琴乃に表情は本当にくるくるとよく変わる。だから、見ていてちっともあきない。
「でね、すごくいい人なんだよ。優しいし、亮真みたいに口悪くないし」
「なんで俺と比較するんだよ」
「だって、亮真のこと一番わかってんの私じゃん」
ふふんと得意げに笑う琴乃が、ちょっとだけ憎たらしい。一体その自信はどこからくるんだ。
「で、どうすんの。お前」
「何が?」
「付き合うの、付き合わないの」
少し横暴にたずねると、琴乃は立ち止まって考え込むように空を見上げた。
「……亮真さあ、」
「あ?」
「もし、私がその人と付き合ったらさみしい?」
真剣な面持ちで琴乃がたずねてきた。
この天然人たらしめ。どれだけ動揺させれば気が済むんだ。
「いや、別に」
「別にって何よー。ちょっとくらいさみしがってくれたっていいじゃない」
「琴乃がそいつのこと好きなら、応援するっつってんの」
嘘。応援なんか絶対しない。絶対にできない。
「そっかぁ。亮真は私に彼氏できちゃっても平気なのか」
急にしんみりした口調で、琴乃がつぶやく。さみしいのをこらえた、無理に作った笑顔。琴乃は嘘が下手だ。だから、作り笑いかどうかなんて一発でわかる。琴乃のそんな顔に俺は戸惑った。
「何。どうしたわけ」
「亮真って鈍感だよね」
え、それがお前がいうわけ? というより、なんで琴乃がそんな泣きそうな顔するんだ。
「私は嫌だよ。亮真に彼女できちゃったら。すっごく嫌だし、嫉妬だってするかも」
「琴乃?」
「言わないとわかんない? じゃあ、言うよ。一回だけしか言わないから。亮真、私ね、亮真が好き。ずっとずーっと、片思いしてたの」
今にも泣きだしそうな、でも凛とした態度で琴乃が俺をまっすぐ見つめる。
五秒間、静寂が広がった。
琴乃がふっと微笑む。
「……ごめん。驚かせて。今日で最後だから。もう言わないから、だから忘れて」
「忘れねえよ!!!」
自分でも驚くぐらい、大きな声が出た。
「忘れるはずねえじゃん。俺のこと一番わかってる〜とか言いながら、俺が何年も片思いしてることに気がつかないような鈍すぎる幼なじみと両想いだってわかったのにさ。なんで忘れなきゃなんねえんだよ」
「りょ、ま・・・・・・?」
「正直に言う。琴乃が告られたって聞かされたとき、俺ダセぇけどめちゃくちゃ嫉妬した。琴乃がほかのやつと付き合ったって、絶対応援なんかできないし、絶対嫌だ」
「ほんとに……? ほんとのほんと?」
「嘘なんか言わねえよ」
琴乃がきゅっと唇をかんだ。それでもこらえきれず、途切れ途切れ嗚咽が漏れる。俺はそっと琴乃に近づいて、驚かせないようにゆっくり頭をなでた。そして、ちょっとためらったものの、そのまま自分のほうへ引き寄せた。
「俺と付き合ってください」
耳元でささやくと、琴乃が少し身じろぎした。その耳が赤い。
「……はい。よろしくお願いします」
はにかんだ笑顔で、琴乃が俺を見上げる。
「あっ」
琴乃が小さく叫ぶ。足元を見ると、二人とも白線から出ていた。ゲームオーバーだ。二人で顔を見合わせて、どちらかともなく笑い声をあげた。
END 如月さん(選択なし・14さい)からの相談
とうこう日:2020年8月22日みんなの答え:1件
そう言って、俺はまだ参加するとは言ってないのに、琴乃は勝手に一人ではじめる。まるで小学生。いや、幼稚園児?
「りょーまー、早く参加してよ」
「はあ? ヤだよ。ガキじゃねえんだし」
「まだ未成年なんでガキです〜」
「琴乃って五歳くらいで成長止まってそうだよな」
「うっさい! あ、負けたほうがジュースおごりね」
「何勝手に話進めてんだよ」
そう言いつつも、小学生ですらやらないようなくだらないゲームに参加してしまうのも、惚れた弱みってやつだ。
琴乃とは幼なじみっていう相柄で、小さいころからよく言えば天真爛漫、悪い言い方すると永遠のお子ちゃまの琴乃に振り回されてきた。そして、次第に琴乃のことが好きになった。
「亮真、私さ、告られたんだ」
さらっとなんでもないことのように言うから、思わず聞き流しそうになった。俺が返事しないから不審に思ったのか琴乃は振り返って、呆然とする俺を指さして笑う。
「なにその顔〜。私は絶対モテないって思ってたわけ?」
「そんなこと言ってねえだろ」
「言ってなくてもわかるもん」
わかるわけねえじゃん。ずっとそばにいても俺の気持ちに気がつかないほど鈍感なくせに。
「亮真とは長い付き合いだからね、大概のことは言わなくてもわかっちゃうんだから」
いひひ、といたずらっ子のように琴乃が笑う。
「……お前さあ、大概のことがわかるんなら、なんで一番大事なことは気づかないんだよ」
「へ? なんか言った?」
「別に」
そっけなく答えると、琴乃はちょっと唇を尖らせて拗ねた顔になった。でも、すぐに笑顔に戻る。琴乃に表情は本当にくるくるとよく変わる。だから、見ていてちっともあきない。
「でね、すごくいい人なんだよ。優しいし、亮真みたいに口悪くないし」
「なんで俺と比較するんだよ」
「だって、亮真のこと一番わかってんの私じゃん」
ふふんと得意げに笑う琴乃が、ちょっとだけ憎たらしい。一体その自信はどこからくるんだ。
「で、どうすんの。お前」
「何が?」
「付き合うの、付き合わないの」
少し横暴にたずねると、琴乃は立ち止まって考え込むように空を見上げた。
「……亮真さあ、」
「あ?」
「もし、私がその人と付き合ったらさみしい?」
真剣な面持ちで琴乃がたずねてきた。
この天然人たらしめ。どれだけ動揺させれば気が済むんだ。
「いや、別に」
「別にって何よー。ちょっとくらいさみしがってくれたっていいじゃない」
「琴乃がそいつのこと好きなら、応援するっつってんの」
嘘。応援なんか絶対しない。絶対にできない。
「そっかぁ。亮真は私に彼氏できちゃっても平気なのか」
急にしんみりした口調で、琴乃がつぶやく。さみしいのをこらえた、無理に作った笑顔。琴乃は嘘が下手だ。だから、作り笑いかどうかなんて一発でわかる。琴乃のそんな顔に俺は戸惑った。
「何。どうしたわけ」
「亮真って鈍感だよね」
え、それがお前がいうわけ? というより、なんで琴乃がそんな泣きそうな顔するんだ。
「私は嫌だよ。亮真に彼女できちゃったら。すっごく嫌だし、嫉妬だってするかも」
「琴乃?」
「言わないとわかんない? じゃあ、言うよ。一回だけしか言わないから。亮真、私ね、亮真が好き。ずっとずーっと、片思いしてたの」
今にも泣きだしそうな、でも凛とした態度で琴乃が俺をまっすぐ見つめる。
五秒間、静寂が広がった。
琴乃がふっと微笑む。
「……ごめん。驚かせて。今日で最後だから。もう言わないから、だから忘れて」
「忘れねえよ!!!」
自分でも驚くぐらい、大きな声が出た。
「忘れるはずねえじゃん。俺のこと一番わかってる〜とか言いながら、俺が何年も片思いしてることに気がつかないような鈍すぎる幼なじみと両想いだってわかったのにさ。なんで忘れなきゃなんねえんだよ」
「りょ、ま・・・・・・?」
「正直に言う。琴乃が告られたって聞かされたとき、俺ダセぇけどめちゃくちゃ嫉妬した。琴乃がほかのやつと付き合ったって、絶対応援なんかできないし、絶対嫌だ」
「ほんとに……? ほんとのほんと?」
「嘘なんか言わねえよ」
琴乃がきゅっと唇をかんだ。それでもこらえきれず、途切れ途切れ嗚咽が漏れる。俺はそっと琴乃に近づいて、驚かせないようにゆっくり頭をなでた。そして、ちょっとためらったものの、そのまま自分のほうへ引き寄せた。
「俺と付き合ってください」
耳元でささやくと、琴乃が少し身じろぎした。その耳が赤い。
「……はい。よろしくお願いします」
はにかんだ笑顔で、琴乃が俺を見上げる。
「あっ」
琴乃が小さく叫ぶ。足元を見ると、二人とも白線から出ていた。ゲームオーバーだ。二人で顔を見合わせて、どちらかともなく笑い声をあげた。
END 如月さん(選択なし・14さい)からの相談
とうこう日:2020年8月22日みんなの答え:1件
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二人ともかわいい♪♪ こんにちは!!
とてもいい話で、キュンキュン
しました!
二人とも鈍感っていうか…笑
かわいいですねぇー♪♪
最後の二人ともゲームオーバーって
いう終わり方も好きです!!
素敵なお話ありがとうございます!
ねこじゅんさん(選択なし・13さい)からの答え
とうこう日:2020年8月23日
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