「ありがとう」って言うと死ぬ病気
三瀬君は口下手だ。慎重さが災いし、うまく話せなくなるらしい。発する機会を逃した彼の言葉は、気まずさと共に飲み込まれて消えていく。
もったいないな、と私は思っている。三瀬君が好きだから。
「気持ちは嬉しいけど…付き合ったら、遠野さんは後悔する。俺の話…遅いし、つまるし…イラつくだろ?遠野さんに嫌われるのは、辛いんだ…。」
告白した私へ、たどたどしく説明する三瀬君。ふられる方向へ話が進んでいる気がする。
「私、三瀬君の好みじゃないかな?」
「違っ…!」
躊躇せず核心から切り込むと、三瀬君が目を張る。驚かせて申し訳ないが、直球で確認するのを許してほしい。交際を断りたいのか、言葉通りの理由で躊躇しているだけなのか、重要な問題だ。
「それとも、女としれ見れない?もっと可愛いタイプが理想とか、そういうの?」
「ち、違うって!全然違う!」
「あ…もう、他に好きな子がいるとか」
「待って待って、遠野さん。そんな子、いない…どこから出てきたの…?」
彼は表情豊かで裏表がない人だ。私の告白を迷惑がるそぶりはない。
三瀬君との出会いは、高校で同じクラスになったこと。美会員を押し付けられても、面倒臭がることなく清掃に取り組む姿が輝いていた。誰かを恨んだりしない優しい眼差しや男前すぎる行動に引かれたのだ。トークスキルはどうでもいい。むしろ、慎重な話し方さえ、控えめに言って大好きだった。
「ならいいじゃん。付き合ってみよう。三瀬君と話すの、楽しいし、嫌いになんかならないよ。」
三瀬君の顔が赤く染まった。
「わ、わかった…付き合おうか…。あの…えっと…遠野さん。」
「うん」
「ごめんね」
「うん!?」
何故、謝る?付き合えるんじゃなかったけ?やっぱり、私、ふられるの?
どっと、不穏な疑問が押し寄せる。幸せに舞い上がった心臓が止まりかけた。混乱する私に気づかず三瀬君が照れくさそうに微笑む。
「これから…その…よろしくね。」
「うんっ!!」
良かった。付き合える事で正解だったらしい。安堵と喜びで先ほどの驚きを忘れてしまった。けれど、三瀬君の言った「ごめん」の意味は、さっそく翌日に判明した。
大好きな人が彼氏になる喜びは凄まじい。遠足当日の小学生以上に歓喜した私は、スマホのアラームより先に目覚めて、早朝のキッチンの前に立っていた。
「三瀬君、いつも購買のパンなんだよね。お弁当、迷惑かな喜んでくれるといいな。ありがとうっていってくれるかな。うふふふっ」
私の希望はというと、半分は叶い、半分は叶わなかった。
「て、手作り弁当…?嬉しいな…」
三瀬君が柔らかい笑みを浮かべる。
「遠野さん、ごめんね」
結論から言えば、三瀬君は「ありがとう」のかわりに「ごめんね」を言う人だった。
三瀬君との関係は、順調に進んだ。私は、彼を、更に好きになった。
「だけどね、だからこそ気になるの。謝られると辛いの。『ごめん』じゃなくて『ありがとう』って言って欲しい」
「へー」
相談した私に、友達の桜が雑な返事をする。めんどくさい悩みだ。相手をしてくれるだけ有難い。
「本人に言ってみれば?」
「だめだめ。三瀬君口下手なの気にしてるんだよ。頭良いし、自分でもわかってて直せないんじゃないかな…」
「でも引っかかるんでしょ。三瀬君は、『ありがとう』って言うと死んじゃう病気だと考えれば?」
「ちょっ、やめて!」
「ごめん、冗談だってば」
ただの軽口。けれど桜の言葉は棘のように心に刺さって抜けなかった。
「遠野さんの、弁当…毎日、楽しみ。いつもごめんね」
___三瀬君は『ありがとう』って言うとら死んじゃう病気なんだよ。
ゾッとした。三瀬君に何かあるなんて、冗談でも考えたくない。幸せになれて、贅沢になった自分をいじめられた心境だった。
「どうしたの?顔、青い…。保健室、行こう」
「う、ううん。なんだもない、大丈夫」
それからは、三瀬君の口癖を気にしないようにした。感謝の気持ちは伝わっているし、彼が元気ならそれでいい。
楽しい高校生活は過ぎていき、卒業式を迎えた。卒業証書を持ったむせ君が側にいる。
彼は、相変わらず口下手だが私と話す時は言葉に詰まらない。それが信頼の証なら嬉しいと、私はこっそりと暖かい思いを抱えている。
「高校、楽しかったね。」
「そうだね」
頷いた三瀬君が、じっと見つめてくる。
「一緒にいてくれて、ありがとう」
待ち望んだ言葉にハッと息をつめた。瞼が熱くなり、大粒の涙が頬を滑る。唇を震わせ、私は言った。
「三瀬君、死なないでぇ!!」
「ええっ!!」
泣きじゃくる私の説明に、三瀬君は明るく笑った。百歳まで生きると約束した彼と手を繋ぐ。伝えられなかった言葉伝えた私達は、これからも一緒にいたいと願い、早春の桜を見上げいる。 sumikkogurさん(東京・11さい)からの相談
とうこう日:2023年10月22日みんなの答え:2件
もったいないな、と私は思っている。三瀬君が好きだから。
「気持ちは嬉しいけど…付き合ったら、遠野さんは後悔する。俺の話…遅いし、つまるし…イラつくだろ?遠野さんに嫌われるのは、辛いんだ…。」
告白した私へ、たどたどしく説明する三瀬君。ふられる方向へ話が進んでいる気がする。
「私、三瀬君の好みじゃないかな?」
「違っ…!」
躊躇せず核心から切り込むと、三瀬君が目を張る。驚かせて申し訳ないが、直球で確認するのを許してほしい。交際を断りたいのか、言葉通りの理由で躊躇しているだけなのか、重要な問題だ。
「それとも、女としれ見れない?もっと可愛いタイプが理想とか、そういうの?」
「ち、違うって!全然違う!」
「あ…もう、他に好きな子がいるとか」
「待って待って、遠野さん。そんな子、いない…どこから出てきたの…?」
彼は表情豊かで裏表がない人だ。私の告白を迷惑がるそぶりはない。
三瀬君との出会いは、高校で同じクラスになったこと。美会員を押し付けられても、面倒臭がることなく清掃に取り組む姿が輝いていた。誰かを恨んだりしない優しい眼差しや男前すぎる行動に引かれたのだ。トークスキルはどうでもいい。むしろ、慎重な話し方さえ、控えめに言って大好きだった。
「ならいいじゃん。付き合ってみよう。三瀬君と話すの、楽しいし、嫌いになんかならないよ。」
三瀬君の顔が赤く染まった。
「わ、わかった…付き合おうか…。あの…えっと…遠野さん。」
「うん」
「ごめんね」
「うん!?」
何故、謝る?付き合えるんじゃなかったけ?やっぱり、私、ふられるの?
どっと、不穏な疑問が押し寄せる。幸せに舞い上がった心臓が止まりかけた。混乱する私に気づかず三瀬君が照れくさそうに微笑む。
「これから…その…よろしくね。」
「うんっ!!」
良かった。付き合える事で正解だったらしい。安堵と喜びで先ほどの驚きを忘れてしまった。けれど、三瀬君の言った「ごめん」の意味は、さっそく翌日に判明した。
大好きな人が彼氏になる喜びは凄まじい。遠足当日の小学生以上に歓喜した私は、スマホのアラームより先に目覚めて、早朝のキッチンの前に立っていた。
「三瀬君、いつも購買のパンなんだよね。お弁当、迷惑かな喜んでくれるといいな。ありがとうっていってくれるかな。うふふふっ」
私の希望はというと、半分は叶い、半分は叶わなかった。
「て、手作り弁当…?嬉しいな…」
三瀬君が柔らかい笑みを浮かべる。
「遠野さん、ごめんね」
結論から言えば、三瀬君は「ありがとう」のかわりに「ごめんね」を言う人だった。
三瀬君との関係は、順調に進んだ。私は、彼を、更に好きになった。
「だけどね、だからこそ気になるの。謝られると辛いの。『ごめん』じゃなくて『ありがとう』って言って欲しい」
「へー」
相談した私に、友達の桜が雑な返事をする。めんどくさい悩みだ。相手をしてくれるだけ有難い。
「本人に言ってみれば?」
「だめだめ。三瀬君口下手なの気にしてるんだよ。頭良いし、自分でもわかってて直せないんじゃないかな…」
「でも引っかかるんでしょ。三瀬君は、『ありがとう』って言うと死んじゃう病気だと考えれば?」
「ちょっ、やめて!」
「ごめん、冗談だってば」
ただの軽口。けれど桜の言葉は棘のように心に刺さって抜けなかった。
「遠野さんの、弁当…毎日、楽しみ。いつもごめんね」
___三瀬君は『ありがとう』って言うとら死んじゃう病気なんだよ。
ゾッとした。三瀬君に何かあるなんて、冗談でも考えたくない。幸せになれて、贅沢になった自分をいじめられた心境だった。
「どうしたの?顔、青い…。保健室、行こう」
「う、ううん。なんだもない、大丈夫」
それからは、三瀬君の口癖を気にしないようにした。感謝の気持ちは伝わっているし、彼が元気ならそれでいい。
楽しい高校生活は過ぎていき、卒業式を迎えた。卒業証書を持ったむせ君が側にいる。
彼は、相変わらず口下手だが私と話す時は言葉に詰まらない。それが信頼の証なら嬉しいと、私はこっそりと暖かい思いを抱えている。
「高校、楽しかったね。」
「そうだね」
頷いた三瀬君が、じっと見つめてくる。
「一緒にいてくれて、ありがとう」
待ち望んだ言葉にハッと息をつめた。瞼が熱くなり、大粒の涙が頬を滑る。唇を震わせ、私は言った。
「三瀬君、死なないでぇ!!」
「ええっ!!」
泣きじゃくる私の説明に、三瀬君は明るく笑った。百歳まで生きると約束した彼と手を繋ぐ。伝えられなかった言葉伝えた私達は、これからも一緒にいたいと願い、早春の桜を見上げいる。 sumikkogurさん(東京・11さい)からの相談
とうこう日:2023年10月22日みんなの答え:2件
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面白かった☆ こんちゃ☆こーぽーだよ☆
すっごい面白かった☆けど、ちょっと深かった!す、すごい、、、、
こーぽーさん(大阪・10さい)からの答え
とうこう日:2023年12月29日 -
変な感情 sumikkogrさん!あなたは天才だよ!!
でもすぐ読み終わっちゃった!後から見てみたらこんな長い文章をあっという間に読んじゃったんだなって言う実感!この話に飲み込まれたかも笑
三瀬さんはありがとうって言うと死んじゃう病気じゃなくてよかった!
最後は急展開!最後の「死なないでぇ」はまじ笑った!だけど面白いと感動が合わさってて最高だった!
年下なのにこんなすっっごい話しつくれるなんて凄すぎる!
本当に才能あると思う!!
これからも応援してる!
これからも面白くて感動する話待ってます!
もなさん(埼玉・12さい)からの答え
とうこう日:2023年12月29日
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