今日のことを忘れることはないでしょう。
若葉がそよ風に揺らぐ眩しい夏の日。夏海(なつみ)は色褪せたぐしゃぐしゃな所詮宝の地図と言うそれを片手に、あんぐりと口を開け目の前の大木を見つめていた。夏海の持つ宝の地図が示すのは間違いなくここなわけで、その証拠にきちんと地図には赤いバツ印がつけられてある。しかし大木の周りは特段変わった様子はなく、あるのは野生のリスと周りに繁く木々だけ。野生の気配はあれども、宝の気配は一切しなかった。
無駄足だったのか、それともお茶目な母によるいつものイタズラだったのか。
そんな思考が頭を過り、夏海は大きなため息とともにがくんと肩を落とした。
そもそも何故こんなことになってしまったのか。自分は確か病気で死んだ母の遺品を父と共に整理をしていたはずだったのに。いつの間にか母の遺品からこんな宝の地図を見つけて、いつの間にか『私の宝、ここに眠る』なんてそれらしい言葉に踊らされて、いつの間にかこんな森の奥まで足を運んで。何を馬鹿なことをしているのだろうか。宝物がないなんてオチ、分かりきっていたことじゃないか。それでも心のどこかで期待していたのだろう。何も無いそれを見た時夏海の心を満たすのはどうしようもない虚無感だった。
「......ねぇ、母さん。母さんの宝物私見たかったよ。形見にして一生大切にしたかった。ちょっと早すぎない?母さんはいつもせっかちすぎるよ.....」
大木に歩み寄り人差し指でそっと木目をなぞる。固くて太い、それでいてどこか包み込んでくれるような暖かさを持つ大木が、いつだって真っ直ぐで芯が強く優しかった母と重なりツーンと痛む鼻をすすった。
「なに、これ?」
何も無いのなら何にもならない。そう思い大木に背を向け帰路につこうとしたその時だった。それを見つけたのは。夏海目線の先にあったのは、カッターか何かで掘られたのであろうがたがたな直線で大木に書かれた『コノシタホレ』の文字だった。ここ最近まで続いていた雨風のせいでやけに古めかしいその6文字は、太陽の光を纏い暑苦しくそこに佇んでいた。
──母の残したものだと。
直感的にそう悟った夏海ははっと息を飲むと、急いでその通りにした。
「この下って根元......この辺かな?」
夏海は雑に掘るべき場所の目星をつけると、四つん這いになって膝をつけ、早速素手で大木の根元を掘り起こし始めた。どのくらい掘ればいいのかは分からない。宝物が一体何なのかも知らない。蝉は相変わらずうるさくて、集中しようにも中々出来ない。それでも夏海は一心不乱に宝物を目にするために掘り進めていった。だらだらと滴り落ちる汗は留まることを知らず、そればかりか爪の間に土が入りこむ。不快感は増すばかりでも、それはこの胸の高揚と比べたらちっぽけなものだった。
「あ、あった!!」
一体どれだけの時間が経ったのだろう。
母の言う宝物を見つける頃には、夏海はハァハァと息を切らし頬を火照らせていた。夏海の視線の先にあったのは自分がよく好んで食べていたクッキーの缶だった。それを手に取り一瞬開けるのを躊躇ったが、それでもここまでやって開けないなんて選択肢は取れるはずもなく、生唾飲み下すと固く閉められた蓋を開けた。
「これは、私の写真......と手紙?」
中に入っていたのは夏海の幼い頃の写真と3行ほどの短い手紙だった。写真に刻まれた日付は約10年ほど前を指していて、ちょうど夏海が4.5歳の頃のものだった。
「うわ......!懐かし!これ健太君じゃない?もう何年あってないんだろう」
それは夏海が遊んでいるところを撮ったものや、運動会、合唱祭などの行事ごと。普段の日常を撮ったものと様々で、夏海は思わずほころぶと楽しそうにまじまじと見つめた。
「あ、そうだこの手紙は......」
しばらく懐かしくもどこか愛おしそうにその写真を眺めていたが、ふと手に持っていた手紙が視界の隅に入り夏海は1度写真を缶の中に戻した。可愛らしい苺の便箋に書かれた短い手紙。読み切るのにはそれほど時間を要さないはずのそれを、夏海はゆっくり勿体ぶるように読み始めた。
『夏海へ
今までありがとう!夏海が子供だなんて母さんは幸せ者ね。母さんの宝物は夏海よ、大好き!母さんより』
......あぁ、これは。なんだかもう敵わないなぁ。
たったこれだけの手紙。3行ほどの短い短い手紙。それなのに、今まで貰った手紙のどれよりも嬉しくて、夏海は熱くなる目頭を押さえはぁと深呼吸より深く息を吐いた。
「分かったよ、母さん。母さんの宝物私が大切にしてあげる」
言うと夏海は写真の中から1枚選び、胸にあるロケットペンダントに入れた。母と父と、それから夏海の写った幸せそうな写真。夏海は数秒それを眺めると心底幸せそうに微笑んだ。
さぁ、今日も帰ろう。自分の居るべき場所へと。
なひゆさん(選択なし・14さい)からの相談
とうこう日:2020年8月24日みんなの答え:2件
無駄足だったのか、それともお茶目な母によるいつものイタズラだったのか。
そんな思考が頭を過り、夏海は大きなため息とともにがくんと肩を落とした。
そもそも何故こんなことになってしまったのか。自分は確か病気で死んだ母の遺品を父と共に整理をしていたはずだったのに。いつの間にか母の遺品からこんな宝の地図を見つけて、いつの間にか『私の宝、ここに眠る』なんてそれらしい言葉に踊らされて、いつの間にかこんな森の奥まで足を運んで。何を馬鹿なことをしているのだろうか。宝物がないなんてオチ、分かりきっていたことじゃないか。それでも心のどこかで期待していたのだろう。何も無いそれを見た時夏海の心を満たすのはどうしようもない虚無感だった。
「......ねぇ、母さん。母さんの宝物私見たかったよ。形見にして一生大切にしたかった。ちょっと早すぎない?母さんはいつもせっかちすぎるよ.....」
大木に歩み寄り人差し指でそっと木目をなぞる。固くて太い、それでいてどこか包み込んでくれるような暖かさを持つ大木が、いつだって真っ直ぐで芯が強く優しかった母と重なりツーンと痛む鼻をすすった。
「なに、これ?」
何も無いのなら何にもならない。そう思い大木に背を向け帰路につこうとしたその時だった。それを見つけたのは。夏海目線の先にあったのは、カッターか何かで掘られたのであろうがたがたな直線で大木に書かれた『コノシタホレ』の文字だった。ここ最近まで続いていた雨風のせいでやけに古めかしいその6文字は、太陽の光を纏い暑苦しくそこに佇んでいた。
──母の残したものだと。
直感的にそう悟った夏海ははっと息を飲むと、急いでその通りにした。
「この下って根元......この辺かな?」
夏海は雑に掘るべき場所の目星をつけると、四つん這いになって膝をつけ、早速素手で大木の根元を掘り起こし始めた。どのくらい掘ればいいのかは分からない。宝物が一体何なのかも知らない。蝉は相変わらずうるさくて、集中しようにも中々出来ない。それでも夏海は一心不乱に宝物を目にするために掘り進めていった。だらだらと滴り落ちる汗は留まることを知らず、そればかりか爪の間に土が入りこむ。不快感は増すばかりでも、それはこの胸の高揚と比べたらちっぽけなものだった。
「あ、あった!!」
一体どれだけの時間が経ったのだろう。
母の言う宝物を見つける頃には、夏海はハァハァと息を切らし頬を火照らせていた。夏海の視線の先にあったのは自分がよく好んで食べていたクッキーの缶だった。それを手に取り一瞬開けるのを躊躇ったが、それでもここまでやって開けないなんて選択肢は取れるはずもなく、生唾飲み下すと固く閉められた蓋を開けた。
「これは、私の写真......と手紙?」
中に入っていたのは夏海の幼い頃の写真と3行ほどの短い手紙だった。写真に刻まれた日付は約10年ほど前を指していて、ちょうど夏海が4.5歳の頃のものだった。
「うわ......!懐かし!これ健太君じゃない?もう何年あってないんだろう」
それは夏海が遊んでいるところを撮ったものや、運動会、合唱祭などの行事ごと。普段の日常を撮ったものと様々で、夏海は思わずほころぶと楽しそうにまじまじと見つめた。
「あ、そうだこの手紙は......」
しばらく懐かしくもどこか愛おしそうにその写真を眺めていたが、ふと手に持っていた手紙が視界の隅に入り夏海は1度写真を缶の中に戻した。可愛らしい苺の便箋に書かれた短い手紙。読み切るのにはそれほど時間を要さないはずのそれを、夏海はゆっくり勿体ぶるように読み始めた。
『夏海へ
今までありがとう!夏海が子供だなんて母さんは幸せ者ね。母さんの宝物は夏海よ、大好き!母さんより』
......あぁ、これは。なんだかもう敵わないなぁ。
たったこれだけの手紙。3行ほどの短い短い手紙。それなのに、今まで貰った手紙のどれよりも嬉しくて、夏海は熱くなる目頭を押さえはぁと深呼吸より深く息を吐いた。
「分かったよ、母さん。母さんの宝物私が大切にしてあげる」
言うと夏海は写真の中から1枚選び、胸にあるロケットペンダントに入れた。母と父と、それから夏海の写った幸せそうな写真。夏海は数秒それを眺めると心底幸せそうに微笑んだ。
さぁ、今日も帰ろう。自分の居るべき場所へと。
なひゆさん(選択なし・14さい)からの相談
とうこう日:2020年8月24日みんなの答え:2件
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すごい! 文書くのうまいですね!
教えて欲しい!
最後の終わり方、最高!
次回も楽しみにしています! ひーたんさん(兵庫・11さい)からの答え
とうこう日:2020年8月25日 -
凄い! 凄い!言い回しとか、ストーリーとか、終わり方とかめっちゃ凄い!
悲しいお話だけど、前向きになれる様なお話で、面白かったです! otoufuさん(選択なし・12さい)からの答え
とうこう日:2020年8月25日
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