透明人間のアイスティ
憂鬱だ。
家に帰っても誰かいるわけでもなく、外にいても何も楽しいことはない。
空いたカップ片手にゆらゆらと踏切を渡る。
駅前にテイクアウト専用のカフェができたのだ。名物はアイスティ。
自分は「味がわかる人」なんかではないが、これはおいしいものだと思っている。
駅が見えなくなったあたりで、雨が降り出した。
バス停の屋根の下に逃げ込む。
雨はだんだん強くなり、屋根が痛々しい音を立てる。
去年の今頃も、ゲリラ豪雨でバスが遅れた記憶がある。その時は、雷がひどかった。
僕はその時はまだ、ある程度真面目に生きていた。
いつからだったか、ぷっつりとやる気が途切れてしまったのだ。その辺りから、周りの人間もだんだん減っていった。僕も、周りも、互いに見えなくなっていった。
今は、死んだように生きている。
そのうち死んでも、気づかない気がする。
バスを待っていると、同じ制服を着た人が歩いてくる。
彼は屋根の下に入ると、傘を閉じ、こちらを向いた。
僕はその時、久しぶりに人間に会えた気がした。彼には僕と同じように、体温があった。
彼は僕に問うた。
「それ、おいしかったですか。」
アイスティのことだ。
「ああ、はい。おいしかった。」
僕が答えると、彼は安堵したような笑みを浮かべた。
すぐにバスが来た。目線はそちらに奪われた。
プシュー、と音を立て、ドアが開く。
乗客はいないようだ。
ふと横を見ると、彼がいなかった。
驚いているうちに、バスのドアが閉じる。
驚いたことに、そのバスには誰も乗っていなかった。運転手すらも、だ。
雨はいつの間にか止んでいた。
━━━━━━━━━━━━━━
一時期、透明人間になったことがあった。
兄は幼い頃からカフェを営むのが夢だった。なぜだかは分からないが、とにかくカフェに憧れていたらしい。
兄が店を持てることが決まって、僕は自分のことのように喜んだ。
一緒に色々なことを考えた。
昔ケーキ屋だったところを改装するから、テイクアウト専用にしよう、とか、プラスチックのカップにお店の名前を書いて、色々な人に知ってもらおう、とか。
中でも、僕達はアイスティにこだわった。
僕はコーヒーが飲めないし、紅茶もミルクが入ってないとダメだけど、アイスティなら飲めた。アイスティを飲めば、少し大人に近づけるような気がした。
兄に待っていたのは、忙しい毎日だった。
駅前ということもあり、客が多くてたまらなかった。
最初は僕も嬉しく思っていた。
しかし、だんだん心配に思えてきた。
兄は毎日毎日忙しそうにしていて、いつか疲れて倒れてしまいそうに思えたのだ。
でも、兄は笑顔を絶やさなかった。
「ずっと夢だったから」と言っていた。
僕は思った。
夢を叶えることが人を幸せにしないなら、何を目的に生きればいいんだろう。
突然、僕は生きる意味を失った。無気力になった。
すると、どうしたことか、僕は世界から消えてしまった。
僕も、周りの人も、お互いが見えなくなっていった。
そんな時、1人、同じ学校の制服を着た男と出会った。久々にこの目で人間を見た気がした。
彼は兄のアイスティを持っていた。
思わず話しかけた。
「それ、おいしいですか。」
彼は少し驚いて、
「ああ、はい。おいしいですよ。」
と言った。
僕は心底安堵した。
兄の夢は、この人に一瞬だけ色をつけた。
そして、僕にも色を戻した。
バスに乗ったはずの彼は見えなくなっていた。
きっとまた、透明人間に戻ってしまったのだ。
でも、彼はきっとすぐに色を取り戻すだろう。彼は「味が分かる人」だから。 Hideさん(東京・14さい)からの相談
とうこう日:2020年9月8日みんなの答え:1件
家に帰っても誰かいるわけでもなく、外にいても何も楽しいことはない。
空いたカップ片手にゆらゆらと踏切を渡る。
駅前にテイクアウト専用のカフェができたのだ。名物はアイスティ。
自分は「味がわかる人」なんかではないが、これはおいしいものだと思っている。
駅が見えなくなったあたりで、雨が降り出した。
バス停の屋根の下に逃げ込む。
雨はだんだん強くなり、屋根が痛々しい音を立てる。
去年の今頃も、ゲリラ豪雨でバスが遅れた記憶がある。その時は、雷がひどかった。
僕はその時はまだ、ある程度真面目に生きていた。
いつからだったか、ぷっつりとやる気が途切れてしまったのだ。その辺りから、周りの人間もだんだん減っていった。僕も、周りも、互いに見えなくなっていった。
今は、死んだように生きている。
そのうち死んでも、気づかない気がする。
バスを待っていると、同じ制服を着た人が歩いてくる。
彼は屋根の下に入ると、傘を閉じ、こちらを向いた。
僕はその時、久しぶりに人間に会えた気がした。彼には僕と同じように、体温があった。
彼は僕に問うた。
「それ、おいしかったですか。」
アイスティのことだ。
「ああ、はい。おいしかった。」
僕が答えると、彼は安堵したような笑みを浮かべた。
すぐにバスが来た。目線はそちらに奪われた。
プシュー、と音を立て、ドアが開く。
乗客はいないようだ。
ふと横を見ると、彼がいなかった。
驚いているうちに、バスのドアが閉じる。
驚いたことに、そのバスには誰も乗っていなかった。運転手すらも、だ。
雨はいつの間にか止んでいた。
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一時期、透明人間になったことがあった。
兄は幼い頃からカフェを営むのが夢だった。なぜだかは分からないが、とにかくカフェに憧れていたらしい。
兄が店を持てることが決まって、僕は自分のことのように喜んだ。
一緒に色々なことを考えた。
昔ケーキ屋だったところを改装するから、テイクアウト専用にしよう、とか、プラスチックのカップにお店の名前を書いて、色々な人に知ってもらおう、とか。
中でも、僕達はアイスティにこだわった。
僕はコーヒーが飲めないし、紅茶もミルクが入ってないとダメだけど、アイスティなら飲めた。アイスティを飲めば、少し大人に近づけるような気がした。
兄に待っていたのは、忙しい毎日だった。
駅前ということもあり、客が多くてたまらなかった。
最初は僕も嬉しく思っていた。
しかし、だんだん心配に思えてきた。
兄は毎日毎日忙しそうにしていて、いつか疲れて倒れてしまいそうに思えたのだ。
でも、兄は笑顔を絶やさなかった。
「ずっと夢だったから」と言っていた。
僕は思った。
夢を叶えることが人を幸せにしないなら、何を目的に生きればいいんだろう。
突然、僕は生きる意味を失った。無気力になった。
すると、どうしたことか、僕は世界から消えてしまった。
僕も、周りの人も、お互いが見えなくなっていった。
そんな時、1人、同じ学校の制服を着た男と出会った。久々にこの目で人間を見た気がした。
彼は兄のアイスティを持っていた。
思わず話しかけた。
「それ、おいしいですか。」
彼は少し驚いて、
「ああ、はい。おいしいですよ。」
と言った。
僕は心底安堵した。
兄の夢は、この人に一瞬だけ色をつけた。
そして、僕にも色を戻した。
バスに乗ったはずの彼は見えなくなっていた。
きっとまた、透明人間に戻ってしまったのだ。
でも、彼はきっとすぐに色を取り戻すだろう。彼は「味が分かる人」だから。 Hideさん(東京・14さい)からの相談
とうこう日:2020年9月8日みんなの答え:1件
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うわあ好きです めっちゃ良い話ですね!
第一印象は、きれいな話だなって思いました。
それぞれの立場からの書き方が面白くて、アイスティ飲みたくなりました笑
とにかく、私の好きな感じだなーって思いました!
とても好きです! よいちどりさん(愛知・13さい)からの答え
とうこう日:2020年9月10日
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