「生きる」て、美しい
AM 04:47
まだ冷たいフェンスに手をかけて、水平線の向こうから半分顔を出した朝日を見つめていた。
海が光を反射して、キラキラ、キラキラと影を伸ばす。
まるでそれが、朝日へと続く一本橋のように思えて。水平線の向こうまで、真っ直ぐ続いているそれが、時折、ゆらゆらと波にゆらめく。その様子が、あまりにも幻想的で、思わず何かが込み上げてくる。
(いけない。こんなことしてる場合じゃないのに。)
私は銀のフェンスに体重を預け、腰掛けるようにして座る。
「…綺麗だなぁ」
唯一心残りがあるとすれば、この景色をもう見れないことだろうか。
少しずつ顔を出す朝日を、なんとも言えない気持ちで、私が眺めていると
「一ねえ」
不意に後ろの方から、声が聞こえた。
「あんた、死ぬなら向こうでやってくんない?」
知らない声。でも多分、私と同い年くらいの子だろう。
吹いてくる風に髪をなびかせ、私は振り返る。
「ここで死なれたら、迷惑なんだよね」
そう言った彼女の瞳は、驚く程興味なさげに、私をとらえていた。
「……別に、私が死のうが、あなたには関係ないと思うんだけど」
「うん、関係ないし、別に興味無い」
「………」
「…でも、あんたが死んでも、私はこれから生きていくんだよね」
……はぁ。
「…思い出の場所なんだ、ここ」
「……」
「ここで人が死んだんだよな〜って、私の思い出を汚してほしくない」
見かけなければ別に、どうとも思わなかったんだけど。そう続けて、彼女は言った。
「……それで、私に、どうして欲しいわけ?」
冷たい海風が吹いてきて、潮の匂いが鼻をくすぐる。
「…だから、死ぬなら別の場所でやって、て言ったじゃん。さっき。あ、なんならいい場所知ってるから、案内しよっか?」
…それ、今から死のうとしてる人に言うセリフじゃなくない?
「…もっと他に、言葉なかった?」
「おぉ」
何に驚いたのか、彼女は目を丸くする。
「つっこむ気力、あるんだ」
「………え?」
「死のうとしてるくらいだから、もっと病んでんのかと思った」
「……」
「ぶっちゃけさ」そう続けて、彼女は言う。
「死ぬ勇気があるなら、生きられるよ」
「……!」
死ぬ勇気があるなら、生きられる?
「……ふっ」
今更、何を言っているんだ。私は。
「…ないよ、そんなの」
「……え?」
「死ぬ勇気なんてない」
「…じゃあ」
「でも…生きる勇気も、もう…私にはない…」
彼女は大きく、目を見開いた。
「死ぬ勇気も、生きる勇気も、ないから…だからもう、終わりにするほうを選ぶしか、ないんだよ……」
そう。そうだって、わかってるのに。
なんでまだ、涙がでてくるの?
「…だから、もういいの」
「…ちょっと、ほんとにいいの?絶対あんた、後悔するよ。死んでから後悔してももう、遅いんだよ」
「……」
後悔、するのかな、私…
ヒュウゥウゥウウゥ
一際強い風が、私を押すように吹いてくる。
「…あっ」
視界が変わる。スローモーションのようにゆっくりと、橋から覗き込む彼女の姿が、遠ざかって行く。
手を伸ばしても、誰も、掴んでくれない。
…ああ。こうやって悩むことも、苦しむことも、誰かに助けを求めることも、もう、できないんだ。
『だからいったのに』
遠ざかってく彼女の口が、そう言ったような気がして。
「……っ」
視界が滲んで、ぼやけていく。
嫌だ。嫌だ。こんなの嫌だ。
一一死にたくない。
そんな私の気持ちなどお構い無しに、彼女の姿はどんどん遠ざかっていく。
ああ。空って、こんなに、綺麗だったんだ。
いつも下を向いてばかりで、すっかり忘れていた。
「今日」が始まる太陽の中、そんなことを思いながら。
私の「人生」は、静かに、静かに、幕を下ろした一一
一一一一っ!!
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
……………
「夢…?」
起き上がる。全身汗ぐっしょりになっていたけど、そんなの気にしていられない。
体が勝手に動いた。パジャマのまま外に出て、走り出す。
「はぁ…はぁ……」
気づいたら、私は夢で見た、あの橋にいた。
AM 04:47
水平線の向こうから、朝日が半分、顔を出す。
遠くの、遠くの太陽に続く、海にかかった一本橋が、キラキラ、キラキラと輝いて。
あまりにも、幻想的で。綺麗で。美しくて。
私はそのまま泣き崩れた。
よかった。よかった。またこの景色を見れてよかった。死ななくてよかった。夢でよかった。
一一生きてて、よかった一一
[完] 通りすがりのMさん(選択なし・13さい)からの相談
とうこう日:2020年9月12日みんなの答え:4件
まだ冷たいフェンスに手をかけて、水平線の向こうから半分顔を出した朝日を見つめていた。
海が光を反射して、キラキラ、キラキラと影を伸ばす。
まるでそれが、朝日へと続く一本橋のように思えて。水平線の向こうまで、真っ直ぐ続いているそれが、時折、ゆらゆらと波にゆらめく。その様子が、あまりにも幻想的で、思わず何かが込み上げてくる。
(いけない。こんなことしてる場合じゃないのに。)
私は銀のフェンスに体重を預け、腰掛けるようにして座る。
「…綺麗だなぁ」
唯一心残りがあるとすれば、この景色をもう見れないことだろうか。
少しずつ顔を出す朝日を、なんとも言えない気持ちで、私が眺めていると
「一ねえ」
不意に後ろの方から、声が聞こえた。
「あんた、死ぬなら向こうでやってくんない?」
知らない声。でも多分、私と同い年くらいの子だろう。
吹いてくる風に髪をなびかせ、私は振り返る。
「ここで死なれたら、迷惑なんだよね」
そう言った彼女の瞳は、驚く程興味なさげに、私をとらえていた。
「……別に、私が死のうが、あなたには関係ないと思うんだけど」
「うん、関係ないし、別に興味無い」
「………」
「…でも、あんたが死んでも、私はこれから生きていくんだよね」
……はぁ。
「…思い出の場所なんだ、ここ」
「……」
「ここで人が死んだんだよな〜って、私の思い出を汚してほしくない」
見かけなければ別に、どうとも思わなかったんだけど。そう続けて、彼女は言った。
「……それで、私に、どうして欲しいわけ?」
冷たい海風が吹いてきて、潮の匂いが鼻をくすぐる。
「…だから、死ぬなら別の場所でやって、て言ったじゃん。さっき。あ、なんならいい場所知ってるから、案内しよっか?」
…それ、今から死のうとしてる人に言うセリフじゃなくない?
「…もっと他に、言葉なかった?」
「おぉ」
何に驚いたのか、彼女は目を丸くする。
「つっこむ気力、あるんだ」
「………え?」
「死のうとしてるくらいだから、もっと病んでんのかと思った」
「……」
「ぶっちゃけさ」そう続けて、彼女は言う。
「死ぬ勇気があるなら、生きられるよ」
「……!」
死ぬ勇気があるなら、生きられる?
「……ふっ」
今更、何を言っているんだ。私は。
「…ないよ、そんなの」
「……え?」
「死ぬ勇気なんてない」
「…じゃあ」
「でも…生きる勇気も、もう…私にはない…」
彼女は大きく、目を見開いた。
「死ぬ勇気も、生きる勇気も、ないから…だからもう、終わりにするほうを選ぶしか、ないんだよ……」
そう。そうだって、わかってるのに。
なんでまだ、涙がでてくるの?
「…だから、もういいの」
「…ちょっと、ほんとにいいの?絶対あんた、後悔するよ。死んでから後悔してももう、遅いんだよ」
「……」
後悔、するのかな、私…
ヒュウゥウゥウウゥ
一際強い風が、私を押すように吹いてくる。
「…あっ」
視界が変わる。スローモーションのようにゆっくりと、橋から覗き込む彼女の姿が、遠ざかって行く。
手を伸ばしても、誰も、掴んでくれない。
…ああ。こうやって悩むことも、苦しむことも、誰かに助けを求めることも、もう、できないんだ。
『だからいったのに』
遠ざかってく彼女の口が、そう言ったような気がして。
「……っ」
視界が滲んで、ぼやけていく。
嫌だ。嫌だ。こんなの嫌だ。
一一死にたくない。
そんな私の気持ちなどお構い無しに、彼女の姿はどんどん遠ざかっていく。
ああ。空って、こんなに、綺麗だったんだ。
いつも下を向いてばかりで、すっかり忘れていた。
「今日」が始まる太陽の中、そんなことを思いながら。
私の「人生」は、静かに、静かに、幕を下ろした一一
一一一一っ!!
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
……………
「夢…?」
起き上がる。全身汗ぐっしょりになっていたけど、そんなの気にしていられない。
体が勝手に動いた。パジャマのまま外に出て、走り出す。
「はぁ…はぁ……」
気づいたら、私は夢で見た、あの橋にいた。
AM 04:47
水平線の向こうから、朝日が半分、顔を出す。
遠くの、遠くの太陽に続く、海にかかった一本橋が、キラキラ、キラキラと輝いて。
あまりにも、幻想的で。綺麗で。美しくて。
私はそのまま泣き崩れた。
よかった。よかった。またこの景色を見れてよかった。死ななくてよかった。夢でよかった。
一一生きてて、よかった一一
[完] 通りすがりのMさん(選択なし・13さい)からの相談
とうこう日:2020年9月12日みんなの答え:4件
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凄すぎます!! こんにちはこんばんは!桜花♪です!
おうか、と言います。遅くなっての感想、すみませんでした!
通りすがりのMさんが作った、「返して。」を見て、すごく素敵だったので過去の作品も見てみよう、とこれを見させていただきました。
まず、凄すぎます!表現力が特に凄いです!
初めて心が動かされました。本当にありがとうございます!
これからも頑張ってください!
桜花♪ 桜花♪さん(選択なし・11さい)からの答え
とうこう日:2020年11月3日 -
感動〜!!! あーやです^^*
凄い!
めちゃめちゃ感動ー!
表現方法と語彙力が凄すぎる。
なんかこの小説にいろいろ教えてもらったような気がする!
いい小説をありがとう〜!
次の作品も楽しみにしてるね(*^^*)
あーやさん(東京・13さい)からの答え
とうこう日:2020年9月13日 -
やばい。この話。 生きる大切さをわからせてくれる凄いお話でした…
夢で良かった……本当に良かったな……
物語に入り込むタイプ
通りすがりのMさんのお話また読みたいよー!
ワガママですけど、またお話作っていただけませんか!?
ワガママなかほぴー かほぴーさん(愛知・11さい)からの答え
とうこう日:2020年9月13日 -
無題 こういう短編小説を作ってくれて、ありがとう。
生きるって、やっぱり美しい事だと思ったよ。 れいなさん(栃木・12さい)からの答え
とうこう日:2020年9月13日
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