【短編小説】白、自分色に染めて。
「うわ、どうしよう……一番忘れちゃいけないのに……」
「ん?何やってるんだ?」
彼は私の手元にあるスケッチブックを見ながら首を傾げた。
「あ、ちょっとね……」
「なんだよ、見せられないようなものなのか?」
「そういう訳じゃないんだけど……その、ね……」
私は恥ずかしくて俯いた。
「……今日、写生大会だから、風景画描かなきゃいけなくて……」
「へえ……」
「スケッチブックも、鉛筆も、ちゃんと持ってきたんだよ?でも、絵の具……忘れちゃって」
「ははは、そりゃ大変だな」
「笑い事じゃないよ……」
私はむすっと頬を膨らませた。
「まあまあ、そう怒るなって」
「別に怒ってないけど……パレットも忘れちゃったし、絶対描けないし……」
「あ、なら俺の貸そうか?描く時間帯違うだろ、俺ら」
「え、いいの?ありがと!」
彼の手からまだ傷一つついていない絵の具箱と、少し色が残っているパレットを受け取った。
絵を描くのは好きだった。昔からずっと。ただ、美術部に入らなかったのは、単に彼と同じ時間帯に帰れなくなるし、それに、部活に入ってまで描きたいものなんて無かったからだ。
でも、今回は仕方がない。せっかく彼が貸してくれたのだ。使わないと勿体無い。
「皆さん。よく見て、しっかり描いてくださいね」
先生の声が響く。皆は真面目にキャンバスに向かっている。私も、早く取り掛からないと。
そう思いながら、自分の持っているスケッチブックを開いた。
コントラストを、注目が行くような構図を考えて、紙の上で鉛筆を動かす。ここにはないけれど、色鮮やかな花と、可愛らしい小鳥と、壮大な木を足した。
さて、どのように色をつけようか、と思って顔を上げた。
ぱっと目に入ったのは、鮮やかな空の色。
まるで、自分の好きな青色をそのまま描いたような。
一瞬にして引き込まれてしまった。
他の子たちも、真剣な表情で筆を動かしている。とりあえず、で取り出した青い絵の具。
けれど押しても押しても中々出てこない。もしかして、彼のよく使う色なのかな。
そう思うと、何故か申し訳なくなってきた。
やっぱり借りるべきではなかっただろうか。……いや、そんなことはない。だって、こんなにも綺麗な青なのだから。使いたくなるのも、仕方ない。
そう自分に言い聞かせながら、必死になってかき混ぜた。ふわりとした匂いと共に、綺麗な水色が姿を現す。
スケッチブックは、空色に染められていた。
写ってはいないけれど、色鮮やかな花も、木々も、鳥も、スケッチブックに描かれているものすべてが、ここに全部見えているような気がした。
「はい、一旦ここで終わりにしましょう」
「あ、はい」
慌てて立ち上がった。もう、時間切れらしい。
青と、その他の鮮やかな色で染められたパレットを見る。さっきまで白くて、何も無かったパレットが、今は自分の色に染まっている。
なんだか嬉しくて、ふっと笑みがこぼれた。
「使ったパレットや筆は、しっかり洗ってくださいね」
乾いたら、どんな色になるのだろう。わくわくするけれど、色を落とさなくちゃいけない。それに、彼から借りたものだからより一層綺麗に落とさなくちゃいけない。
自分の色で染められた、彼のパレット。それを見ていると、なんだか心が落ち着く。
水で洗い流すのは、まだ、少しもったいないなと思った。 澪標さん(東京・11さい)からの相談
とうこう日:2023年7月25日みんなの答え:2件
「ん?何やってるんだ?」
彼は私の手元にあるスケッチブックを見ながら首を傾げた。
「あ、ちょっとね……」
「なんだよ、見せられないようなものなのか?」
「そういう訳じゃないんだけど……その、ね……」
私は恥ずかしくて俯いた。
「……今日、写生大会だから、風景画描かなきゃいけなくて……」
「へえ……」
「スケッチブックも、鉛筆も、ちゃんと持ってきたんだよ?でも、絵の具……忘れちゃって」
「ははは、そりゃ大変だな」
「笑い事じゃないよ……」
私はむすっと頬を膨らませた。
「まあまあ、そう怒るなって」
「別に怒ってないけど……パレットも忘れちゃったし、絶対描けないし……」
「あ、なら俺の貸そうか?描く時間帯違うだろ、俺ら」
「え、いいの?ありがと!」
彼の手からまだ傷一つついていない絵の具箱と、少し色が残っているパレットを受け取った。
絵を描くのは好きだった。昔からずっと。ただ、美術部に入らなかったのは、単に彼と同じ時間帯に帰れなくなるし、それに、部活に入ってまで描きたいものなんて無かったからだ。
でも、今回は仕方がない。せっかく彼が貸してくれたのだ。使わないと勿体無い。
「皆さん。よく見て、しっかり描いてくださいね」
先生の声が響く。皆は真面目にキャンバスに向かっている。私も、早く取り掛からないと。
そう思いながら、自分の持っているスケッチブックを開いた。
コントラストを、注目が行くような構図を考えて、紙の上で鉛筆を動かす。ここにはないけれど、色鮮やかな花と、可愛らしい小鳥と、壮大な木を足した。
さて、どのように色をつけようか、と思って顔を上げた。
ぱっと目に入ったのは、鮮やかな空の色。
まるで、自分の好きな青色をそのまま描いたような。
一瞬にして引き込まれてしまった。
他の子たちも、真剣な表情で筆を動かしている。とりあえず、で取り出した青い絵の具。
けれど押しても押しても中々出てこない。もしかして、彼のよく使う色なのかな。
そう思うと、何故か申し訳なくなってきた。
やっぱり借りるべきではなかっただろうか。……いや、そんなことはない。だって、こんなにも綺麗な青なのだから。使いたくなるのも、仕方ない。
そう自分に言い聞かせながら、必死になってかき混ぜた。ふわりとした匂いと共に、綺麗な水色が姿を現す。
スケッチブックは、空色に染められていた。
写ってはいないけれど、色鮮やかな花も、木々も、鳥も、スケッチブックに描かれているものすべてが、ここに全部見えているような気がした。
「はい、一旦ここで終わりにしましょう」
「あ、はい」
慌てて立ち上がった。もう、時間切れらしい。
青と、その他の鮮やかな色で染められたパレットを見る。さっきまで白くて、何も無かったパレットが、今は自分の色に染まっている。
なんだか嬉しくて、ふっと笑みがこぼれた。
「使ったパレットや筆は、しっかり洗ってくださいね」
乾いたら、どんな色になるのだろう。わくわくするけれど、色を落とさなくちゃいけない。それに、彼から借りたものだからより一層綺麗に落とさなくちゃいけない。
自分の色で染められた、彼のパレット。それを見ていると、なんだか心が落ち着く。
水で洗い流すのは、まだ、少しもったいないなと思った。 澪標さん(東京・11さい)からの相談
とうこう日:2023年7月25日みんなの答え:2件
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綺麗な話 なんか、ずっとずっとすごく綺麗で、
いい話だった! 白異世さん(その他(海外)・12さい)からの答え
とうこう日:2023年9月1日 -
表現力と創作力がプロレベル!! Hi(^^♪My name's Karin(*´・ч・`*)
☆*: .。. o本題o .。.:*☆
表現力と創作力がプロレベル!!
「白、自分色に染めて。」っていうタイトルを見て、「この小説、絶対凄い作品だろうな。」って思って読んでみたの。
そしたら、想像以上に上手で素晴らしい小説だと思ったの★
最後の、「水で洗い流すのは、まだ、少しもったいないなと思った。」っていう文章が特に気に入ったよ♪*
Have a nice day(*^^)v
Thanks for reading(*'ω'*)See ya(^^♪ 花凜*かりん*#元舞凜#改名した!さん(岐阜・12さい)からの答え
とうこう日:2023年9月1日
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