繋ぐ左手
妹の左手を引いて歩く。
休日の、ショッピングモールだった。
俺の妹はもう七歳で、両親から可愛がられながら育っている。
そんな両親が見失うくらいなのだから、この妹はなかなかおてんばだ。もちろんそういうところが、俺にとっても両親にとっても可愛いのだろうけど。
危なっかしくて、ついつい助けてしまう。
その活発さで両親を笑わせて、ときどき変なことを言って両親を泣かせる、そんな妹だった。
「迷子になるなって言ってるじゃん、お父さんもお母さんも心配してるんだから」
俺の言葉に、妹はその唇をとがらせる。
「迷子じゃないよ。お兄ちゃんがいるよ」
「俺のことは数に入れなくていいから」
強情な妹だ。そんなだから両親を泣かせているというのに。
「お兄ちゃんは、お父さんとお母さんのいるところ知ってるんでしょ?」
「…まあね」
だから連れて行っているのだ、両親を心配させてはいけないから。
妹の手は、やわらかくて温かくて、小さい。七つ年齢が違うぶん、俺も大きくなっているのだから当然だった。
「お父さんとお母さんのところに着いても、俺のことは秘密にしといて」
妹の左手が俺の右手にきゅっと力を入れる。熱がこもる。
「なんで」
「なんでも。あ、ほら、あそこ」
必死に娘を探す両親が、目の前を横切ろうとしている。
おとうさん、おかあさん。
妹が大きな声を出した。何事かと周囲の視線が集まる、両親もこちらを向く。
俺の声では彼らに届かないことを、妹は知っている。
知っているくせ、お兄ちゃんがと彼らへ話し出すのは良くないと思う。
安心に表情を緩ませて足を進める両親の顔が見えた。
「ほら、行ってきな」
手を離すと、妹は俺を見た。おにいちゃんは、とその口が動く。
俺は首を横に振った。
この世のものでない俺に、それは許されないだろう。
妹を助けるくらいはいいとしても、それ以上干渉することは。
妹の生まれる二年前にこの世を去った俺が、再び家族に交ざることは。
生きている俺を妹は知らなくて、今の俺を両親は知らない。それでいいと思う。
「俺のことは、お父さんとお母さんには秘密」
わざわざ口に出して、俺を思い出した両親を泣かせる必要などないのだ。
俺のぶんまで妹が大切にされるだけで充分だと、思うから。
妹は俺の存在が分かっている、それだけで。
小さな娘を見つけた両親は嬉しそうだった。
母親が妹と手を繋ごうとしている。それは直前まで俺の握っていた手だった。
自身の娘の左手をそっと掴んで母親は、もう反対側、右手も触る。
左手あついね、どうしたの。本当だ、左手だけ。
不思議そうな顔の父親と母親から交互に手を触られて、妹は少し恥ずかしそうにした。
それは直前まで、俺の、握っていた手だった。 炙りゼミさん(選択なし・16さい)からの相談
とうこう日:2023年7月2日みんなの答え:4件
休日の、ショッピングモールだった。
俺の妹はもう七歳で、両親から可愛がられながら育っている。
そんな両親が見失うくらいなのだから、この妹はなかなかおてんばだ。もちろんそういうところが、俺にとっても両親にとっても可愛いのだろうけど。
危なっかしくて、ついつい助けてしまう。
その活発さで両親を笑わせて、ときどき変なことを言って両親を泣かせる、そんな妹だった。
「迷子になるなって言ってるじゃん、お父さんもお母さんも心配してるんだから」
俺の言葉に、妹はその唇をとがらせる。
「迷子じゃないよ。お兄ちゃんがいるよ」
「俺のことは数に入れなくていいから」
強情な妹だ。そんなだから両親を泣かせているというのに。
「お兄ちゃんは、お父さんとお母さんのいるところ知ってるんでしょ?」
「…まあね」
だから連れて行っているのだ、両親を心配させてはいけないから。
妹の手は、やわらかくて温かくて、小さい。七つ年齢が違うぶん、俺も大きくなっているのだから当然だった。
「お父さんとお母さんのところに着いても、俺のことは秘密にしといて」
妹の左手が俺の右手にきゅっと力を入れる。熱がこもる。
「なんで」
「なんでも。あ、ほら、あそこ」
必死に娘を探す両親が、目の前を横切ろうとしている。
おとうさん、おかあさん。
妹が大きな声を出した。何事かと周囲の視線が集まる、両親もこちらを向く。
俺の声では彼らに届かないことを、妹は知っている。
知っているくせ、お兄ちゃんがと彼らへ話し出すのは良くないと思う。
安心に表情を緩ませて足を進める両親の顔が見えた。
「ほら、行ってきな」
手を離すと、妹は俺を見た。おにいちゃんは、とその口が動く。
俺は首を横に振った。
この世のものでない俺に、それは許されないだろう。
妹を助けるくらいはいいとしても、それ以上干渉することは。
妹の生まれる二年前にこの世を去った俺が、再び家族に交ざることは。
生きている俺を妹は知らなくて、今の俺を両親は知らない。それでいいと思う。
「俺のことは、お父さんとお母さんには秘密」
わざわざ口に出して、俺を思い出した両親を泣かせる必要などないのだ。
俺のぶんまで妹が大切にされるだけで充分だと、思うから。
妹は俺の存在が分かっている、それだけで。
小さな娘を見つけた両親は嬉しそうだった。
母親が妹と手を繋ごうとしている。それは直前まで俺の握っていた手だった。
自身の娘の左手をそっと掴んで母親は、もう反対側、右手も触る。
左手あついね、どうしたの。本当だ、左手だけ。
不思議そうな顔の父親と母親から交互に手を触られて、妹は少し恥ずかしそうにした。
それは直前まで、俺の、握っていた手だった。 炙りゼミさん(選択なし・16さい)からの相談
とうこう日:2023年7月2日みんなの答え:4件
[ まえへ ]
1
[ つぎへ ]
4件中 1 〜 4件を表示
-
これ好き! おはー!都姫だよっ!
これめちゃくちゃ好きです!
温かい感じで、ハッピーエンドとは言えないけど満たされる感じとか
語彙力も豊富でさすが16歳って感じです
それではー♪
都姫*みやび*さん(神奈川・12さい)からの答え
とうこう日:2023年8月8日 -
めっちゃ上手!! Hi(^^♪My name's Marin(*´・ч・`*)
☆*: .。. o本題o .。.:*☆
めっちゃ上手!!
Have a nice day(*^^)v
Thanks for reading(*'ω'*)See ya(^^♪ 舞凜*まりん*#元兎乃#キズにゃん民さん(岐阜・12さい)からの答え
とうこう日:2023年8月7日 -
最高です! マジで感動した!
家族愛ものあんまし好きじゃなかったけど、これ本当に面白い!
終わりかた好き。
語彙力なくてすみません。 LUNAさん(選択なし・13さい)からの答え
とうこう日:2023年8月7日 -
お兄ちゃんー!!泣 こんちゃ!sayuyuです!
炙りゼミさん、こんにちは!
いい話だ!
個人的に、「おにいちゃーん!!」となりました。
妹さんだけに、お兄ちゃんはみえているのかな?
その妹も、いい子すぎてまた感動。 sayuyuさん(選択なし・15さい)からの答え
とうこう日:2023年8月7日
[ まえへ ]
1
[ つぎへ ]
4件中 1 〜 4件を表示
-
- 【「相談するとき」「相談の答え(回答)を書くとき」のルール】をかならず読んでから、ルールを守って投稿してください。
-
- 「短編小説投稿について」をかならず読んでから、ルールを守って投稿してください。
-
- キッズなんでも相談では、投稿されたユーザーの
個人 を判断 することが出来ないため、削除依頼 には対応することは出来ません。投稿しても問題ない内容かよく確認してください。
- キッズなんでも相談では、投稿されたユーザーの
- カテゴリごとの新着相談
-
-
- みんなの好きな短歌は?11月29日
-
- 画面が...01月15日
-
- どう思われるの?01月16日
-
- 学校に行けない01月16日
-
- 家族のことがすきじゃない01月15日
-
- テスト勉強01月15日
-
- 生理なのかわからない01月16日
-
- 2週間以上咳が出る01月16日
-
- 外部コーチが嫌なんだけどみんなはどう思う?01月15日
-
- みんなのカラオケの十八番曲は?01月15日
-
- ブルーロック好き集まれー01月15日
-
- 好きな男の子の話01月16日
-
- 地雷系の靴や鞄がわからない01月15日
-
- みんなの好きなお寿司のネタは?01月16日
-
- コピック使ってる人教えてー!01月15日
-
- あの場所で 〜笑顔と感動の物語〜09月30日
-
- 吐き気を消すにはどうしよう01月16日
-
いじめで困ったり、ともだちや先生のことで不安や悩みがあったりしたら、一人で悩まず、いつでもすぐ相談してね。
・>>SNSで相談する
・電話で相談する
・>>地元の相談窓口を探す
18歳までの子どものための相談先です。あなたの思いを大切にしながら、どうしたらいいかを一緒に考えてくれるよ。