【短編小説】さくら、舞い散るとき
あるとき、クラスメートの瑠美(るみ)が言った。日本には「サクラ」という綺麗な花が咲く植物がある、と。
「サクラ」という名前には、聞き覚えがあった。だから、エナはサクラを見てみたいと陽向(ひなた)に話したのだ。
「エナ、桜見たことないの?」
「実際には、まだ。日本に来る前に、本とか写真で見たことあるけど」
「じゃあ、今度の春休みに、一緒に見に行く?」
その提案を待ってましたとばかりに、エナは大きく頷いた。
「エナ! 待ってた」
迎えに来てくれた陽向に、エナは軽く手を振る。
「荷物、持つよ」
「ううん、だいじょうぶ」
あんまり重くないし。
エナがそう言って断ると、陽向は一瞬だけ俯く。でもすぐにエナのほうを見て「わかった」と笑った。
「一番綺麗に咲くとこ、案内する」
「そうなの?」
早く見てみたいな。
少し遠いところにあるらしいので、陽向に案内されながら隣を歩く。しばらく歩くと、ふわりとした風に乗って、一枚の花びらが飛んできた。
「これは……」
「あぁ、それ、桜の花びら」
「本当?」
エナは花びらが飛んできた方向を見た。すると、地面すらも真っ白に染まる並木が視界に入る。
「もしかして、あれが……!」
エナは居ても立っても居られなくて、真っ白の空間へと走り出した。
「あっ、ちょっと!」
タタタッと走るエナ。
風が吹き抜けた。一面に絨毯のように積もった花びらが、一斉に舞い上がる。
エナは思わず足を止めて顔をかばう。そろそろと顔を上げると、見事な花が咲いた「サクラ」が、エナを包んでいた。
「わぁっ……!」
ひらひらと舞う、白っぽいけど少しピンク色も混じった花びら。葉っぱも少ない、花だけの世界。想像していたよりずっと美しい景色に、エナは目を細めた。
「どう? 桜の花、綺麗でしょ」
後ろから追ってきた陽向が、自慢げに言う。
「凄いね、桜! 思ってたよりずっと綺麗!」
はしゃぎながら、エナはある漫画のことを思い出していた。
かなり古い漫画で、瑠美のお母さんが今の瑠美とと同じくらいの年だったとき流行ったものらしい。魔法少女ものといっても変身することはなく、代わりにバトルシーンでは毎回違う衣装を着ていた。
懐かしいな。あの漫画、絵がとにかく綺麗で、大好き。
主人公が成長している続編も、最近、連載されるようになった。エナはどちらかというと続編のほうの衣装が大人びていて好きだ。
そんな主人公の名前が「サクラ」だった。サクラは最終回でいちばん大切な人――つまりいちばん好きな人に告白するのだが、その人は遠い場所へ引っ越すことになっていた。続編でまたサクラのもとにやって来て、同じ学校に通うことになるのだけれど、その登場シーンにはサクラの喜びを表すように、満開の桜が背景として描かれていたのだ。
そのことを陽向に話すと、「なんかいいな、それ」と返事が返ってきた。
「そうそう! 桜の花びらが舞ってるところから好きな人が出てくるって、素敵だよね! しかもそのあと、サクラちゃんがカバンを投げ捨てて、好きな人に思いっきり抱きついて……きっと、それだけ嬉しいことだったんだろうな。わたしもあんな恋愛、してみたい」
「えっ?」
思わず口をついて出た言葉。言い終わってから初めて、エナは自分が何を言ったか気がついた。
まずい、らしくないって思われたかもしれない。
エナは日本に来る前、かなり昔から、擦り傷や切り傷をよく作っていた。瑠美からは「常習犯じゃん」と突っ込まれたこともある。
そんな、女の子らしさとは無縁と言わんばかりに元気なエナが、突然、恋の話。
しまった、とエナは口を押さえた。
少女漫画を読んでいることも、瑠美からイメージに合わないと言われている。おそるおそる陽向のほうを見ると、ぽかんとしてエナを見ていた。
ヤバい、絶対そうだ。わたしらしくないって思われた。
しかし、陽向は黙って目を瞑った。そのあとゆっくりと目を開け、一歩ずつ近づいてくる。
「……え?」
全く予想していなかった行動に、今度はエナがぽかんと口を開けた。
「なあ、エナ。それ、俺じゃダメ?」
もう一度、ぶわっと風が巻き起こる。その風は暖かいはずなのに、頬に当たると何故か冷たく感じた。
どうもこんにちは、ユーカリです。久しぶりに短編小説を投稿しました。
外国から転校してきて桜を見ていない少女「エナ」、エナと仲良しである「陽向」、エナとクラスメイトで親友の「瑠美」の三人が登場します。
こういう恋愛系の小説は初めてなので、良ければ感想・アドバイスをよろしくお願いします。 ぱんだのユーカリさん(福岡・14さい)からの相談
とうこう日:2024年4月5日みんなの答え:3件
「サクラ」という名前には、聞き覚えがあった。だから、エナはサクラを見てみたいと陽向(ひなた)に話したのだ。
「エナ、桜見たことないの?」
「実際には、まだ。日本に来る前に、本とか写真で見たことあるけど」
「じゃあ、今度の春休みに、一緒に見に行く?」
その提案を待ってましたとばかりに、エナは大きく頷いた。
「エナ! 待ってた」
迎えに来てくれた陽向に、エナは軽く手を振る。
「荷物、持つよ」
「ううん、だいじょうぶ」
あんまり重くないし。
エナがそう言って断ると、陽向は一瞬だけ俯く。でもすぐにエナのほうを見て「わかった」と笑った。
「一番綺麗に咲くとこ、案内する」
「そうなの?」
早く見てみたいな。
少し遠いところにあるらしいので、陽向に案内されながら隣を歩く。しばらく歩くと、ふわりとした風に乗って、一枚の花びらが飛んできた。
「これは……」
「あぁ、それ、桜の花びら」
「本当?」
エナは花びらが飛んできた方向を見た。すると、地面すらも真っ白に染まる並木が視界に入る。
「もしかして、あれが……!」
エナは居ても立っても居られなくて、真っ白の空間へと走り出した。
「あっ、ちょっと!」
タタタッと走るエナ。
風が吹き抜けた。一面に絨毯のように積もった花びらが、一斉に舞い上がる。
エナは思わず足を止めて顔をかばう。そろそろと顔を上げると、見事な花が咲いた「サクラ」が、エナを包んでいた。
「わぁっ……!」
ひらひらと舞う、白っぽいけど少しピンク色も混じった花びら。葉っぱも少ない、花だけの世界。想像していたよりずっと美しい景色に、エナは目を細めた。
「どう? 桜の花、綺麗でしょ」
後ろから追ってきた陽向が、自慢げに言う。
「凄いね、桜! 思ってたよりずっと綺麗!」
はしゃぎながら、エナはある漫画のことを思い出していた。
かなり古い漫画で、瑠美のお母さんが今の瑠美とと同じくらいの年だったとき流行ったものらしい。魔法少女ものといっても変身することはなく、代わりにバトルシーンでは毎回違う衣装を着ていた。
懐かしいな。あの漫画、絵がとにかく綺麗で、大好き。
主人公が成長している続編も、最近、連載されるようになった。エナはどちらかというと続編のほうの衣装が大人びていて好きだ。
そんな主人公の名前が「サクラ」だった。サクラは最終回でいちばん大切な人――つまりいちばん好きな人に告白するのだが、その人は遠い場所へ引っ越すことになっていた。続編でまたサクラのもとにやって来て、同じ学校に通うことになるのだけれど、その登場シーンにはサクラの喜びを表すように、満開の桜が背景として描かれていたのだ。
そのことを陽向に話すと、「なんかいいな、それ」と返事が返ってきた。
「そうそう! 桜の花びらが舞ってるところから好きな人が出てくるって、素敵だよね! しかもそのあと、サクラちゃんがカバンを投げ捨てて、好きな人に思いっきり抱きついて……きっと、それだけ嬉しいことだったんだろうな。わたしもあんな恋愛、してみたい」
「えっ?」
思わず口をついて出た言葉。言い終わってから初めて、エナは自分が何を言ったか気がついた。
まずい、らしくないって思われたかもしれない。
エナは日本に来る前、かなり昔から、擦り傷や切り傷をよく作っていた。瑠美からは「常習犯じゃん」と突っ込まれたこともある。
そんな、女の子らしさとは無縁と言わんばかりに元気なエナが、突然、恋の話。
しまった、とエナは口を押さえた。
少女漫画を読んでいることも、瑠美からイメージに合わないと言われている。おそるおそる陽向のほうを見ると、ぽかんとしてエナを見ていた。
ヤバい、絶対そうだ。わたしらしくないって思われた。
しかし、陽向は黙って目を瞑った。そのあとゆっくりと目を開け、一歩ずつ近づいてくる。
「……え?」
全く予想していなかった行動に、今度はエナがぽかんと口を開けた。
「なあ、エナ。それ、俺じゃダメ?」
もう一度、ぶわっと風が巻き起こる。その風は暖かいはずなのに、頬に当たると何故か冷たく感じた。
どうもこんにちは、ユーカリです。久しぶりに短編小説を投稿しました。
外国から転校してきて桜を見ていない少女「エナ」、エナと仲良しである「陽向」、エナとクラスメイトで親友の「瑠美」の三人が登場します。
こういう恋愛系の小説は初めてなので、良ければ感想・アドバイスをよろしくお願いします。 ぱんだのユーカリさん(福岡・14さい)からの相談
とうこう日:2024年4月5日みんなの答え:3件
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カードキャプターさくらだよね? ども。星乃(ゆら)です。
それ、カードキャプターさくらだよね?あたし、カードキャプターさくら全巻とクリアカード編持ってるよ!
この小説はカードキャプターさくらの最終巻かな?
さくらが小狼に抱きつくシーンだよね?
すごく良いと思うけど、現実世界にある漫画の名前を使うのはちょっと…って思っちゃいました。 星乃さん(新潟・12さい)からの答え
とうこう日:2024年7月19日 -
えーっと いや絶対にその漫画「カードキャプターサクラ」じゃん! クロワッサンさん(愛知・13さい)からの答え
とうこう日:2024年6月23日 -
恋愛 .*こんふわ~♪
ふわりですっ.*+.
____.。*
すごいっ!!
甘くて.きゅんきゅんしました!
ごめんねっ.
アドバイスは思いつかないです…!
次回作、 待ってます!!
____.。*
また キズなんでねッ.
じゃーねっ♪ @ふわり.:*。さん(愛知・11さい)からの答え
とうこう日:2024年6月22日
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