「あなたに救われたんだよ。」
小さい頃から足が遅い僕は、本当に何もかも置いてきぼりだった。
小学校の徒競走は三年連続最下位の記録を持つ。親はいつだって頑張ったことを褒めてくれていたけど、それをコンプレックスだとはっきり自覚したのは、中学二年生くらいの頃だった。
僕たちは休み時間、教室でふざけ合って遊んでいた。そして気づいたら周りの人がいなくなっていた。「やっべ、次理科じゃん」「うわまた怒られるぞ」そう言って教室を飛び出していく友人たち。僕は教科書を机の上に用意していて、そんなに遅れをとっていたわけじゃなかったのに、廊下に出ると気づいたら友人たちの背中は僕の前にあった。
「おっせーな。ちょっとは急げよー!」
「急いでるよ!」
そう言い返したけど、廊下の角を曲がって友人たちの姿が見えなくなると、途端に急ぐ気がなくなった。
なんで僕はいつもいつも、こんなに遅いんだろうか?
懸命に足を動かすたびにそれが思い起こされて、僕は思わず唇を噛んだ。
高校生に上がった僕は、陸上部に入った。何がなんでも、速くなりたい。中学からの経験者だらけの中で活動するのは確かに辛かったが、入部して三ヶ月の今、やっと自分のペースが掴めてきた。
部活からの帰り道。僕は中学の頃の友人に出会った。
色々バカにはされてきたけど、いい奴なのはいい奴だ。そいつらと雑談しながら道を歩いていた。ちょうど渡りかけた横断歩道で、青信号が点滅している。渡ろうか迷っている間に、他の奴らはもう渡りきっていた。自分の遅さの原因は判断力なんじゃないかと思い始めた。てかそれよりも、ヤバいまたバカにされそうだ。せっかく陸部入ったってのに。
「お前相変わらずだな」
「早くしろよ」
向こうで笑う友人たちの姿を見て思わずムキになった。これでも50メートル走のタイム上がったんだからさ!
地面を蹴った瞬間。目の前に何かが飛んできた。僕は立ち止まろうとしたができずに、そのままその「何か」につまづいて転んでしまう。いってぇ。膝を抑えてアスファルトに倒れ込む。凄まじい騒音が頭上を駆け抜けていった。何が起こったのか、全く理解できなかった。
「大丈夫かよ!」
「大丈夫?」
駆け寄ってくる影の中に、知らない顔があった。
朦朧とする意識の中で、それを見た。
僕の目を覗き込む、星空を映したような、どこまでも澄んだ瞳を。
「てわけで、一命を取り留めたわけ!」
病院のベッドで、隣に座る少女の説明を聞いた。
彼女は隣のクラスの花田さんという人で、この前偶然僕の近くを歩いていたらしい。僕が横断歩道を渡ろうとして、曲がってくる車に轢かれかけたのを、咄嗟にボールを投げて救ってくれたようだ。僕がつまづいてこけたのは、そのボールだった。
「ほんとに、ありがとう」
もしボールにつまづいてなければ、車に轢かれて命を落としていたのかもしれないのに、膝の骨折だけで済んでしまった。
感謝しても仕切れない、と僕は思った。
「ううん、感謝するのは……私の方だから」
突然、花田さんの目に涙が滲んだ。どうしたのかと思った。僕は分かりやすく動揺して視線を逸らしてしまった。
「私ね、バレー部だったの。毎日練習がキツくて、先生とか先輩に怒られて、部活に行くのが嫌になって……普通に学校で部活のメンバーに会うのも無理になって。この一ヶ月間ずっと不登校だったんだ……。家に閉じこもってたら生きるのが辛くなって、何気なくボール持って公園行こうとしてたの。バレーやったらまた元気になれるかな、なんて思ってさ……けども途中でもしここで死ねたらなんて思って」
そんな時に、僕を見つけた。
「反射的に、だったんだ。自分にこんなことできるんだ、って思って。私はまだ、誰かを救おう、って気持ちがあったんだって、自分に気付かされたんだ。だからね、助けられたのは私なの」
あなたに救われたんだよ。
そう言って花田さんは泣きながら微笑んだ。 ねねねねさん(選択なし・16さい)からの相談
とうこう日:2023年9月1日みんなの答え:2件
小学校の徒競走は三年連続最下位の記録を持つ。親はいつだって頑張ったことを褒めてくれていたけど、それをコンプレックスだとはっきり自覚したのは、中学二年生くらいの頃だった。
僕たちは休み時間、教室でふざけ合って遊んでいた。そして気づいたら周りの人がいなくなっていた。「やっべ、次理科じゃん」「うわまた怒られるぞ」そう言って教室を飛び出していく友人たち。僕は教科書を机の上に用意していて、そんなに遅れをとっていたわけじゃなかったのに、廊下に出ると気づいたら友人たちの背中は僕の前にあった。
「おっせーな。ちょっとは急げよー!」
「急いでるよ!」
そう言い返したけど、廊下の角を曲がって友人たちの姿が見えなくなると、途端に急ぐ気がなくなった。
なんで僕はいつもいつも、こんなに遅いんだろうか?
懸命に足を動かすたびにそれが思い起こされて、僕は思わず唇を噛んだ。
高校生に上がった僕は、陸上部に入った。何がなんでも、速くなりたい。中学からの経験者だらけの中で活動するのは確かに辛かったが、入部して三ヶ月の今、やっと自分のペースが掴めてきた。
部活からの帰り道。僕は中学の頃の友人に出会った。
色々バカにはされてきたけど、いい奴なのはいい奴だ。そいつらと雑談しながら道を歩いていた。ちょうど渡りかけた横断歩道で、青信号が点滅している。渡ろうか迷っている間に、他の奴らはもう渡りきっていた。自分の遅さの原因は判断力なんじゃないかと思い始めた。てかそれよりも、ヤバいまたバカにされそうだ。せっかく陸部入ったってのに。
「お前相変わらずだな」
「早くしろよ」
向こうで笑う友人たちの姿を見て思わずムキになった。これでも50メートル走のタイム上がったんだからさ!
地面を蹴った瞬間。目の前に何かが飛んできた。僕は立ち止まろうとしたができずに、そのままその「何か」につまづいて転んでしまう。いってぇ。膝を抑えてアスファルトに倒れ込む。凄まじい騒音が頭上を駆け抜けていった。何が起こったのか、全く理解できなかった。
「大丈夫かよ!」
「大丈夫?」
駆け寄ってくる影の中に、知らない顔があった。
朦朧とする意識の中で、それを見た。
僕の目を覗き込む、星空を映したような、どこまでも澄んだ瞳を。
「てわけで、一命を取り留めたわけ!」
病院のベッドで、隣に座る少女の説明を聞いた。
彼女は隣のクラスの花田さんという人で、この前偶然僕の近くを歩いていたらしい。僕が横断歩道を渡ろうとして、曲がってくる車に轢かれかけたのを、咄嗟にボールを投げて救ってくれたようだ。僕がつまづいてこけたのは、そのボールだった。
「ほんとに、ありがとう」
もしボールにつまづいてなければ、車に轢かれて命を落としていたのかもしれないのに、膝の骨折だけで済んでしまった。
感謝しても仕切れない、と僕は思った。
「ううん、感謝するのは……私の方だから」
突然、花田さんの目に涙が滲んだ。どうしたのかと思った。僕は分かりやすく動揺して視線を逸らしてしまった。
「私ね、バレー部だったの。毎日練習がキツくて、先生とか先輩に怒られて、部活に行くのが嫌になって……普通に学校で部活のメンバーに会うのも無理になって。この一ヶ月間ずっと不登校だったんだ……。家に閉じこもってたら生きるのが辛くなって、何気なくボール持って公園行こうとしてたの。バレーやったらまた元気になれるかな、なんて思ってさ……けども途中でもしここで死ねたらなんて思って」
そんな時に、僕を見つけた。
「反射的に、だったんだ。自分にこんなことできるんだ、って思って。私はまだ、誰かを救おう、って気持ちがあったんだって、自分に気付かされたんだ。だからね、助けられたのは私なの」
あなたに救われたんだよ。
そう言って花田さんは泣きながら微笑んだ。 ねねねねさん(選択なし・16さい)からの相談
とうこう日:2023年9月1日みんなの答え:2件
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私の感想は、、、 こんにちは!愛奈です!よろしくお願いします!
これは、花田さんが優しすぎですね!
私のクラスの子はリレーのとき、転んでしまって、ずっと攻められていたんです!
私は励まそうと思いましたが、励ませんでした!
このとき、花田さんがこの話をしてくれれば救われたと思います!
短文失礼しました!さようなら! 愛奈さん(千葉・11さい)からの答え
とうこう日:2023年10月20日 -
すご! 一年生の時にリレーしてて男子からもっと本気で走れよって言われました。(わたしは本気で走ってました。)しょうがないよね?? りなぞねすさん(愛知・11さい)からの答え
とうこう日:2023年10月20日
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