心のお店 喫茶brown
お店のドアを押し開けると、ちりんとベルの音がした。それから続いて、コーヒーの苦い香り。
わたし・綾瀬真白(あやせ ましろ)は、その匂いに顔を顰めながら、その喫茶店に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
と、男の人が、お店の奥から出てくる。
「ようこそ。心の店、『喫茶brown』へ」
わたしは、勧められた椅子に腰を下ろす。
「何にします?」
男の人がメニューを持って、テーブルの横に立った。名札のに、『店主 ウィリー・ブラウン』と記されている。
「えっと……。わたし、お茶をしたいわけじゃなくて、道に迷ってしまって。たまたま、このお店を見つけたんです。櫻野高校は、どこですか?」
聞くと、ブラウンさんはにこっと笑った。
「この辺りに、そんな高校はございません。ここは、あっちの世界ですからね」
「あっちの世界……って、え!?」
わたしは、驚きすぎて、勢いよく立ち上がってしまった。あっちの世界って、あの世ってこと?
混乱しながらも、とりあえず椅子に座り直し、「どういうことですか」と問いかけた。
「ここは、天国でも地獄でもない。まだ死んでいないけれど、死にそうな方々が、来られる世界です」
信じられないけれど、そう言われると辻褄が合う。わたしは、自殺したんだ。自分の部屋で、手首を切って。
それで今、死にかけている?でも、それなら好都合。
「死ねるんですか?天国に、いけるんですか?」
「すみません。それは、できません。ここは、死にそうな人を、追い返す場所ですからね」
「え……。追い返すって、なんで!」
思わず、苛立ってしまった。
「なんで、なんでなの!もう、あんな家嫌だよっ。帰りたくない!」
声を張り上げるわたしに、ブラウンさんは笑顔を崩さない。
「あなたは、どうして自殺しようと、していたんですか?」
そんなことを言ってきた。
「わたしは……」
気がつけば、ぼろりと言葉が口から出ていた。
「うちの両親、いつも、喧嘩してて。わたしのことなんか、どうでもいいんだ。それで、イライラして。友達に、強くあたっちゃって。それで……友達がいなくなった。陰口叩かれたり、落書きされたり。直接てきな暴力とかは、されなかったけど。それでも、苦しかった。辛かった。……死にたかった」
最後の方はもう、蚊の泣くような声だった。ブラウンさんを見上げれば、まだニコリと笑っている。
それがなんだか面白くて、思わず「ふふっ」と笑ってしまった。
「なんか、スッキリしました。ありがとうございます」
「いえいえ。そのための、喫茶店ですので」
そう言いながら、ブラウンさんは身を翻した。そして、お店の奥に消えた後、何かを持って戻ってくる。
「それは……」
「『勇気の出るコーヒー』です。砂糖とミルク、たっぷりですよ」
コーヒーが、目の前に置かれる。暖かみのある湯気が、やけに安心できた。そのまま持ち上げて、口元に持っていく。
苦手なはずのコーヒーは、とても甘くて。飲んだ途端、心の奥から、熱いものが湧き上がってきた。
……わたし、謝りたい。みんなに、怒りをぶつけたこと。冷たい態度を、取ったこと。
それから、お母さんとお父さんに、「もうやめて」って。わたしを見て、って……。
そう思ったら、涙が溢れて出た。しゃくりあげながら、わたしは立ち上がった。
「ありがとうございました。美味しかったです!」
わたしはそれだけ言うと、お店を飛び出した。どこに行くでもなく、走り続ける。
行きたい。あの世界に、戻りたい。もっと、生きたい……!!
そう、強く願った途端、目の前に光る穴が現れた。わたしは迷うことなく、そこに飛び込む!眩い光が、体を包み込んだ。
光が静まって、わたしは静かに、目を開いた。
その瞬間に目に飛び込んできたのは、お母さんとお父さんの泣きそうな顔。
「真白!」
「……お母さん」
口を開くと、お母さんはわたしを思い切り抱きしめた。
「もう。何やってるのよ、真白……!自殺なんて、どうして。わたしが見つけたから、よかったけど」
「え、ここって……」
慌てて身を起こすと、ここは病室だった。
その狭い病室の中に、お父さんとお母さん、さらのはクラスメイトがいた。みんな、泣きそうになっている。
「真白ちゃん」
「綾瀬さん、大丈夫?」
「みんな……」
再び、涙が溢れた。その涙を拭いながら、やっとある言葉を口にする。
「ごめん、ごめんね。ありがとう、みんな……」 まぐろ猫さん(神奈川・11さい)からの相談
とうこう日:2024年3月28日みんなの答え:7件
わたし・綾瀬真白(あやせ ましろ)は、その匂いに顔を顰めながら、その喫茶店に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
と、男の人が、お店の奥から出てくる。
「ようこそ。心の店、『喫茶brown』へ」
わたしは、勧められた椅子に腰を下ろす。
「何にします?」
男の人がメニューを持って、テーブルの横に立った。名札のに、『店主 ウィリー・ブラウン』と記されている。
「えっと……。わたし、お茶をしたいわけじゃなくて、道に迷ってしまって。たまたま、このお店を見つけたんです。櫻野高校は、どこですか?」
聞くと、ブラウンさんはにこっと笑った。
「この辺りに、そんな高校はございません。ここは、あっちの世界ですからね」
「あっちの世界……って、え!?」
わたしは、驚きすぎて、勢いよく立ち上がってしまった。あっちの世界って、あの世ってこと?
混乱しながらも、とりあえず椅子に座り直し、「どういうことですか」と問いかけた。
「ここは、天国でも地獄でもない。まだ死んでいないけれど、死にそうな方々が、来られる世界です」
信じられないけれど、そう言われると辻褄が合う。わたしは、自殺したんだ。自分の部屋で、手首を切って。
それで今、死にかけている?でも、それなら好都合。
「死ねるんですか?天国に、いけるんですか?」
「すみません。それは、できません。ここは、死にそうな人を、追い返す場所ですからね」
「え……。追い返すって、なんで!」
思わず、苛立ってしまった。
「なんで、なんでなの!もう、あんな家嫌だよっ。帰りたくない!」
声を張り上げるわたしに、ブラウンさんは笑顔を崩さない。
「あなたは、どうして自殺しようと、していたんですか?」
そんなことを言ってきた。
「わたしは……」
気がつけば、ぼろりと言葉が口から出ていた。
「うちの両親、いつも、喧嘩してて。わたしのことなんか、どうでもいいんだ。それで、イライラして。友達に、強くあたっちゃって。それで……友達がいなくなった。陰口叩かれたり、落書きされたり。直接てきな暴力とかは、されなかったけど。それでも、苦しかった。辛かった。……死にたかった」
最後の方はもう、蚊の泣くような声だった。ブラウンさんを見上げれば、まだニコリと笑っている。
それがなんだか面白くて、思わず「ふふっ」と笑ってしまった。
「なんか、スッキリしました。ありがとうございます」
「いえいえ。そのための、喫茶店ですので」
そう言いながら、ブラウンさんは身を翻した。そして、お店の奥に消えた後、何かを持って戻ってくる。
「それは……」
「『勇気の出るコーヒー』です。砂糖とミルク、たっぷりですよ」
コーヒーが、目の前に置かれる。暖かみのある湯気が、やけに安心できた。そのまま持ち上げて、口元に持っていく。
苦手なはずのコーヒーは、とても甘くて。飲んだ途端、心の奥から、熱いものが湧き上がってきた。
……わたし、謝りたい。みんなに、怒りをぶつけたこと。冷たい態度を、取ったこと。
それから、お母さんとお父さんに、「もうやめて」って。わたしを見て、って……。
そう思ったら、涙が溢れて出た。しゃくりあげながら、わたしは立ち上がった。
「ありがとうございました。美味しかったです!」
わたしはそれだけ言うと、お店を飛び出した。どこに行くでもなく、走り続ける。
行きたい。あの世界に、戻りたい。もっと、生きたい……!!
そう、強く願った途端、目の前に光る穴が現れた。わたしは迷うことなく、そこに飛び込む!眩い光が、体を包み込んだ。
光が静まって、わたしは静かに、目を開いた。
その瞬間に目に飛び込んできたのは、お母さんとお父さんの泣きそうな顔。
「真白!」
「……お母さん」
口を開くと、お母さんはわたしを思い切り抱きしめた。
「もう。何やってるのよ、真白……!自殺なんて、どうして。わたしが見つけたから、よかったけど」
「え、ここって……」
慌てて身を起こすと、ここは病室だった。
その狭い病室の中に、お父さんとお母さん、さらのはクラスメイトがいた。みんな、泣きそうになっている。
「真白ちゃん」
「綾瀬さん、大丈夫?」
「みんな……」
再び、涙が溢れた。その涙を拭いながら、やっとある言葉を口にする。
「ごめん、ごめんね。ありがとう、みんな……」 まぐろ猫さん(神奈川・11さい)からの相談
とうこう日:2024年3月28日みんなの答え:7件
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感動する~! ハチワレ☆です!
☆本題☆
とっても感動するいい話!私もなんか救われた気がする!今、死にたいと思う人にはうってつけの話だね!!また、マグロ猫さんのお話を見たいです! ハチワレ☆さん(選択なし・11さい)からの答え
とうこう日:2024年8月4日 -
凄いです 真帆/mahoです。
【本題】
最後に真白ちゃんがみんなと分かり合えるのに感動しました♪やっぱり真白ちゃん愛されてたんですね、、(泣)
あと、ブラウンさん凄いですね!一瞬で真白ちゃんを前向きな気持ちに変えるなんて!私もブラウンさんみたいに相談に乗ってあげられるような人になりたいと思いました(^^)
「心のお店 喫茶brown」面白かったです。まぐろ猫さんの他の作品も見て見たいです! 真帆/mahoさん(埼玉・12さい)からの答え
とうこう日:2024年6月9日 -
かんどーー! すごいっすね!
この話大好きです!
またまぐろ猫さんの作品見たいです はんぺんさん(神奈川・12さい)からの答え
とうこう日:2024年6月7日 -
凄すぎ ども!ふぃんです!
【本題】
凄すぎます!
マジで感動!!
自分より年下とは思えません!
じゃ!またキズなんで! ふぃん[finn]さん(青森・13さい)からの答え
とうこう日:2024年6月5日 -
すご…。 梅雨に綺麗な彩を。やっほー!元青藍/seiraの紫陽花/siyokaです♪
#ブラックコーヒーではなくラテしか飲まない女
(*ゝ_●・*)ノ=s=t=a=r=t=!==============
感動した…。
やっぱりちゃんと打ち明けて一方的じゃなくわかりあうのが大切だって思った!
でも個人的に「ブラウンさんは笑顔を崩さない」がちょっとサイコ()かと思った…。(すいませんすぐこーゆー思考に至ってしまって)
(*ゝ_○・*)=f=i=n=i=s=h==============
読んでくれてありがとう(#^.^#)ばいちゃ☆ 紫陽花/siyokaさん(東京・10さい)からの答え
とうこう日:2024年6月5日 -
すごい! 音雨さんのごと - じょ!
@推ししか勝たん!
# Go
真白ちゃんがちゃんと
愛されてたのがわかるお話!
音雨も少し、
救われた気がする!
#End
ばいばい♪ 音雨_Neuさん(兵庫・11さい)からの答え
とうこう日:2024年6月5日 -
感動 アイス珈琲。です d(^^)
* 本題 *
仲間の良さが伝わってきた ... !!
めっちゃ上手!^^
まったね ~ ヾ(。><。)ノ゙*。 アイス珈琲。さん(選択なし・13さい)からの答え
とうこう日:2024年6月5日
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