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夏の約束 8月某日、病室にて

「あ、今日も来てくれたの?暑いのに悪いね。」「この部屋はエアコン効いてていいよな。俺もずっと此処にいたいくらいだわ。」「私だって好きで此処に居るんじゃないんだけど。」「悪い悪い、冗談。」
焼けつく日照りが襲い掛かる野外とは打って変わって冷房の効いたこの部屋に、今日も変わらず二人の声が響く。外ではセミが苛立つほどに鳴き、数時間前までは鮮やかに咲き誇ったアサガオもだらしなくしぼんでいる。窓辺から差し込む木漏れ日が点滴パックに反射している。「ほら、買ってきたぞ、食欲なくてもこれなら食えんだろ、アイス。」「おっ、わかってんじゃーん。んじゃ遠慮なくもらうね。」「アイスで思い出したけど、覚えてるか?一昨年行った夏祭り。あそこのアイスも美味かったよな。」「もちろん覚えてるよ、懐かしいなあ、あん時あんたが浮かれてたこ焼き落としたのも覚えてるもんね。」「余計なこと掘り返さなくていいんだよ、たださ、ほら、その…体調良くなったらまた行こうぜ、お祭り。」「もちろん、あ、でもわたあめ奢ってよね。」そのいたずらな笑顔が眩しい。「ったく、しょうがねえな。」「やった…ゴホッ、ゲホッ、」「おいおい、あんま無理すんなよ、まだ本調子じゃないんだから。」「そうだよね、ごめん...来年、いけてたらいいな、夏祭り。」「おい、縁起でもないこと言うなよ。んじゃ俺そろそろ部活あるし帰るな。体調気をつけろよ。」「はいはいわかってるから。」そうしてその日は病院を出た。

数週間後、

「はあ、はあ、」
大雨の後のぬかるんだ土を踏みながら病院へと急ぐ。真夏の日差しとセミの声が騒々しい。でも走るしかない。容態が急変したという知らせを聞いたのだから。病院内は心なしかいつもより消毒液の香りが鼻を衝く。
看護師に聞いた。「お願いします、彼女に会わせてください。」「癌による悪影響が急激に進行していますので、お早めにお済ませください。」
なんとか許可を得て病室に入る。数週間前までは仮病にも思えるほど輝いた笑顔を向けてくれた彼女と同一人物とは思えないほど衰弱し、虚ろな目をした少女が酸素マスクに繋がれてベッドに横たわっていた。

「おい!しっかりしろ!」「ああ…今日も来て、くれたんだ。」酸素マスク越しに曇った声が聞こえる。「当たり前だろ!おい、気失ったりすんじゃねえぞ!」「うん、私なりに頑張ってるんだけどね、多分…そろそろ限界だよ。」「ふざけんなよ!馬鹿!おい…しっかりしろって!」「…ごめんね、夏祭りの約束、破っちゃいそうだよ…」「…。」もう何も言えない。頭が真っ白になった。心電図のフラット音がピッピッと脳にこだまする。「ほら、そんな怖い顔しないで。最後くらい、笑ってよ。」「で、できねえよ…。」「…寂しいな、笑ってくれたらまたいつかお祭り…いけたかも…しれないのに。」こういう所は昔から抜かりない。「わ、わかった。笑えばいいんだろ?」焦りと悲しみでぎこちない作り笑顔を浮かべる。「諦めんなよ!がんばれって!た、頼むよ!」「いいの。もうすぐだって、分かってるから。」「もうすぐ、って…なんだよそれ…」「ありがとう。あんたのおかげでずっと退屈しないでいられた。ごめんね、約束、守れなくて。またどこかで会ったらさ、行こうね…。」「おい!やめろ!行くな…!」彼女が穏やかな笑みを浮かべて間もなく心電図のモニターからピーと終わりのサインが聞こえ、波線も一直線になった。「…くそっ。なんでだよ…、なんでなんだよ…!」先ほどまで確かに`そこにいた‘彼女の冷たくなった手に涙が零れる。それからのことはよく覚えていない。それでもこの季節になると毎年不思議と涙があふれる。
夕方だというのに未だ蒸し暑い空気の中、彼女の眠っている墓の前に来た。
「なあ、あれから何年経ったんだろうな。」「…またお前と行きたいな、夏祭り。」町の方を見ると子供たちがりんご飴やら綿あめやらを片手に元気よく走り回っている。
「ま、またすぐ来るから。そっちも元気で…やってけよな。」
合掌し、一礼してから墓地から離れるため歩き出す。夕焼けに照らされた墓石たちが橙色に染まり、雨上がりのぬかるんだ地面のそばでは散り始めた紫色のアサガオが雨の雫を滴らせ暗くなりかけた空を見上げている。つい先ほどまで蒸し暑かった空気から来た涼風が、僕の服をはためかせる。セミの声が鳴りやまぬ墓地から、僕は静かに去った。

おわり

短編小説初投稿なんで変なとこあったらごめんなさい、、
感想まってます!
やうさん(東京・14さい)からの相談
とうこう日:2023年8月28日みんなの答え:1件

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みんなの答え

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  • 天才かよ えっ、マジで泣いたんだけど。
    こういうパターンの話、よく聞くけど今回のはめっちゃ心に響いた。
    胡桃さん(神奈川・14さい)からの答え
    とうこう日:2023年10月15日
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