月明かりのための協奏曲
私には5つ上の姉がいるらしい。らしいって言うのは、私が生まれる前に死んでしまったからだ。
その5つ上の姉は、ピアノが大好きでピアニストを志していた。でも、姉はコンクールが終わった帰り道に事故に遭い、志半ばでこの世を去った。私は、この話を聞いた時、姉の無念を引き継いで、ピアニストになった。
私は星宮明里。12歳。ピアニスト。でも最近、コンサートなどでは不調続き。酷評だって、たくさんついている。今はピアノ協奏曲の練習中。協奏曲は、1つの楽器のソロとオーケストラの曲。次のコンサートで、挽回しなくては。1番の難所に引っかかった時、目の前が真っ暗になった。
目を開けた時、私は星空の美しい草原にいた。静寂の中から、ピアノの音色が聞こえてくる。ああ、ピアノソナタ「悲壮」だ。美しい旋律に、どこか物悲しい雰囲気のある曲。その曲が聞こえてくる方向に、私は歩き出した。
たどり着くと、一台のグラウンドピアノがあった。その前に座り、演奏をしている少女。月明かりのように静かで、物悲しげだったその少女は、私とどこか似ていたが、今の私には関係のないことだった。彼女の演奏が終わると、私は拍手をした。その拍手に気づいた少女は、私を見て、にっこりと笑った。
「こんばんは。あなたは、ピアノが好き?」
柔らかくて、優しい少女の笑みの問いかけに私は頷いた。
「好きだよ」
少女は、少し悲しそうな表情を浮かべると「そうには見えない」といった。訳がわからない。
「どうして」と私は問いかける。
「じゃあ、弾いてみる?」
私はピアノの前に座った。そして、得意のリストの曲を弾いてみせた。私は私の音が、昔のような、楽しさを失っていたことに気づく 。
「音楽ってさ、」彼女が言った。
「『音を楽しむ』って書くよね。あなたのその音は、『評価』という柵に囚われすぎている。あなたは周りを見すぎているんじゃない?自分のことをよく知って、自分が自分のことを認められるようになってから、本物のピアニストになれるんじゃないかな。」
私は心を打たれた。そうだった。私は、周りの評価を気にしすぎるあまり、スランプに陥った。それに気づき、私は、嬉しさと、喜びのあまり泣いていた。
その少女は、私が泣いている時静かに見守っていてくれた。
私が泣き終えると、もう一回、「弾いてみる?」と言ってくれた。
私なら、ここで超絶技巧練習曲を弾いていた。でも、今の私は。
私は、昔作った曲『月明かりのための協奏曲』のピアノパートを弾いた。彼女は、月明かりを思わせるような静かな人で、優しい人だったから。昔否定された曲を、今なら、昔の私に戻って、弾けそうだったから。
最後の和音を弾くと、待っていたと言わんばかりに、月が沈み、陽が昇ってきた。
「この世界は、夜にしか入れないの。だから、もうお別れ。」
少女が言った。少女の後ろ姿が、どんどん遠ざかっていく。私はそれが耐えられなかった。せめて、名前だけでも!
「あの!あなたの名前は?!」
私の叫び声に気づいた少女が言った。
「星宮光里、あかり、頑張ってね」
光里は、私の手の中に、何かを投げ込んだ。
私はハッと目を覚ました。
目の前に広がるのは白い天井。それと点滴。
「お母さん、明里さん、目を覚ましましたよ。明里さんは、極度の疲労状態でした。酷評や、演奏のスランプが原因でしょう。休ませてください」
医者の説明をぼんやりと聞いていた。お母さんも、心配してくれている。
ふと、手に何かが入っていることに気づいた。それは、
ピアノを象った、小さなオルゴールだった。そこには、「星宮光里」とあの子の名前が彫ってある。
お母さんたちが出て行くと、そっと回してみた。奏でられたのはピアノソナタ悲壮、そして、ピアノソナタ月光だった。私は、そっと涙を流す。
ありがとう。私、頑張るよ。姉さんの分まで。
柵…しがらみ まとわりついて、関係の断てないもの
FIN
*晶星*あきほし♯元水晶.。◯さん(静岡・12さい)からの相談
とうこう日:2023年9月24日みんなの答え:5件
その5つ上の姉は、ピアノが大好きでピアニストを志していた。でも、姉はコンクールが終わった帰り道に事故に遭い、志半ばでこの世を去った。私は、この話を聞いた時、姉の無念を引き継いで、ピアニストになった。
私は星宮明里。12歳。ピアニスト。でも最近、コンサートなどでは不調続き。酷評だって、たくさんついている。今はピアノ協奏曲の練習中。協奏曲は、1つの楽器のソロとオーケストラの曲。次のコンサートで、挽回しなくては。1番の難所に引っかかった時、目の前が真っ暗になった。
目を開けた時、私は星空の美しい草原にいた。静寂の中から、ピアノの音色が聞こえてくる。ああ、ピアノソナタ「悲壮」だ。美しい旋律に、どこか物悲しい雰囲気のある曲。その曲が聞こえてくる方向に、私は歩き出した。
たどり着くと、一台のグラウンドピアノがあった。その前に座り、演奏をしている少女。月明かりのように静かで、物悲しげだったその少女は、私とどこか似ていたが、今の私には関係のないことだった。彼女の演奏が終わると、私は拍手をした。その拍手に気づいた少女は、私を見て、にっこりと笑った。
「こんばんは。あなたは、ピアノが好き?」
柔らかくて、優しい少女の笑みの問いかけに私は頷いた。
「好きだよ」
少女は、少し悲しそうな表情を浮かべると「そうには見えない」といった。訳がわからない。
「どうして」と私は問いかける。
「じゃあ、弾いてみる?」
私はピアノの前に座った。そして、得意のリストの曲を弾いてみせた。私は私の音が、昔のような、楽しさを失っていたことに気づく 。
「音楽ってさ、」彼女が言った。
「『音を楽しむ』って書くよね。あなたのその音は、『評価』という柵に囚われすぎている。あなたは周りを見すぎているんじゃない?自分のことをよく知って、自分が自分のことを認められるようになってから、本物のピアニストになれるんじゃないかな。」
私は心を打たれた。そうだった。私は、周りの評価を気にしすぎるあまり、スランプに陥った。それに気づき、私は、嬉しさと、喜びのあまり泣いていた。
その少女は、私が泣いている時静かに見守っていてくれた。
私が泣き終えると、もう一回、「弾いてみる?」と言ってくれた。
私なら、ここで超絶技巧練習曲を弾いていた。でも、今の私は。
私は、昔作った曲『月明かりのための協奏曲』のピアノパートを弾いた。彼女は、月明かりを思わせるような静かな人で、優しい人だったから。昔否定された曲を、今なら、昔の私に戻って、弾けそうだったから。
最後の和音を弾くと、待っていたと言わんばかりに、月が沈み、陽が昇ってきた。
「この世界は、夜にしか入れないの。だから、もうお別れ。」
少女が言った。少女の後ろ姿が、どんどん遠ざかっていく。私はそれが耐えられなかった。せめて、名前だけでも!
「あの!あなたの名前は?!」
私の叫び声に気づいた少女が言った。
「星宮光里、あかり、頑張ってね」
光里は、私の手の中に、何かを投げ込んだ。
私はハッと目を覚ました。
目の前に広がるのは白い天井。それと点滴。
「お母さん、明里さん、目を覚ましましたよ。明里さんは、極度の疲労状態でした。酷評や、演奏のスランプが原因でしょう。休ませてください」
医者の説明をぼんやりと聞いていた。お母さんも、心配してくれている。
ふと、手に何かが入っていることに気づいた。それは、
ピアノを象った、小さなオルゴールだった。そこには、「星宮光里」とあの子の名前が彫ってある。
お母さんたちが出て行くと、そっと回してみた。奏でられたのはピアノソナタ悲壮、そして、ピアノソナタ月光だった。私は、そっと涙を流す。
ありがとう。私、頑張るよ。姉さんの分まで。
柵…しがらみ まとわりついて、関係の断てないもの
FIN
*晶星*あきほし♯元水晶.。◯さん(静岡・12さい)からの相談
とうこう日:2023年9月24日みんなの答え:5件
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感動! 私は将来演奏家になりたいと思っています。
「音楽は音を楽しむ。」この言葉に改めて、音楽とは何か、わたしに気づかせてくれました。
こんなに素敵な物語、今日出会えて本当によかったです。
ありがとうございます。 夢藍さん(愛知・11さい)からの答え
とうこう日:2023年11月19日 -
ステキです!!!o((>ω< ))o 私もピアノ習っているんですけど、改めて音楽を楽しむって大切だなって
思いました!!*晶星さん、将来こういう音楽に関するマンガや小説書けそうですよ!! ポケピース大好き子!!さん(三重・10さい)からの答え
とうこう日:2023年11月19日 -
感動しました! タイトルにもあるとうり、感動しました!
特に、「音楽は音を楽しむと書く」といっていたところがとても
良かったです!すごく良い話だと思いました。 なにぬねののさん(愛知・11さい)からの答え
とうこう日:2023年11月19日 -
めっちゃ凄い!! どーも(`。・ω・。)元紗蘭の花凜だよっ*。ヾ(。>v<。)ノ゙*。
よろしくねっo(。・ω・。)o
*本題*
めっちゃ凄い!!
おつかりん(`・ω・´)ゞ 花凜さん(岐阜・12さい)からの答え
とうこう日:2023年11月19日 -
感動ぅぅぅぅぅぅ! どうも!みほです!
☆彡START☆彡
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!(泣)
すごぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!
感動したぁ!
特に最後!
「姉さんの分まで頑張るよ」
って言うところ!
感動したぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
素敵なお話、ありがとう!
☆彡FINISSYU☆彡
ばいちゃ!(・◇・)/~~~ みほ*実歩/キズなん大好き!さん(兵庫・11さい)からの答え
とうこう日:2023年11月19日
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