氷の蓮
朔郎はただ一人、雪女山脈と呼ばれる山脈を登っていた。空気は肺まで凍ってしまいそうなほど冷たい。長い間誰も通らなかった道は険しく、彼の体力を奪う。
この山脈は一年中雪に覆われていて、一番高い山、雪永山には昔から雪女が住んでいるという。そして雪永山の山頂付近には古寺と、氷の蓮が咲いている池があって雪女がそこに住んでいるという。氷の蓮は、どんなに重い熱病でも治してしまう秘薬だと言われている。実のところ朔郎は秘薬の話を馬鹿げた迷信だと思っていたが、たった一人の家族である妹の永子が熱病に罹ってしまった。朔郎は妹を助ける為に迷信に縋ることにした。
朔郎は雪永山にの山頂付近で力尽きて倒れてしまった。遠のく意識の中、朔郎は最後に声を絞り出した。
「すまねぇなぁ、永子」
途切れそうな意識の中、朔郎は最後に自分触れる冷たい手を感じた。
次に目覚めた時、地面はもはや雪ではなく、古びた木の床だった。朔郎はさっきまでは全て夢で、本当は永子は元気だと思ったが、そんな考えはすぐに消え去った。
彼の目の前には死者を意味する白い装束の女が立っていた。艶やかな黒い髪は腰までたくわえてある。その気配は、彼女こそが雪永山の雪女だとすぐにわかった。朔郎はしばらく呆然としていたが、なんとか声を絞り出した
「氷の蓮ってのを分けてくれないか?」
すると女は呆れた様な顔をして、彼の側に腰掛けた。
「最初に名乗るのが礼儀ってもんじゃないのかい?」
「すまない。気が動転した。俺は東村の朔郎だ。妹が熱病にかかっちまって、どうしても氷の蓮がいるんだ。なんでもするから一輪分けて欲しい」
雪女は彼を値踏みする様な目で見た
「なんでも、ねぇ」
そう言って雪女は笑った。
「良いぞ、分けてやろう。ただしここに三日続けてくるならだ。何、ここまで導いてやるからすぐにつく。なかなか良い話だろう?」
「それじゃダメだ!間に合わない!」
雪女はまた考えた。
「じゃあ、1日に花弁を一枚ずつでどうだい?花弁三枚で熱病はちゃんと治るよ」
「分かった。三日ここに通うよ」
雪女は寺を出て池の蓮を一輪採ってきた。そして花弁を一枚千切って彼に渡した。
「もう朝だ。今日はこれで帰りな」
朔郎は寺を後にした。
朔郎は永子に氷の蓮を煎じて永子に飲ませたると、日が傾きかけた頃に雪永山へ向かった。前回来た時とは違い、今回は雪女の力のおかげか前よりずっと楽に進めた。それどころか長い時間がかかった道のりが、たった一時間で古寺まで辿りついた。
そっと寺の中に入っていくと、雪女は髪を櫛でとかしていた。朔郎は雪女の姿に見惚れてしまい、入り口近くでじっと見つめた。しばらくして開けたままの扉から風が吹いて雪女は彼に気がついて、微笑みかけた。
「おお、待っていたぞ。ほら、お前にここは寒かろう。火ををつけておいたぞ」
雪女は囲炉裏の火に指差して側に来る様に促した。朔郎は荷物を置いて彼女の近くに座った。彼女は朔郎に微笑んで言った。
「朔郎、あんたには私の話し相手になって欲しい。ここで一人だとどうも寂しいんだ」
「ああ、花の礼だ、気の済むまで相手してやる。ところで、お前さんのことは何て呼べばいい?」
雪女は驚いた顔で目をぱちくりしている。
「なぜ?」
「なぜって、ずっとお前さんって呼ぶわけにいかないだろ?」
雪女は戸惑って俯いた。朔郎は明るい調子で続けた。
「あんたの髪は絹みたいに綺麗だから絹って呼んでいいか?」
絹は小さく頷いた。
「好きに呼べばいい」
朔郎は確かに真っ白な絹の顔が赤くなっているのが見えた。
二日目も夜が明けて朝が来た。絹は昨日採った蓮の花弁を2枚千切って朔郎に渡した。
「名前の礼だ」
絹はそういう間も彼と目を合わせようとしない。
「これで三枚になっちまうよ、受け取れない」
「今夜は来なくても良い、お前の好きにしてくれ」
絹は俯いた。朔郎は美しい彼女の髪に触れたいと思って手を伸ばすが、衝動を押さえ込んで手を引っ込めた。次はキヌに髪油を持ってきてやろうと思った。
朔郎が山を降りて家に帰ると永子は見違えるほどよくなっていた。花弁を飲ませて、また日が傾きかけた頃に彼は山に行った。
古寺に着くと絹は驚いた面持ちで朔郎を見た。朔郎は固まらない様に懐に入れておいた髪油を取り出した。
「俺にあんたの髪を触らせてくんねぇかい?」
絹はまた呆然した。
朔郎は櫛に油をつけてキヌの髪に塗った。その髪は力を入れずにスッと櫛が通った。朔郎は絹が愛おしく感じて言った
「なあ、絹。俺が明日かんざしを持ってここにきたらどうする?」
「どういう意味だい?」
「お前さんと夫婦になりたいって意味だ」
絹は赤面してこくりと頷いた。
ヒースさん(三重・14さい)からの相談
とうこう日:2023年11月12日みんなの答え:1件
この山脈は一年中雪に覆われていて、一番高い山、雪永山には昔から雪女が住んでいるという。そして雪永山の山頂付近には古寺と、氷の蓮が咲いている池があって雪女がそこに住んでいるという。氷の蓮は、どんなに重い熱病でも治してしまう秘薬だと言われている。実のところ朔郎は秘薬の話を馬鹿げた迷信だと思っていたが、たった一人の家族である妹の永子が熱病に罹ってしまった。朔郎は妹を助ける為に迷信に縋ることにした。
朔郎は雪永山にの山頂付近で力尽きて倒れてしまった。遠のく意識の中、朔郎は最後に声を絞り出した。
「すまねぇなぁ、永子」
途切れそうな意識の中、朔郎は最後に自分触れる冷たい手を感じた。
次に目覚めた時、地面はもはや雪ではなく、古びた木の床だった。朔郎はさっきまでは全て夢で、本当は永子は元気だと思ったが、そんな考えはすぐに消え去った。
彼の目の前には死者を意味する白い装束の女が立っていた。艶やかな黒い髪は腰までたくわえてある。その気配は、彼女こそが雪永山の雪女だとすぐにわかった。朔郎はしばらく呆然としていたが、なんとか声を絞り出した
「氷の蓮ってのを分けてくれないか?」
すると女は呆れた様な顔をして、彼の側に腰掛けた。
「最初に名乗るのが礼儀ってもんじゃないのかい?」
「すまない。気が動転した。俺は東村の朔郎だ。妹が熱病にかかっちまって、どうしても氷の蓮がいるんだ。なんでもするから一輪分けて欲しい」
雪女は彼を値踏みする様な目で見た
「なんでも、ねぇ」
そう言って雪女は笑った。
「良いぞ、分けてやろう。ただしここに三日続けてくるならだ。何、ここまで導いてやるからすぐにつく。なかなか良い話だろう?」
「それじゃダメだ!間に合わない!」
雪女はまた考えた。
「じゃあ、1日に花弁を一枚ずつでどうだい?花弁三枚で熱病はちゃんと治るよ」
「分かった。三日ここに通うよ」
雪女は寺を出て池の蓮を一輪採ってきた。そして花弁を一枚千切って彼に渡した。
「もう朝だ。今日はこれで帰りな」
朔郎は寺を後にした。
朔郎は永子に氷の蓮を煎じて永子に飲ませたると、日が傾きかけた頃に雪永山へ向かった。前回来た時とは違い、今回は雪女の力のおかげか前よりずっと楽に進めた。それどころか長い時間がかかった道のりが、たった一時間で古寺まで辿りついた。
そっと寺の中に入っていくと、雪女は髪を櫛でとかしていた。朔郎は雪女の姿に見惚れてしまい、入り口近くでじっと見つめた。しばらくして開けたままの扉から風が吹いて雪女は彼に気がついて、微笑みかけた。
「おお、待っていたぞ。ほら、お前にここは寒かろう。火ををつけておいたぞ」
雪女は囲炉裏の火に指差して側に来る様に促した。朔郎は荷物を置いて彼女の近くに座った。彼女は朔郎に微笑んで言った。
「朔郎、あんたには私の話し相手になって欲しい。ここで一人だとどうも寂しいんだ」
「ああ、花の礼だ、気の済むまで相手してやる。ところで、お前さんのことは何て呼べばいい?」
雪女は驚いた顔で目をぱちくりしている。
「なぜ?」
「なぜって、ずっとお前さんって呼ぶわけにいかないだろ?」
雪女は戸惑って俯いた。朔郎は明るい調子で続けた。
「あんたの髪は絹みたいに綺麗だから絹って呼んでいいか?」
絹は小さく頷いた。
「好きに呼べばいい」
朔郎は確かに真っ白な絹の顔が赤くなっているのが見えた。
二日目も夜が明けて朝が来た。絹は昨日採った蓮の花弁を2枚千切って朔郎に渡した。
「名前の礼だ」
絹はそういう間も彼と目を合わせようとしない。
「これで三枚になっちまうよ、受け取れない」
「今夜は来なくても良い、お前の好きにしてくれ」
絹は俯いた。朔郎は美しい彼女の髪に触れたいと思って手を伸ばすが、衝動を押さえ込んで手を引っ込めた。次はキヌに髪油を持ってきてやろうと思った。
朔郎が山を降りて家に帰ると永子は見違えるほどよくなっていた。花弁を飲ませて、また日が傾きかけた頃に彼は山に行った。
古寺に着くと絹は驚いた面持ちで朔郎を見た。朔郎は固まらない様に懐に入れておいた髪油を取り出した。
「俺にあんたの髪を触らせてくんねぇかい?」
絹はまた呆然した。
朔郎は櫛に油をつけてキヌの髪に塗った。その髪は力を入れずにスッと櫛が通った。朔郎は絹が愛おしく感じて言った
「なあ、絹。俺が明日かんざしを持ってここにきたらどうする?」
「どういう意味だい?」
「お前さんと夫婦になりたいって意味だ」
絹は赤面してこくりと頷いた。
ヒースさん(三重・14さい)からの相談
とうこう日:2023年11月12日みんなの答え:1件
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絶対両思い! こんちはーぱるです!
絹さんと朔郎さん絶対両思いじゃないですか!
この後どうなったかめっちゃ気になります。
ていうかヒースさん同じ三重県民じゃん!
またにゃん♪ ぱるるさん(三重・11さい)からの答え
とうこう日:2024年1月21日
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