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キッズ@niftyの外 アット・ニフティの他のページ 有償サイト マークのせつめい
キミのような、ピアニストに あいつに出会ったのは、事故に遭って、病院に行くことになったからだ。
俺は夏樹。今は、世界的なピアニスト、だと思う。
なぜピアニストになったか?取材でよく聞かれる言葉だ。それを今回話そうと思う。

俺は、小6の時、事故に遭った。車に轢かれ、足の骨が折れたので、入院することになった。
その時に出会ったのが、同い年の雪だった。
雪は小さい頃から「がん」という病気にかかっていて、病院の外に出たことがないという。
静かな俺と正反対に元気な雪だが、なぜか妙に仲がよかった。
ある日、病院内の図書館に行こうとさそわれた。
「それとね、後に楽しいことがあるんだ。来ない?」
「楽しいこと?…わかった、行く」そして、図書館に来た。
何も借りるものはなかったので、雪について行くことにした。
雪は真っ先に楽譜のコーナーに行った。そして、楽譜を一冊手に取ると、受付カウンターに借りに行った。
「なんの楽譜?」「えっとね、アラベスク第一番と、幻想即興曲が入ってるんだ。作曲家は違うけど」
もう暗号をしゃべっているのにしか聞こえなかった。
「でもね、楽しいのはここからだよ」雪は笑った。初めて満点の笑顔を見た気がした。
ポケットから鍵を取り出す。そこには『ピアノ室』と書かれている。
「ピアノ…!?」

ピアノ室は、広くはなかったが、真ん中に立派なグランドピアノが置いてあった。
「一人1日1時間借りれるんだ。夏樹、すごいでしょ?」「…うん、すごい」ポカンとしながら俺は答える。
雪はピアノの前に座ると、『アラベスク第一番』を弾き始めた。
最初は春の小川のように滑らかに。次は夏の暑さのように少し重たく。
紅葉のように音が弾んで冬になる。冬は静かに、 だけど強く。
そして雪どけが始まり、また春になる。雪のピアノの表現は、俺にはそんなふうに聞こえた。
そして俺は、雪のピアノにのめり込まれていった。終わっても、しばらく終わったと気づかなかった。
「…つき…夏樹?大丈夫?」「……うわっ!?雪!?ゲホゲホッ」
驚いた拍子に、咳き込んだ。
「だ、大丈夫?」「うん…」
「…アラベスク第一番は弾けるんだけどなぁ…幻想即興曲は、まだ指の長さが足りないし、
病気のせいでこれ以上伸びないだろうから、無理だろうなあ…」
「そうなのか?雪なら軽々弾けると思うけど」
「ううん、私には無理だよ」
雪は下を向く。少し間をあけて、調子をとりもどすように言った。
「でもね、アラベスク第一番だったら、いつでも弾けるから。聞きたかったら言って!」
彼女は笑った。けど、さっきみたいな満点の笑顔ではなく、悲しさ、悔しさも混じった笑顔だった。
それが、自分で自分の首を絞めてしまっているんだと、俺は感じた。けど、どうすることもできなかった。

その日の夜9時。見回りの看護師さんが言った。
「え…雪の、病体が…悪化した?」
俺はショックでそれしか言えなかった。
「そうなのよ…いきなりがんが強くなってきてね」
そんな。もしかしたらもう、一度しか聞いていないあの曲も、他の曲だって、聞けなくなるじゃないか!
それに…雪の将来の夢。絶対なれるのに、なれないじゃないか…!
「行ってもいいですか!?」「え、ええ…大丈夫よ」
俺は静かに病室を出ると、足のことを無視し、早歩きで雪の病室に行った。
廊下には、親戚の人がたくさんいた。
雪の母さんはすぐ俺に気付き、手招きした。
「雪が、夏樹くんに話したいことがあるって」「雪が…?」
病室に入ると機械音が聞こえると同時に、たくさんのチューブに繋がれた雪が横たわっていたのが見えた。近づいて、話しかける。
「…雪、俺。夏樹だ」「…夏樹」掠れた声で雪は俺を呼ぶ。
「ごめんね…急に、こんなことに、なって…」
「いいんだ…で、話したいことって?」
「…わかってたんだ、自分に、そろそろ、終わりが、来るって…」
雪は、途切れ途切れに話す。
「だから…将来の、夢なんて、叶うはずが、ないって、思ってた……だからさ、夏樹」
「俺に、ピアニストになって欲しいんだろ?」
雪が見開いた目に、涙がたまる。
「知ってた。将来の夢をかいたメモ、うっかり見ちゃってさ。
雪ならなれると思ってた…雪みたいになれる保証はないけど、俺はピアニストになる。少なくとも
そこまではやり遂げる。約束する」
「…ありがとう。…あと、もう一つ、やってほしい、ことが、あるの…」
ひと呼吸開けて、雪は言った。
「幻想即興曲、弾いてね…絶対、だよ」「っ…ああ…そうだな…そうする、絶対に」
そして、雪は息を引き取った。

こうして、俺はピアニストになったんだ。
キミみたいに、


雪みたいに、なれるように。
植物一覧さん(選択なし・12さい)からの相談
とうこう日:2024年1月21日みんなの答え:1件

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みんなの答え

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  • 感動…すごい! こんにちは!3ヶ月ぐらい前はΣって名前だった五十鈴です^^

    説明ができない…けどほんとに感動しました!
    雪が亡くなる間際でも夏樹にピアニストの話をした。つまり!!雪はそれほどピアニストになりたかったってことですよね!?
    私もピアノ弾くことあって、健康体なので、指の長さが十分あることに感謝したいと思いました!
    アラベスク一番と幻想即興曲、難しい曲だけど弾いてみようかなと思います!

    では!
    五十鈴/いすずさん(選択なし・12さい)からの答え
    とうこう日:2024年3月23日
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