【短編小説】華麗な紅
昔から、身長が高いことがコンプレックスだった。背の高い人は威圧感があるとか、小さい頃はよく言われたものだ。
女として見られていないのかと不安になった時期もあった。男友達の方が多いし、そもそも自分は恋愛対象ではないのかもしれない、なんて。
同性の友人たちからはモデルみたいだと言われるし、実際自分なりに意識して努力はしてきたつもりだ。
けれど、どうにかして人を貶さないと生きていけない人というのはどこにでも居るもので。
「あんたデカくて邪魔なのよ。なんなの?巨人族?」
「ほんとそれ!うちらの視界に入らないでくれる?」
毎日のように浴びせられる言葉に、いつしか慣れてしまっていた。自分よりも小柄な女の子たちの言うことだし、気にする必要もないとは思っていたけれど。コンプレックスを刺激されるのだけは嫌だった。
だけれど気づかれないフリをして、いつものように過ごしていれば、そのうち飽きて言わなくなると思っていた。
けれど、そのせいで本当に自分が着たい服、やりたいメイク、そういったものがどんどん遠ざかっていった。
本当は、スカートを履きたい。可愛い髪型にしたい。もっとおしゃれを楽しみたい。
でも、それを口に出すことはできなかった。言ったところでどうせまた、あの言葉を言われるだけだ。
ある日のことだった。
私の姉が、珍しく早く家に帰って来た。テーブルの上で突っ伏して、鼻を啜る音が聞こえる。
「……どうしたの?お酒でも飲んだの?……あ、でも昼だし飲んでないか」
「……違うよぉ」
「じゃあ何?泣いてるの?」
「……うん」
姉の向かい側に座ると、彼女の泣き腫らした顔がよく見えた。
どうやら相当落ち込んでいるようだ。何かあったのだろうか。……まさか、彼氏と別れた?いや、それはないだろう。
彼女は私とは違って、とても可愛らしい容姿をしている。昔からずっと一緒に居たけれど、正直羨ましいと思うことの方が多かった。
「私、遊ばれていた。典型的な日本の女の子みたいだから、遊ぶのには丁度良かったんだって」
「……そっか」
「それで、お金も持ってかれたし、連絡先消されてたし……」
あぁ、これはダメだな。完全に捨てられたパターンのやつだ。
「もっと強い女の人にならなくちゃ、あんたみたいな」
「別にいいんじゃないの、か弱くても。逆にお姉ちゃんみたいな人が羨ましい」
思わず本音が出てしまった。けれど訂正するつもりはない。だって、嘘をつく方が余計惨めになってしまうから。
「……いい?か弱い女には男が寄ってくるけれど、その代わりに好き勝手弄ばれるのよ。あんたはそうならないように、強くならなきゃいけないの」
「うーん、そういうもんかなあ」
「そうよ」
そう言って、姉はまた涙を零した。私はティッシュを渡して、彼女が落ち着いた頃に話を切り出した。
「あんたはまず自信をつけなきゃ。そうしたら完璧なのに」
「自信って言われてもなあ。身長も高い方だと思うんだけど、それでもだめなの?」
「……なら、私があんたに魔法かけてあげるわ。ちょっと待ってなさい」
そう言い残して、姉は自室に向かった。
一体何をするのだろう。そう思いながら待っていると、数分後に戻ってきた。そして手に持っていたものをこちらに差し出してくる。
それは、真っ赤な口紅だった。
「これ使って。一回も使っていないし、新品だから安心して」
「えぇ、でも似合わないんじゃない?こういう色」
「大丈夫。絶対似合うようになるから」
半ば強引に渡されたそれを、渋々受け取った。とりあえず鏡の前でつけてみることにする。
恐る恐る唇に近づけてみると、思ったよりも鮮やかな色に驚いた。こんな色、自分には到底無理だろうと思っていたのに。
「やっぱり似合ってる」
「でもなんか恥ずかしいよ」
「慣れよ慣れ。これであなたは強気になれまーす」
姉は茶化しながら言うと、再び机に突っ伏してしまった。まだ気持ちの整理がついていないのかもしれない。
私は貰ったばかりの口紅を手に取って、じっと見つめた。なんだか不思議な気分だった。
翌日の朝、私は口紅を通学鞄の中に忍ばせた。化粧品を持ち込んだりするのは校則違反だけれど、先生に見つかれば没収されてしまうし、何より目立つ。
だけれど、何だかお守りみたいな感じがして、どうしても持っていきたかった。
これを持っていれば、いつでもこの口紅を塗ることができるくらい、私は強気なんだって思える気がするから。
絶対、絶対、絶対。私を見下してきた子よりも幸せに、強くなってやるから、紅い口紅を握りしめながら誓った。
澪標さん(東京・11さい)からの相談
とうこう日:2023年7月27日みんなの答え:1件
女として見られていないのかと不安になった時期もあった。男友達の方が多いし、そもそも自分は恋愛対象ではないのかもしれない、なんて。
同性の友人たちからはモデルみたいだと言われるし、実際自分なりに意識して努力はしてきたつもりだ。
けれど、どうにかして人を貶さないと生きていけない人というのはどこにでも居るもので。
「あんたデカくて邪魔なのよ。なんなの?巨人族?」
「ほんとそれ!うちらの視界に入らないでくれる?」
毎日のように浴びせられる言葉に、いつしか慣れてしまっていた。自分よりも小柄な女の子たちの言うことだし、気にする必要もないとは思っていたけれど。コンプレックスを刺激されるのだけは嫌だった。
だけれど気づかれないフリをして、いつものように過ごしていれば、そのうち飽きて言わなくなると思っていた。
けれど、そのせいで本当に自分が着たい服、やりたいメイク、そういったものがどんどん遠ざかっていった。
本当は、スカートを履きたい。可愛い髪型にしたい。もっとおしゃれを楽しみたい。
でも、それを口に出すことはできなかった。言ったところでどうせまた、あの言葉を言われるだけだ。
ある日のことだった。
私の姉が、珍しく早く家に帰って来た。テーブルの上で突っ伏して、鼻を啜る音が聞こえる。
「……どうしたの?お酒でも飲んだの?……あ、でも昼だし飲んでないか」
「……違うよぉ」
「じゃあ何?泣いてるの?」
「……うん」
姉の向かい側に座ると、彼女の泣き腫らした顔がよく見えた。
どうやら相当落ち込んでいるようだ。何かあったのだろうか。……まさか、彼氏と別れた?いや、それはないだろう。
彼女は私とは違って、とても可愛らしい容姿をしている。昔からずっと一緒に居たけれど、正直羨ましいと思うことの方が多かった。
「私、遊ばれていた。典型的な日本の女の子みたいだから、遊ぶのには丁度良かったんだって」
「……そっか」
「それで、お金も持ってかれたし、連絡先消されてたし……」
あぁ、これはダメだな。完全に捨てられたパターンのやつだ。
「もっと強い女の人にならなくちゃ、あんたみたいな」
「別にいいんじゃないの、か弱くても。逆にお姉ちゃんみたいな人が羨ましい」
思わず本音が出てしまった。けれど訂正するつもりはない。だって、嘘をつく方が余計惨めになってしまうから。
「……いい?か弱い女には男が寄ってくるけれど、その代わりに好き勝手弄ばれるのよ。あんたはそうならないように、強くならなきゃいけないの」
「うーん、そういうもんかなあ」
「そうよ」
そう言って、姉はまた涙を零した。私はティッシュを渡して、彼女が落ち着いた頃に話を切り出した。
「あんたはまず自信をつけなきゃ。そうしたら完璧なのに」
「自信って言われてもなあ。身長も高い方だと思うんだけど、それでもだめなの?」
「……なら、私があんたに魔法かけてあげるわ。ちょっと待ってなさい」
そう言い残して、姉は自室に向かった。
一体何をするのだろう。そう思いながら待っていると、数分後に戻ってきた。そして手に持っていたものをこちらに差し出してくる。
それは、真っ赤な口紅だった。
「これ使って。一回も使っていないし、新品だから安心して」
「えぇ、でも似合わないんじゃない?こういう色」
「大丈夫。絶対似合うようになるから」
半ば強引に渡されたそれを、渋々受け取った。とりあえず鏡の前でつけてみることにする。
恐る恐る唇に近づけてみると、思ったよりも鮮やかな色に驚いた。こんな色、自分には到底無理だろうと思っていたのに。
「やっぱり似合ってる」
「でもなんか恥ずかしいよ」
「慣れよ慣れ。これであなたは強気になれまーす」
姉は茶化しながら言うと、再び机に突っ伏してしまった。まだ気持ちの整理がついていないのかもしれない。
私は貰ったばかりの口紅を手に取って、じっと見つめた。なんだか不思議な気分だった。
翌日の朝、私は口紅を通学鞄の中に忍ばせた。化粧品を持ち込んだりするのは校則違反だけれど、先生に見つかれば没収されてしまうし、何より目立つ。
だけれど、何だかお守りみたいな感じがして、どうしても持っていきたかった。
これを持っていれば、いつでもこの口紅を塗ることができるくらい、私は強気なんだって思える気がするから。
絶対、絶対、絶対。私を見下してきた子よりも幸せに、強くなってやるから、紅い口紅を握りしめながら誓った。
澪標さん(東京・11さい)からの相談
とうこう日:2023年7月27日みんなの答え:1件
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めちゃくちゃ上手!! こんちゃっ(^^♪花凜だぅ(*´・ч・`*)
☆*: .。. o本題o .。.:*☆
めちゃくちゃ上手!!
読んでくれてありがとうヾ(*´∀`*)ノばいちゃっ(^^♪ 花凜*かりん*#元舞凜#英語の挨拶やめたさん(岐阜・12さい)からの答え
とうこう日:2023年9月4日
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