君とさみしさに、バイバイ
――高校の図書室で先輩と学習会中。放課後、他に誰もいない図書室には、ページをめくる音だけが響いている。
(…先輩と、二人きり。)
意識した瞬間、どきどきしてきた。隣で肘をついている先輩との距離が近すぎるように思えて、ひかえめに椅子を引く。
「…あー、ナオ!…慣れない事は、しないほうが良いや。」
突然名前を呼ばれて、どきっとして横を見ると、先輩は頭を押さえていた。頭痛がしてきたのだろう。栞を挟んで、先輩は本を閉じた。
バタン、と雑に閉じられた本のページは、挟まれた栞を見ると――まだ、物語の中盤にも行かないくらいしか進んでいないようだ。
「…かおり先輩、その本、最近ずっと読んでますね。」
僕が言うと、先輩は頭を押さえたままこっちを見る。僕と目が合うと、先輩は小さく笑った。
「そーなの。なかなか…進まなくて。」
先輩はそう言って、栞の挟まれたページを、また雑に開いた。
「でも、この文章。“どうしようもなく”ってヤツ。…これは、ちょっと好き。」
そう言うと先輩は、椅子を動かして僕に寄ってきた。
(っ…!?)
びっくりして先輩を見るけど、「何にも?」って顔で目を逸らされた。どきどきしながらも、先輩を意識しないように、本に集中しようとした。
…深呼吸してから、本を見る。先輩が本を好きになるなんて珍しい。
前のページを少し遡ってみる。どうやら、恋愛小説みたいだ。
主人公の『ナギ』は登場人物の『しおり』と両想い。好きなのに気持ちを伝えられないもどかしさにお互いに苦しんでいる。こんな感じだろう。
(…恋愛小説では、よくある展開。)
そう思いながらも、…何だか自分みたい、と思ってしまった。
いや、そもそも僕は片想い。言い聞かせて、飛ばしながらさっきのページに戻る。先輩が言っていた“どうしようもなく”という部分を、もう一度見てみた。
“帰り道は、お互いに何も言わなかった。…夕日に染まるしおりの顔が、何だか少し寂しそうで。”
「……」
“(私、弱いね。こんなやり方しないと、気持ち、伝えられないの。)”
“ここで、別れなきゃいけない。それが俺は…”
“ここで、バイバイしなきゃ。でも、本当は…”
“…どうしようもなく、さみしい。”
「…えと、ナオ?」
次のページに進もうとした時、先輩が顔を覗き込んできた。
「あ、ごめんなさい…」
「面白い?結構ちゃんと見てたもんねえ。やっぱナオはアタマ良い。」
すごい真剣な顔だったよ、と笑いながら、先輩はバッグに机の上の物をしまい始めた。
先輩が僕を見てた事が、ちょっと、嬉しい。
……バレてないかな。先輩の事ばかり、考えてた事。
「や、頭はそんなに……先輩、もう帰るんですか?」
…自分も片付けをしながら、先輩に話しかける。
「うん、なんか疲れちゃったから。ナオも帰る?」
「はい、僕も、そろそろ帰ります」
気づかないうちに、図書室が夕日に染まり始めている。先輩は最後にその本を手に取ると、バッグに入れないで、僕に差し出した。
「え、あの…」
「…ナオ、これ続き、読むかなって。夢中で読んでたしさ…」
二人きりの図書室。先輩と僕の声だけが響いている。
「…良いんですか。」
「うん、いーよ。あたしにはちょっと、難しい。」
そう言って先輩は、本を僕のバッグに、ちょっと雑に入れた。
「じゃあ栞、返しますね。…また、明日。先輩。」
「うん。バイバイ、ナオ。……見終わったら、返してね。」
…ああ、ここで別れたくないな。オレンジ色の図書室で、お互いに何も言わない時間が、続く。
「…ナオ?」
「あ……ごめんなさい、帰りますね」
なんとか笑顔を作って、バッグを持って席を立った。先輩はこっちを見ないで、ただ窓の外を見ている。
僕はやっと歩きだして、図書室の扉の前まで行った。
「………」
でも、まだ帰りたくなくて。最後に少し振り返る。
(……)
(…僕、『ナギ』みたいだ。)
………夕日に染まる先輩の顔が少し、寂しそうな――気が、した
――ひとりの図書室。二人分のページをめくる音はもう、聞こえない。
「……あーあ、帰っちゃった。」
…ナオが帰ったあと。何だかすぐ帰る気になれなくて、まだ図書室にいた。
ナオが置いてった栞が、何もない机にぽつんとある。
「…あたし、『しおり』みたい。」
(本なんて読まないのに、わざわざあれ、選んで…)
(…本当は、もう)
(あの本、全部、読み終わってるのに。)
まだ進んでないフリ、して。この本を渡せば…
…本を返してもらう時、もう一回、
ナオに会えるって、思ったから。
「や…片想いって、寂しい。」
ああ、今はこんなやり方しか出来ないけど、いつか――
(君と一緒に…、この寂しさにバイバイできる日が、来ますように。) ししゃもにさん(選択なし・13さい)からの相談
とうこう日:2023年7月1日みんなの答え:4件
(…先輩と、二人きり。)
意識した瞬間、どきどきしてきた。隣で肘をついている先輩との距離が近すぎるように思えて、ひかえめに椅子を引く。
「…あー、ナオ!…慣れない事は、しないほうが良いや。」
突然名前を呼ばれて、どきっとして横を見ると、先輩は頭を押さえていた。頭痛がしてきたのだろう。栞を挟んで、先輩は本を閉じた。
バタン、と雑に閉じられた本のページは、挟まれた栞を見ると――まだ、物語の中盤にも行かないくらいしか進んでいないようだ。
「…かおり先輩、その本、最近ずっと読んでますね。」
僕が言うと、先輩は頭を押さえたままこっちを見る。僕と目が合うと、先輩は小さく笑った。
「そーなの。なかなか…進まなくて。」
先輩はそう言って、栞の挟まれたページを、また雑に開いた。
「でも、この文章。“どうしようもなく”ってヤツ。…これは、ちょっと好き。」
そう言うと先輩は、椅子を動かして僕に寄ってきた。
(っ…!?)
びっくりして先輩を見るけど、「何にも?」って顔で目を逸らされた。どきどきしながらも、先輩を意識しないように、本に集中しようとした。
…深呼吸してから、本を見る。先輩が本を好きになるなんて珍しい。
前のページを少し遡ってみる。どうやら、恋愛小説みたいだ。
主人公の『ナギ』は登場人物の『しおり』と両想い。好きなのに気持ちを伝えられないもどかしさにお互いに苦しんでいる。こんな感じだろう。
(…恋愛小説では、よくある展開。)
そう思いながらも、…何だか自分みたい、と思ってしまった。
いや、そもそも僕は片想い。言い聞かせて、飛ばしながらさっきのページに戻る。先輩が言っていた“どうしようもなく”という部分を、もう一度見てみた。
“帰り道は、お互いに何も言わなかった。…夕日に染まるしおりの顔が、何だか少し寂しそうで。”
「……」
“(私、弱いね。こんなやり方しないと、気持ち、伝えられないの。)”
“ここで、別れなきゃいけない。それが俺は…”
“ここで、バイバイしなきゃ。でも、本当は…”
“…どうしようもなく、さみしい。”
「…えと、ナオ?」
次のページに進もうとした時、先輩が顔を覗き込んできた。
「あ、ごめんなさい…」
「面白い?結構ちゃんと見てたもんねえ。やっぱナオはアタマ良い。」
すごい真剣な顔だったよ、と笑いながら、先輩はバッグに机の上の物をしまい始めた。
先輩が僕を見てた事が、ちょっと、嬉しい。
……バレてないかな。先輩の事ばかり、考えてた事。
「や、頭はそんなに……先輩、もう帰るんですか?」
…自分も片付けをしながら、先輩に話しかける。
「うん、なんか疲れちゃったから。ナオも帰る?」
「はい、僕も、そろそろ帰ります」
気づかないうちに、図書室が夕日に染まり始めている。先輩は最後にその本を手に取ると、バッグに入れないで、僕に差し出した。
「え、あの…」
「…ナオ、これ続き、読むかなって。夢中で読んでたしさ…」
二人きりの図書室。先輩と僕の声だけが響いている。
「…良いんですか。」
「うん、いーよ。あたしにはちょっと、難しい。」
そう言って先輩は、本を僕のバッグに、ちょっと雑に入れた。
「じゃあ栞、返しますね。…また、明日。先輩。」
「うん。バイバイ、ナオ。……見終わったら、返してね。」
…ああ、ここで別れたくないな。オレンジ色の図書室で、お互いに何も言わない時間が、続く。
「…ナオ?」
「あ……ごめんなさい、帰りますね」
なんとか笑顔を作って、バッグを持って席を立った。先輩はこっちを見ないで、ただ窓の外を見ている。
僕はやっと歩きだして、図書室の扉の前まで行った。
「………」
でも、まだ帰りたくなくて。最後に少し振り返る。
(……)
(…僕、『ナギ』みたいだ。)
………夕日に染まる先輩の顔が少し、寂しそうな――気が、した
――ひとりの図書室。二人分のページをめくる音はもう、聞こえない。
「……あーあ、帰っちゃった。」
…ナオが帰ったあと。何だかすぐ帰る気になれなくて、まだ図書室にいた。
ナオが置いてった栞が、何もない机にぽつんとある。
「…あたし、『しおり』みたい。」
(本なんて読まないのに、わざわざあれ、選んで…)
(…本当は、もう)
(あの本、全部、読み終わってるのに。)
まだ進んでないフリ、して。この本を渡せば…
…本を返してもらう時、もう一回、
ナオに会えるって、思ったから。
「や…片想いって、寂しい。」
ああ、今はこんなやり方しか出来ないけど、いつか――
(君と一緒に…、この寂しさにバイバイできる日が、来ますように。) ししゃもにさん(選択なし・13さい)からの相談
とうこう日:2023年7月1日みんなの答え:4件
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え、上手すぎじゃない!? こん!
元ハッピー☆チェリーの、マジカル☆リボンだよ!
改名したけどよろしくねっ☆
☆本題☆
え、上手すぎじゃない!?
クオリティが高すぎるっ!
始まり方もめちゃ上手!
また書いてほしいなっ。 またねっ☆ マジカル☆リボン#あー疲れたなーさん(愛知・10さい)からの答え
とうこう日:2023年8月5日 -
タイトルの付け方が凄い! Hi(^^♪My name's Marin(*´・ч・`*)
☆*: .。. o本題o .。.:*☆
タイトルの付け方が凄い!
Have a nice day(*^^)v
Thanks for reading(*'ω'*)See ya(^^♪ 舞凜*まりん*#元兎乃#元々雲羽さん(岐阜・12さい)からの答え
とうこう日:2023年8月4日 -
タイトルが良い! こんにちは♪純恋です(≧∇≦)b
琉希から改名したので名前覚えて
もらえたら嬉しいです(^_-)-☆
*・*・*・*・*・START*・*・*・*・*・*
凄くタイトルが良いと思います(^_-)-☆
本の中の恋が少し現実の恋と似ているのが
純恋にはない発想です!
*・*・*・*・*・FINISH*・*・*・*・*・*
誤字脱字あったらすみません!
参考になったら嬉しいです(^o^) 元琉希 純恋 #改名したよ!さん(神奈川・11さい)からの答え
とうこう日:2023年8月4日 -
本の中の恋と現実の恋…! ども。元フラミンゴの珊瑚礁がらすです。
本の中の恋と現実の恋が重なる感じ…
なんかとロマンティックというか、面白い設定ですね!
キャラクターのこともちゃんと考えられながら話が進められていて、
とてもクオリティが高かったです!
ついつい読み進めちゃいました…!
とにかく上手な小説でした。 珊瑚礁がらす 元フラミンゴさん(選択なし・12さい)からの答え
とうこう日:2023年8月4日
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- 【「相談するとき」「相談の答え(回答)を書くとき」のルール】をかならず読んでから、ルールを守って投稿してください。
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- 「短編小説投稿について」をかならず読んでから、ルールを守って投稿してください。
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個人 を判断 することが出来ないため、削除依頼 には対応することは出来ません。投稿しても問題ない内容かよく確認してください。
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