君と過ごす最期の夏
夏真っ盛りと言っても差し支えないであろう今日この頃。ついこの間まで梅雨前線が停滞し雨続きだった日常も、ジリジリと肌を焦がす太陽が見事に夏らしく塗り替えてしまった。太陽めがけてぐんぐんと育つひまわりはそれは見事に咲き誇り、グリーンカーテンとして育てられたゴーヤもそろそろ収穫ができる頃だろう。
そんな太陽が自己主張をする日に、先程からだらだらと留まることを知らない汗を、向葵(あおい)は心底不愉快そうに腕で拭い顔をしかめた。
「あっぢぃ......」
「ははっ、向葵暑そうだね」
あまりの暑さに意図せず漏れた向葵のぼやきを、汗ひとつ流さず涼し気な顔で拾ったのは陽菜(ひな)だった。どこか揶揄ようなその言い方に向葵ははぁと深くため息をつき、今も尚暑さを感じさせない顔で隣を歩く陽菜をじとっと見つめた。
「お前なんでそんな涼し気なんだよ」
「まぁ、私死んでるしね」
まるで明日の天気晴れらしいよ!と同じ要領でニカッと笑いながら言ってみせる陽菜に、向葵は特段驚きもせずあー、そういやそうだったなと返すとぱたぱたと手で仰いだ。
「いつまでここに居られんの」
「んー、あと10分ってところかな」
「......そか」
陽菜は可愛らしく小首をこてっと傾げたまま簡潔に述べた。
あと10分。タイムリミットがもう目前まで迫ってると言う事実を知った向葵は、どこか悲しそうに、けれどなるべくその事が陽菜に悟られぬように視線を向日葵に移した。太陽の光をいっぱいに吸い込んだ黄色が嫌味ったらしく笑いかけてくる。
「でも中々に楽しかったよ!ほら、私がここに戻ってきてすぐ行ったお祭りとか!向葵ったらかき氷にがっついて頭キーンってしてさ!」
数秒の沈黙で何がを察したのであろう。陽菜はなるだけ意気揚々と思い出を語ると、意地悪そうに目を細め向葵に視線を移した。バチりと視線が交わり、そのことは忘れてくれと言わんばかりの向葵の恥ずかしげな表情が、陽菜の瞳いっぱいに映し出される。向葵は話を逸らすように再度暑いと呟いた。
それから、たわいもない話を淡々と繰り返す。あの時のあれ楽しかったねとか、あそこから見た景色は綺麗だったとか。特に中身はなくて、それでもこの当たり前で日常的な時間が、向葵はどうしようもなく心地よくてしかたがなかった。
「あっ!そういえば私、明日誕生日だった!」
時間的にもこれが最後の会話になるだろう時。先に口を開いたのは陽菜の方だった。今、思い出したと言うように、大きな声で目を見開き言う陽菜に向葵はあー、と適当に言葉を零した。
「そういやそうだったな」
「何、向葵も忘れてたの?」
「はっ、まさか。言ったら陽菜誕生日プレゼントせがるだろ?わざと言わなかったんだよ」
「何それ、酷いな。幼馴染じゃん。誕生日プレゼントくらいちょうだいよ」
頭の後ろで手を組みぶっきらぼうに答える向葵に、陽菜は拗ねたような声音でぷんすと向葵とは反対の方向を向いた。もう少しで消えてしまうというのに。何ら変わりない様子の陽菜を向葵はちらっと横目で見た。
「......分かった。何が欲しいんだよ」
「え?いいの?って私もうすぐ消えるし意味無くない?」
「墓に持ってってやるよ」
「ほんとに!?やったー!!」
向葵の優しい提案に、ひよこのようにぴょこぴょことはね回る陽菜を、向葵は面倒くさそうに、けれどどこか幸せそうに制止した。
「んで?何がいいんだよ」
優しく問いかける向葵に、陽菜は数秒黙り眉間に皺を寄せ考える素振りを見せ、かと思いきや今度は真剣な顔で言葉をつむぎ始めた。
「物とかさ、そういうのはいらないから向葵、毎年お墓参り来てよ。私の誕生日に」
「は?」
陽菜の意外な答えに、向葵は素っ頓狂な声で陽菜を凝視した。
「向葵は1番の親友だからさ。それだけで私は嬉しいよ。それとも何?嫌?」
しょぼくれた様子で言う陽菜に向葵は嫌じゃないけど......と口ごもった。それを聞いた陽菜はありがとう!と向葵の前でにぱっと笑った。
「そんなのでいいのかよ?」
「そんなのがいいんだよ」
最後の確認にも動じず、堂々という陽菜に向葵は呆れたようにため息をついた。
「じゃあ、私そろそろみたいだから」
「あぁ」
お別れにしてはあっけなく、あっけらかんと言ってしまうのがなんとも陽菜らしくて。向葵は優しく微笑えんだ。
「約束通り毎年来てよね」
「あぁ」
「健康には気をつけてよ」
「あぁ」
「勉強も頑張ってね」
「......あぁ」
「何、その間は」
「るせぇ」
「......向葵、大好きだよ」
「俺もだよ」
「んふふ、知ってた。......それじゃあ元気でね」
「じゃあな」
心地よい温かさを乗せたそよ風が向葵の頬を優しく撫でた。まるで陽菜が笑いかけてるような。向葵は何も無い宙に手を伸ばした。
太陽がやけに眩しかった。 なひゆさん(選択なし・14さい)からの相談
とうこう日:2020年9月1日みんなの答え:1件
そんな太陽が自己主張をする日に、先程からだらだらと留まることを知らない汗を、向葵(あおい)は心底不愉快そうに腕で拭い顔をしかめた。
「あっぢぃ......」
「ははっ、向葵暑そうだね」
あまりの暑さに意図せず漏れた向葵のぼやきを、汗ひとつ流さず涼し気な顔で拾ったのは陽菜(ひな)だった。どこか揶揄ようなその言い方に向葵ははぁと深くため息をつき、今も尚暑さを感じさせない顔で隣を歩く陽菜をじとっと見つめた。
「お前なんでそんな涼し気なんだよ」
「まぁ、私死んでるしね」
まるで明日の天気晴れらしいよ!と同じ要領でニカッと笑いながら言ってみせる陽菜に、向葵は特段驚きもせずあー、そういやそうだったなと返すとぱたぱたと手で仰いだ。
「いつまでここに居られんの」
「んー、あと10分ってところかな」
「......そか」
陽菜は可愛らしく小首をこてっと傾げたまま簡潔に述べた。
あと10分。タイムリミットがもう目前まで迫ってると言う事実を知った向葵は、どこか悲しそうに、けれどなるべくその事が陽菜に悟られぬように視線を向日葵に移した。太陽の光をいっぱいに吸い込んだ黄色が嫌味ったらしく笑いかけてくる。
「でも中々に楽しかったよ!ほら、私がここに戻ってきてすぐ行ったお祭りとか!向葵ったらかき氷にがっついて頭キーンってしてさ!」
数秒の沈黙で何がを察したのであろう。陽菜はなるだけ意気揚々と思い出を語ると、意地悪そうに目を細め向葵に視線を移した。バチりと視線が交わり、そのことは忘れてくれと言わんばかりの向葵の恥ずかしげな表情が、陽菜の瞳いっぱいに映し出される。向葵は話を逸らすように再度暑いと呟いた。
それから、たわいもない話を淡々と繰り返す。あの時のあれ楽しかったねとか、あそこから見た景色は綺麗だったとか。特に中身はなくて、それでもこの当たり前で日常的な時間が、向葵はどうしようもなく心地よくてしかたがなかった。
「あっ!そういえば私、明日誕生日だった!」
時間的にもこれが最後の会話になるだろう時。先に口を開いたのは陽菜の方だった。今、思い出したと言うように、大きな声で目を見開き言う陽菜に向葵はあー、と適当に言葉を零した。
「そういやそうだったな」
「何、向葵も忘れてたの?」
「はっ、まさか。言ったら陽菜誕生日プレゼントせがるだろ?わざと言わなかったんだよ」
「何それ、酷いな。幼馴染じゃん。誕生日プレゼントくらいちょうだいよ」
頭の後ろで手を組みぶっきらぼうに答える向葵に、陽菜は拗ねたような声音でぷんすと向葵とは反対の方向を向いた。もう少しで消えてしまうというのに。何ら変わりない様子の陽菜を向葵はちらっと横目で見た。
「......分かった。何が欲しいんだよ」
「え?いいの?って私もうすぐ消えるし意味無くない?」
「墓に持ってってやるよ」
「ほんとに!?やったー!!」
向葵の優しい提案に、ひよこのようにぴょこぴょことはね回る陽菜を、向葵は面倒くさそうに、けれどどこか幸せそうに制止した。
「んで?何がいいんだよ」
優しく問いかける向葵に、陽菜は数秒黙り眉間に皺を寄せ考える素振りを見せ、かと思いきや今度は真剣な顔で言葉をつむぎ始めた。
「物とかさ、そういうのはいらないから向葵、毎年お墓参り来てよ。私の誕生日に」
「は?」
陽菜の意外な答えに、向葵は素っ頓狂な声で陽菜を凝視した。
「向葵は1番の親友だからさ。それだけで私は嬉しいよ。それとも何?嫌?」
しょぼくれた様子で言う陽菜に向葵は嫌じゃないけど......と口ごもった。それを聞いた陽菜はありがとう!と向葵の前でにぱっと笑った。
「そんなのでいいのかよ?」
「そんなのがいいんだよ」
最後の確認にも動じず、堂々という陽菜に向葵は呆れたようにため息をついた。
「じゃあ、私そろそろみたいだから」
「あぁ」
お別れにしてはあっけなく、あっけらかんと言ってしまうのがなんとも陽菜らしくて。向葵は優しく微笑えんだ。
「約束通り毎年来てよね」
「あぁ」
「健康には気をつけてよ」
「あぁ」
「勉強も頑張ってね」
「......あぁ」
「何、その間は」
「るせぇ」
「......向葵、大好きだよ」
「俺もだよ」
「んふふ、知ってた。......それじゃあ元気でね」
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太陽がやけに眩しかった。 なひゆさん(選択なし・14さい)からの相談
とうこう日:2020年9月1日みんなの答え:1件
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感動っ! こんにちはぁ!エナガ大好きなシマエナガでーす!
最後にうるっとしました…。そっか、陽菜さんお亡くなりに…泣
『夏』が凄く伝わってきました!語彙力ありすぎじゃないか!?ちょっとその才能わけて〜(( 笑
それに、『ひよこのようにぴょこぴょことびはねる陽奈を』が凄く可愛いw
この小説読んだら、アイス食べたくなってしまったw
ちょっと食べてきまーす(余談すぎる)
良い小説ありがとう!
では! シマエナガさん(選択なし・11さい)からの答え
とうこう日:2020年9月2日
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