黒い天使
死神と言ったら、大鎌を持った黒マントの骸骨。
そう思われがちだが、実際は違う。
死神の武器は、普通のよりも少し大きい程度のハサミ。
その名も、絶ちバサミ。
◆◇◆◇
『深雪、今日も可愛い』
そう言って俺は、彼女の髪にキスをする。
「…棒読みなのが丸わかりよ」
そう言ってツンと唇を尖らせる少女。
『はぁっ…早く俺を好きになって、未練なくしゃあいいのに』
「早く死んで欲しいみたいな言い方ね」
『そりゃ仕事だし』
深雪は産まれつき肺が弱い。
治療は不可能、余命はあと3週間…のはずだったのに、もう2ヶ月も先延ばしになっている。
断ちバサミは、人間の生命線を切断することで、人を逝かせることができる道具だ。
もうすぐ死ぬ人間の生命線は、触っただけで砕けそうな細いものだが、何故か深雪のは鋼のように太くて硬い。
それは生に執着している証拠だった。
『しかもその理由はしょーもないし』
「乙女は恋を知ってから死にたいものなの!」
深雪は恋をしたいらしい。
好きになることも、好きになられることも学んでこなかった深雪は、お伽噺のような恋を望んでいた。
『人間同士のつまらない感情のせいで、俺の給料が毎日減ってるなんてな』
「死神もおカネが好きなのね」
『そーだよ!毎日口説いてんのに、頬を赤らめもしないんだから、俺のプライドもズタズタさ』
頭をかいてため息をつくと、深雪が口を開いた。
「ねぇ死神。私、好きな人が出来たの」
少しの間静寂がやって来る。
『…へぇ、そうかい』
「…うん、その人の為にプレゼントを準備したんだ」
『ほぉ、お前が惚れるなんて、俺よりいい男なんだろうな』
深雪ははにかんで、小さな紙袋を取り出した。
そしてゆっくりと、語り始めた。
「その人はね、ナルシストでお節介で、口煩い。でも、優しくて、不器用で、可愛いの。見てて飽きないし、いつでも私のそばに居てくれる」
淡々と、けれども一つひとつの言葉を大切そうに、深雪は続けた。
「その人はカラスみたいな人で、それでもって天使みたいな人…ねぇ死神、名前教えて?」
『……今聞くのか。月也だ』
深雪は一息付いて、泣きそうになりながら言った。
「月也…あなたが、好き……っ!!」
その途端、生命線が自動的にプツンと切れた。
急な展開に驚いた俺は、何故か途切れた深雪の生命線を、両手で繋ぎ止めていた。
『どうしたんだよ、いきなり!』
深雪はぼろぼろ涙を零しながら言った。
深雪は昨日、俺へのプレゼントを買って中庭で休んでいたらしい。
そこで、親が自分の存在が面倒だと言い合っていた所を目撃してしまった。
深雪はかなりのショックを受け、俺に気持ちを伝えて自ら死ぬことを決心した。
『だからって、取り返しのつかないことを!』
「…あなたが来た日から、私はあなたに惹かれていたの。未練はとっくの昔になくなってた。嘘をついてたのよ」
生命線は、生命線同士じゃないと反応し合わない。
深雪は常に過呼吸だ。
『くそっ………畜生が!』
俺は絶ちバサミを取り出し、生命線を切った。
…自分の生命線を。
「月也!」
俺の生命線を20cm程カットし、それを深雪の生命線に結んだ。
深雪の生命線に、蝶々が咲いた。
「何したの!」
『…初めて会った時、俺は深雪のこと、強い女だなと思った。死そのものを目の前にしても目を逸らさず、真っ直ぐと見据えて来やがって。…でも、本当は、とても弱い心の持ち主で。…お前を護りたくなった』
「月也、今すぐ生命線を解いて!」
深雪はナースコールを必死に押している。
「私も、素っ気ない振りをしていたけど、本当は毎日のあなたのちょっかいにいちいちドキドキしていたのよ…」
ハッとしたように紙袋を乱暴に裂き、チェーンを取り出した。
黒い、天使の翼の付いたチェーンだった。
「あなたは死神だけど、内面は天使よりも真っ白だもの」
『褒め言葉か?それ…』
握っていた右手に、そのチェーンを付けてくれる。
『俺の生命線も賭けてるからな、しょうもない事で死んだら、殺してやる』
「死んだら、殺せないよ」
『うるせぇ…好きだ、深雪』
「私も…月也ぁ……」
看護師が駆けつける。
そこには、カーテンの揺れる静かな部屋で泣きじゃくりながら座り込む、深雪がいた。
◆◇◆◇
「おばあちゃん、その話ホント?」
「あぁ、今でも私の命には、あの方の命が結んである」
「おばあちゃん…」
「…そろそろ、かね。お前はもっと長生きするんだよ」
家族に見守られながら、橘深雪は旅立った。
『深雪』
優しい声が聞こえる。
「…遅い、月也」
2人は笑いあって、抱き合う。
「死神が迎えに来たなら、私は地獄行き?」
『…いや、俺は天使なんだろ?』
白田さん(選択なし・14さい)からの相談
とうこう日:2020年10月9日みんなの答え:6件
死神と言ったら、大鎌を持った黒マントの骸骨。
そう思われがちだが、実際は違う。
死神の武器は、普通のよりも少し大きい程度のハサミ。
その名も、絶ちバサミ。
◆◇◆◇
『深雪、今日も可愛い』
そう言って俺は、彼女の髪にキスをする。
「…棒読みなのが丸わかりよ」
そう言ってツンと唇を尖らせる少女。
『はぁっ…早く俺を好きになって、未練なくしゃあいいのに』
「早く死んで欲しいみたいな言い方ね」
『そりゃ仕事だし』
深雪は産まれつき肺が弱い。
治療は不可能、余命はあと3週間…のはずだったのに、もう2ヶ月も先延ばしになっている。
断ちバサミは、人間の生命線を切断することで、人を逝かせることができる道具だ。
もうすぐ死ぬ人間の生命線は、触っただけで砕けそうな細いものだが、何故か深雪のは鋼のように太くて硬い。
それは生に執着している証拠だった。
『しかもその理由はしょーもないし』
「乙女は恋を知ってから死にたいものなの!」
深雪は恋をしたいらしい。
好きになることも、好きになられることも学んでこなかった深雪は、お伽噺のような恋を望んでいた。
『人間同士のつまらない感情のせいで、俺の給料が毎日減ってるなんてな』
「死神もおカネが好きなのね」
『そーだよ!毎日口説いてんのに、頬を赤らめもしないんだから、俺のプライドもズタズタさ』
頭をかいてため息をつくと、深雪が口を開いた。
「ねぇ死神。私、好きな人が出来たの」
少しの間静寂がやって来る。
『…へぇ、そうかい』
「…うん、その人の為にプレゼントを準備したんだ」
『ほぉ、お前が惚れるなんて、俺よりいい男なんだろうな』
深雪ははにかんで、小さな紙袋を取り出した。
そしてゆっくりと、語り始めた。
「その人はね、ナルシストでお節介で、口煩い。でも、優しくて、不器用で、可愛いの。見てて飽きないし、いつでも私のそばに居てくれる」
淡々と、けれども一つひとつの言葉を大切そうに、深雪は続けた。
「その人はカラスみたいな人で、それでもって天使みたいな人…ねぇ死神、名前教えて?」
『……今聞くのか。月也だ』
深雪は一息付いて、泣きそうになりながら言った。
「月也…あなたが、好き……っ!!」
その途端、生命線が自動的にプツンと切れた。
急な展開に驚いた俺は、何故か途切れた深雪の生命線を、両手で繋ぎ止めていた。
『どうしたんだよ、いきなり!』
深雪はぼろぼろ涙を零しながら言った。
深雪は昨日、俺へのプレゼントを買って中庭で休んでいたらしい。
そこで、親が自分の存在が面倒だと言い合っていた所を目撃してしまった。
深雪はかなりのショックを受け、俺に気持ちを伝えて自ら死ぬことを決心した。
『だからって、取り返しのつかないことを!』
「…あなたが来た日から、私はあなたに惹かれていたの。未練はとっくの昔になくなってた。嘘をついてたのよ」
生命線は、生命線同士じゃないと反応し合わない。
深雪は常に過呼吸だ。
『くそっ………畜生が!』
俺は絶ちバサミを取り出し、生命線を切った。
…自分の生命線を。
「月也!」
俺の生命線を20cm程カットし、それを深雪の生命線に結んだ。
深雪の生命線に、蝶々が咲いた。
「何したの!」
『…初めて会った時、俺は深雪のこと、強い女だなと思った。死そのものを目の前にしても目を逸らさず、真っ直ぐと見据えて来やがって。…でも、本当は、とても弱い心の持ち主で。…お前を護りたくなった』
「月也、今すぐ生命線を解いて!」
深雪はナースコールを必死に押している。
「私も、素っ気ない振りをしていたけど、本当は毎日のあなたのちょっかいにいちいちドキドキしていたのよ…」
ハッとしたように紙袋を乱暴に裂き、チェーンを取り出した。
黒い、天使の翼の付いたチェーンだった。
「あなたは死神だけど、内面は天使よりも真っ白だもの」
『褒め言葉か?それ…』
握っていた右手に、そのチェーンを付けてくれる。
『俺の生命線も賭けてるからな、しょうもない事で死んだら、殺してやる』
「死んだら、殺せないよ」
『うるせぇ…好きだ、深雪』
「私も…月也ぁ……」
看護師が駆けつける。
そこには、カーテンの揺れる静かな部屋で泣きじゃくりながら座り込む、深雪がいた。
◆◇◆◇
「おばあちゃん、その話ホント?」
「あぁ、今でも私の命には、あの方の命が結んである」
「おばあちゃん…」
「…そろそろ、かね。お前はもっと長生きするんだよ」
家族に見守られながら、橘深雪は旅立った。
『深雪』
優しい声が聞こえる。
「…遅い、月也」
2人は笑いあって、抱き合う。
「死神が迎えに来たなら、私は地獄行き?」
『…いや、俺は天使なんだろ?』
白田さん(選択なし・14さい)からの相談
とうこう日:2020年10月9日みんなの答え:6件
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ぉおっっ最高! こんにちは!
ましろです(*´∀`)
おほぁ〜〜(?)
まず深雪ちゃんと月也くんのキャラが好き!最高です〜
深雪ちゃんツンデレ的なのちょい入ってるし!
月也くんは「うるせぇ……好きだ、深雪」のとこでウッッてなった(笑)
ストーリーもとっても面白くて、しかも読みやすかったです(*'ω'*)
素敵な小説ありがとうございました〜
ましろさん(選択なし・12さい)からの答え
とうこう日:2020年10月10日 -
すごくいい! めちゃくちゃ可愛いし、泣けるし、最高です!
最後の終わり方も良いですね! *はるちゃんさん(神奈川・13さい)からの答え
とうこう日:2020年10月10日 -
はああぁぁぁあっッッッ! めっちゃドキドキしたー!最高でした☆そしてすごく感動しました。(。・ω・。)
死神さんが愛おしいですう卍 ちょっとこれさー、書籍化しないかな〜?! エンジェルさん(千葉・12さい)からの答え
とうこう日:2020年10月10日 -
すごく面白かった!!! すごく楽しめたです!
もしかしたら小説家になれるかもよ!
深雪と月也、幸せに!!!
真菜でした。 真菜さん(東京・12さい)からの答え
とうこう日:2020年10月10日 -
無題 切ない…
最高でした!
次回作も楽しみにしてます! アメリカンさん(東京・11さい)からの答え
とうこう日:2020年10月10日 -
すごく面白かった!! 文章の流れがとてもわかりやすく読みやすかったです。
ストーリーも簡潔で、少し切なくなる感じがよかったです。
深雪と月也、お幸せにー! みのさん(茨城・14さい)からの答え
とうこう日:2020年10月10日
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