微笑みの味
はじめは、喰うつもりだった。肉の柔らかい、美しい娘になった頃に。
・・・彼女を、ガリガリに痩せこけたガキだったあいつを拾った、その時は。
今、彼女は15になった。俺が望んだ通りの、肉の柔らかい、美しい娘に。
でも、俺は喰わなかった・・・いや、喰えなかったと言うべきか。
今まで散々人の血肉を喰らって生きてきたのに、彼女は、彼女だけは。
・・・どうしても、喰べようと・・・殺そうと、思えなかった。
彼女が15になった夜。彼女に、俺が食人鬼である事を話した。
この手を血で染めて生きてきた事。
不老不死の身体を持っている事。
彼女を喰うつもりだった事も、全部。
彼女は、怯えなかった。
ただぽつりと溢された言葉。今から、私を喰うのですか・・・その問いには、即座に否定を返す。
彼女は、日の光のように暖かい笑顔を浮かべて、言った。
よかった。まだあなたと一緒にいてもいいんですね。よかった・・・
その笑顔を見て、何かが切れた。
じわりと胸に広がる、柔らかな温もりの正体。それを、唐突に理解する。
これはきっと・・・恋情だ。
そっと、彼女を抱き寄せる。
もう絶対に、人は喰わない。だから、だからずっと、側に居てはくれないか?・・・俺の、妻として。
必死で絞りだした、格好の悪い俺の言葉に。彼女は、もちろんですと頷いてくれた。
彼女と二人、行儀悪く床に寝転がる。すり、と彼女の頬を撫でてやると、少しくすぐったそうに笑った。彼女は優しい声で、俺に言う。
ねえあなた。お願いがあるの。
お前の願いなら何でも聞いてやると頷くと、彼女は伏し目がちに囁いた。
『私の命が尽きたその時は・・・あなたに、私の身体を喰べてほしいんです』
そうすれば私は、あなたの一部になれるから。そうすればきっと、ずっと一緒にいられるから・・・
俺はその願いに、ただ何も言えなかった。
〜
あれからもう、何十年の時が流れただろうか。
俺は、何も変わらなかったが・・・生身の彼女は、ゆっくりと、確かに老いていった。
それでも俺は、変わらず彼女を愛している。もう歩く事すらままならず、布団に横たわっている彼女の頬を、すりと撫でた。
私達が夫婦になった日を、思い出しますね・・・そう、穏やかに彼女は微笑む。
あの時にしたお願い、覚えていますか?
覚えている。答えると、よかったと彼女は言った。
『沢山の愛をくれて、ありがとうございます。あなたのおかげで、私はとても幸せでした・・・きっとまた生まれ変わって、あなたに会いに行きますから・・・』
愛しています。
その言葉を最後に、彼女は事切れた。まるで眠りにつくような、穏やかでやさしい最期だった。
そっと亡骸を抱き寄せて。
そのまま彼女を、口に含んだ。
彼女が痛くないように。苦しくないように。
ぼろぼろと涙が頬を伝う。
彼女からは、今まで食べたどんなものよりも優しくて・・・彼女の微笑みとおなじ、日の光のような味がした。
また、彼女に出会える日まで。
・・・ずっとずっと、俺は待っていよう。 月灯 睡さん(選択なし・14さい)からの相談
とうこう日:2020年10月26日みんなの答え:2件
・・・彼女を、ガリガリに痩せこけたガキだったあいつを拾った、その時は。
今、彼女は15になった。俺が望んだ通りの、肉の柔らかい、美しい娘に。
でも、俺は喰わなかった・・・いや、喰えなかったと言うべきか。
今まで散々人の血肉を喰らって生きてきたのに、彼女は、彼女だけは。
・・・どうしても、喰べようと・・・殺そうと、思えなかった。
彼女が15になった夜。彼女に、俺が食人鬼である事を話した。
この手を血で染めて生きてきた事。
不老不死の身体を持っている事。
彼女を喰うつもりだった事も、全部。
彼女は、怯えなかった。
ただぽつりと溢された言葉。今から、私を喰うのですか・・・その問いには、即座に否定を返す。
彼女は、日の光のように暖かい笑顔を浮かべて、言った。
よかった。まだあなたと一緒にいてもいいんですね。よかった・・・
その笑顔を見て、何かが切れた。
じわりと胸に広がる、柔らかな温もりの正体。それを、唐突に理解する。
これはきっと・・・恋情だ。
そっと、彼女を抱き寄せる。
もう絶対に、人は喰わない。だから、だからずっと、側に居てはくれないか?・・・俺の、妻として。
必死で絞りだした、格好の悪い俺の言葉に。彼女は、もちろんですと頷いてくれた。
彼女と二人、行儀悪く床に寝転がる。すり、と彼女の頬を撫でてやると、少しくすぐったそうに笑った。彼女は優しい声で、俺に言う。
ねえあなた。お願いがあるの。
お前の願いなら何でも聞いてやると頷くと、彼女は伏し目がちに囁いた。
『私の命が尽きたその時は・・・あなたに、私の身体を喰べてほしいんです』
そうすれば私は、あなたの一部になれるから。そうすればきっと、ずっと一緒にいられるから・・・
俺はその願いに、ただ何も言えなかった。
〜
あれからもう、何十年の時が流れただろうか。
俺は、何も変わらなかったが・・・生身の彼女は、ゆっくりと、確かに老いていった。
それでも俺は、変わらず彼女を愛している。もう歩く事すらままならず、布団に横たわっている彼女の頬を、すりと撫でた。
私達が夫婦になった日を、思い出しますね・・・そう、穏やかに彼女は微笑む。
あの時にしたお願い、覚えていますか?
覚えている。答えると、よかったと彼女は言った。
『沢山の愛をくれて、ありがとうございます。あなたのおかげで、私はとても幸せでした・・・きっとまた生まれ変わって、あなたに会いに行きますから・・・』
愛しています。
その言葉を最後に、彼女は事切れた。まるで眠りにつくような、穏やかでやさしい最期だった。
そっと亡骸を抱き寄せて。
そのまま彼女を、口に含んだ。
彼女が痛くないように。苦しくないように。
ぼろぼろと涙が頬を伝う。
彼女からは、今まで食べたどんなものよりも優しくて・・・彼女の微笑みとおなじ、日の光のような味がした。
また、彼女に出会える日まで。
・・・ずっとずっと、俺は待っていよう。 月灯 睡さん(選択なし・14さい)からの相談
とうこう日:2020年10月26日みんなの答え:2件
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お〜!! なるほど…
心が芽生えてしまってその子を食べなかったんですね!!
てか、女の子優しいなぁ…。
純粋で心がめっちゃ綺麗な子!!
そんな人になりたい(無理)
感動系大好きなので嬉ぴです((
ゆはさん(選択なし・11さい)からの答え
とうこう日:2020年10月27日 -
感動っっ!! 感動しました!すごいですねー!本当の小説みたいですね。これからも応援します! むいこはさん(北海道・12さい)からの答え
とうこう日:2020年10月27日
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