進行形
「こっちだっけな…」
スマホとビニール袋を右手に、傘を左手に
狭い道路を進んで行く
3月26日、春休みの真っ只中
転校してしまう、クラスメイトの早坂さんの為に
お小遣いを使ってプリンを買った
父から借りたスマホでマップを見ている筈なのに、辿り着くのにかなり時間が掛かっている
だけど、絶対届けたい
早坂さんは第一印象は怖かったけれど
ちょっと不器用なだけで、優しい人だと言うことが過ごすうちにわかった
よく算数のワークを教えてもらったっけなぁ…
その為にも… ちゃんとお礼を言わなければいけない
何回も喧嘩して、謝らなきゃいけない
そんな事を考えながら歩いてる内に、ようやく目的地に着いた
私はマンションの扉を開け
薄暗い廊下を進んで行く
一階の端の部屋に「早坂」と表札がドアの横に掛けられている
寒くて震えているのか、不安で震えているのかわからない指で
インターホンを押す
「はーい」
「は、早坂さんのクラスメイトの藤井です。」
「あ、はーい!蓮人!」
女の人の声が聞こえ、しばらくすると
私服姿の早坂さんが出て来た
「…これ」
「…ありがと」
言おうと思っていた言葉
案外、その時が来ると言えないもの
「迷惑かけてごめんね」と「今までありがとう」
その二つが、言えなかった
今まで迷惑をかけてきたから?
ばたりと扉が閉まる
私は…一体、何をしに来たんだろう?
その後はただ…何も考えずに家に帰った
ざー、ざーっと雨が傘を打ちつける
不運にも、始業式の登校日だと言うのに
激しく雨が降っていた
靴箱で傘を畳み、6年生への教室へ向かう
6年2組の教室は…春休み明けという事でいつもより騒がしい
雨で濡れたランドセルを降ろし、片付けを始める
私はふと思い立ったかのように、前の席を見つめる
優しかったあの人は、もうこの学校には来ない
一週間ほど前の…あの時の出来事を思い出し
私は不安に襲われ、後悔で涙が出そうになり、ぐっと堪える
もし伝えれていれば……
きっと、明るく「またいつか」と言い合えたのだろうか
周りにバレない程度の小さい溜息を吐く
私は気持ちを抑える為に、わざと元気な声で
友達と話し始めた
「春休み、何した?」
「ゲームかなぁ、あ、あと新しい缶バッジ買った!」
「そうなんだぁ、私は旅行行ったよ」
他愛のない会話
頭から離れられない不安と後悔により
私の声には焦燥感が混じっている
なんなんだよ、本当に
そう思った時
「はーい、皆さん、そろそろ並んでください
始業式へ行きますよ」
先生の声が教室に響いた
皆はどんどん教室から出ていき、廊下へ並んで行く
私も教室を出ようと思ったが、先生に呼び止められた
「あ、藤井さん、これ
届けて下さいって言われたんです」
先生から、薄いピンクの桜模様の小さなチャック付きポリ袋を差し出された
中には「藤井さんへ」と書いてある紙が入っているのが見える
私は受け取ると廊下のロッカーの横に座り
チャックを開けて手紙を取り出す
「藤井さんへ
見送ってあげられなくてごめんね
プリン、美味しかったよー!
早坂より」
お世辞にも綺麗と言えないような字で
書いてあるのはそれだけだった
だけど
それが嘘でも、本当だとしても
この手紙を書いてくれたということだけが嬉しかった
「こちらこそごめんね」
小さくそう呟く
でも、いつかまた会えたら
その時はありがとうの気持ちの方を強く伝えてあげよう
「出発します」
学級委員長の言葉で、私はハッとする
急いで教室に戻り、机の中に袋に入った手紙を入れて、また廊下に出る
止まっていい
振り返っていい
だけど、戻る事は決して出来ない
今までの時間は無駄でも、特別有意義でも無かった
また会える事の方を願おう
少し空いた廊下の窓から、冷たい雨風が吹き込んだ
今は進む時間
ゆっくりと廊下を歩く列を、私はスキップするように追い始める
私の弾んだ足音が、廊下に響き渡った ストさん(香川・12さい)からの相談
とうこう日:2024年1月9日みんなの答え:0件
「こっちだっけな…」
スマホとビニール袋を右手に、傘を左手に
狭い道路を進んで行く
3月26日、春休みの真っ只中
転校してしまう、クラスメイトの早坂さんの為に
お小遣いを使ってプリンを買った
父から借りたスマホでマップを見ている筈なのに、辿り着くのにかなり時間が掛かっている
だけど、絶対届けたい
早坂さんは第一印象は怖かったけれど
ちょっと不器用なだけで、優しい人だと言うことが過ごすうちにわかった
よく算数のワークを教えてもらったっけなぁ…
その為にも… ちゃんとお礼を言わなければいけない
何回も喧嘩して、謝らなきゃいけない
そんな事を考えながら歩いてる内に、ようやく目的地に着いた
私はマンションの扉を開け
薄暗い廊下を進んで行く
一階の端の部屋に「早坂」と表札がドアの横に掛けられている
寒くて震えているのか、不安で震えているのかわからない指で
インターホンを押す
「はーい」
「は、早坂さんのクラスメイトの藤井です。」
「あ、はーい!蓮人!」
女の人の声が聞こえ、しばらくすると
私服姿の早坂さんが出て来た
「…これ」
「…ありがと」
言おうと思っていた言葉
案外、その時が来ると言えないもの
「迷惑かけてごめんね」と「今までありがとう」
その二つが、言えなかった
今まで迷惑をかけてきたから?
ばたりと扉が閉まる
私は…一体、何をしに来たんだろう?
その後はただ…何も考えずに家に帰った
ざー、ざーっと雨が傘を打ちつける
不運にも、始業式の登校日だと言うのに
激しく雨が降っていた
靴箱で傘を畳み、6年生への教室へ向かう
6年2組の教室は…春休み明けという事でいつもより騒がしい
雨で濡れたランドセルを降ろし、片付けを始める
私はふと思い立ったかのように、前の席を見つめる
優しかったあの人は、もうこの学校には来ない
一週間ほど前の…あの時の出来事を思い出し
私は不安に襲われ、後悔で涙が出そうになり、ぐっと堪える
もし伝えれていれば……
きっと、明るく「またいつか」と言い合えたのだろうか
周りにバレない程度の小さい溜息を吐く
私は気持ちを抑える為に、わざと元気な声で
友達と話し始めた
「春休み、何した?」
「ゲームかなぁ、あ、あと新しい缶バッジ買った!」
「そうなんだぁ、私は旅行行ったよ」
他愛のない会話
頭から離れられない不安と後悔により
私の声には焦燥感が混じっている
なんなんだよ、本当に
そう思った時
「はーい、皆さん、そろそろ並んでください
始業式へ行きますよ」
先生の声が教室に響いた
皆はどんどん教室から出ていき、廊下へ並んで行く
私も教室を出ようと思ったが、先生に呼び止められた
「あ、藤井さん、これ
届けて下さいって言われたんです」
先生から、薄いピンクの桜模様の小さなチャック付きポリ袋を差し出された
中には「藤井さんへ」と書いてある紙が入っているのが見える
私は受け取ると廊下のロッカーの横に座り
チャックを開けて手紙を取り出す
「藤井さんへ
見送ってあげられなくてごめんね
プリン、美味しかったよー!
早坂より」
お世辞にも綺麗と言えないような字で
書いてあるのはそれだけだった
だけど
それが嘘でも、本当だとしても
この手紙を書いてくれたということだけが嬉しかった
「こちらこそごめんね」
小さくそう呟く
でも、いつかまた会えたら
その時はありがとうの気持ちの方を強く伝えてあげよう
「出発します」
学級委員長の言葉で、私はハッとする
急いで教室に戻り、机の中に袋に入った手紙を入れて、また廊下に出る
止まっていい
振り返っていい
だけど、戻る事は決して出来ない
今までの時間は無駄でも、特別有意義でも無かった
また会える事の方を願おう
少し空いた廊下の窓から、冷たい雨風が吹き込んだ
今は進む時間
ゆっくりと廊下を歩く列を、私はスキップするように追い始める
私の弾んだ足音が、廊下に響き渡った ストさん(香川・12さい)からの相談
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