狐仮面のコ
わたし、坂川奈子(さかがわなこ)。
そこらへんにいそうな、普通すぎる、高校生だ。
「地味に生きたい」がモットーのわたしは、小学生から今まで地味に生きてきた。
だけど、その「地味に生きたい」が壊れたのは、今日だった。
バサバサバサッ
「あ…」
床に散らばったプリントを見て、血の気が引く。
先生から頼まれていたプリントだ。職員室に持って行くようにって言われて、任されたんだ。
適当に並べればいいんだけど、運が悪く、名簿順に並べなければいけないものだった。
廊下のど真ん中で、やってしまったんだ。
「うわー、メイワクー。ドジじゃん」
「確かに、その言葉似合ってる〜」
そんな言葉が四方八方聞こえてきて、もう消えたくなった。
床にへばりついて、一枚一枚拾っていく。名簿順に並べ直したあと、職員室に持って行った。教室に戻ると、みんなわたしを見てヒソヒソ話をし、小さく笑った。
人生で一番、恥ずかしかった。死んじゃいたいとも思った。
あんなの、地味じゃない。逆に、目立ってしまったんだ。
〇〇〇
「あーもう、最悪。なんであんなこと…!」
イライラと悲しさで胸がいっぱいになる。みんなからの視線…すごく怖かった。
自分がああなったら、って考えてみなよ。恥ずかしすぎるよ。
自動販売機でお茶を買う時も、押す力がいつもより強くなってる気がする。
ビッ。…ガコンッ。
お茶を取ろうと前かがみになったところで…視界が一変した。
明るかったのが急に暗くなり、ザワザワと音が聞こえる。
「あ、れ…。ここ、どこ?」
自動販売機なんてどこにもない。四方八方、木、木、木。
不安と恐怖が押し寄せる。
帰りたい。帰りたい…!!
一刻も早く、帰りたい。ただそれしか考えられない。
で、電話を……うそ、圏外!
まさかの圏外。電話がかけられないということは、助けにきてくれないってことだ。
いや、いやいやいや。わたし、帰れないのかな…?
怖くて不安で悲しくて、腰が抜けて、地面に座り込んだ、そのときだった。
「「ようこそ、迷い人さん」」
頭上からそんな声がして、ハッと顔を上げた。
わたしは目を見張る。
狐のお面をかぶった二人は、顔が見えない。髪型も一緒で、違うといえば服装だけ。片方はヒラヒラとしたもの、もう片方はシンプルなものだ。顔は見えないけれど、女のコということは分かった。
呆然としていたけれど、すぐに我に返った。
ゆ、夢を見ているのかも。そう、夢だよ。
だって、こんなの、現実にあるはずないもん。
こんな、の―。
「あなた、人間ね。ここは妖の森よ。妖の自動販売機でお茶を買っちゃったのね」
「あの自動販売機でお茶を買ってはいけないわ。さっさと帰りなさい」
そう言ってくれたけど、帰り道が分からない。それどころか、腰も抜けてしまった。
立ち上がれない。帰れないんです。
そう言いたいけど、言えない。怖いから。
足も腕も、なにもかも震えてる。
「…帰り道が分からないのね。まあ当たり前か。…×××、このコを返すよ」
「分かった」
二人が顔をぐいっと近づけた。狐の面が怖い。
二人はわたしの視界を手で遮った。
「「〜〜〜〜〜〜〜〜…」」
なんて言ったのかは分からない。聞き取れない単語ばかりだったから。
でも、それを聞いたら、意識がもうろうとして、こっくりこっくり、首が傾いていった。
「「さよなら。迷い人さん」」
そんな言葉が耳に残った。
〇〇〇
「…あっ…あれ…?」
目が覚めると、そこは自動販売機の前だった。
お茶もちゃんと、ある。
夢…だったのかな。
ううん、夢じゃない。あのカンカクは、リアルすぎた。
わたしは立ち上がった。
手にしていたお茶はなんだか気持ちが悪く、中身は流して、ペットボトルだけ、捨てた。
あとがき
たぴおかだよ〜!
×××ってなにか分かりましたかー?
名前です!なんとなく、名前はヒミツにしておきました☆ たぴおかさん(選択なし・11さい)からの相談
とうこう日:2024年4月10日みんなの答え:1件
そこらへんにいそうな、普通すぎる、高校生だ。
「地味に生きたい」がモットーのわたしは、小学生から今まで地味に生きてきた。
だけど、その「地味に生きたい」が壊れたのは、今日だった。
バサバサバサッ
「あ…」
床に散らばったプリントを見て、血の気が引く。
先生から頼まれていたプリントだ。職員室に持って行くようにって言われて、任されたんだ。
適当に並べればいいんだけど、運が悪く、名簿順に並べなければいけないものだった。
廊下のど真ん中で、やってしまったんだ。
「うわー、メイワクー。ドジじゃん」
「確かに、その言葉似合ってる〜」
そんな言葉が四方八方聞こえてきて、もう消えたくなった。
床にへばりついて、一枚一枚拾っていく。名簿順に並べ直したあと、職員室に持って行った。教室に戻ると、みんなわたしを見てヒソヒソ話をし、小さく笑った。
人生で一番、恥ずかしかった。死んじゃいたいとも思った。
あんなの、地味じゃない。逆に、目立ってしまったんだ。
〇〇〇
「あーもう、最悪。なんであんなこと…!」
イライラと悲しさで胸がいっぱいになる。みんなからの視線…すごく怖かった。
自分がああなったら、って考えてみなよ。恥ずかしすぎるよ。
自動販売機でお茶を買う時も、押す力がいつもより強くなってる気がする。
ビッ。…ガコンッ。
お茶を取ろうと前かがみになったところで…視界が一変した。
明るかったのが急に暗くなり、ザワザワと音が聞こえる。
「あ、れ…。ここ、どこ?」
自動販売機なんてどこにもない。四方八方、木、木、木。
不安と恐怖が押し寄せる。
帰りたい。帰りたい…!!
一刻も早く、帰りたい。ただそれしか考えられない。
で、電話を……うそ、圏外!
まさかの圏外。電話がかけられないということは、助けにきてくれないってことだ。
いや、いやいやいや。わたし、帰れないのかな…?
怖くて不安で悲しくて、腰が抜けて、地面に座り込んだ、そのときだった。
「「ようこそ、迷い人さん」」
頭上からそんな声がして、ハッと顔を上げた。
わたしは目を見張る。
狐のお面をかぶった二人は、顔が見えない。髪型も一緒で、違うといえば服装だけ。片方はヒラヒラとしたもの、もう片方はシンプルなものだ。顔は見えないけれど、女のコということは分かった。
呆然としていたけれど、すぐに我に返った。
ゆ、夢を見ているのかも。そう、夢だよ。
だって、こんなの、現実にあるはずないもん。
こんな、の―。
「あなた、人間ね。ここは妖の森よ。妖の自動販売機でお茶を買っちゃったのね」
「あの自動販売機でお茶を買ってはいけないわ。さっさと帰りなさい」
そう言ってくれたけど、帰り道が分からない。それどころか、腰も抜けてしまった。
立ち上がれない。帰れないんです。
そう言いたいけど、言えない。怖いから。
足も腕も、なにもかも震えてる。
「…帰り道が分からないのね。まあ当たり前か。…×××、このコを返すよ」
「分かった」
二人が顔をぐいっと近づけた。狐の面が怖い。
二人はわたしの視界を手で遮った。
「「〜〜〜〜〜〜〜〜…」」
なんて言ったのかは分からない。聞き取れない単語ばかりだったから。
でも、それを聞いたら、意識がもうろうとして、こっくりこっくり、首が傾いていった。
「「さよなら。迷い人さん」」
そんな言葉が耳に残った。
〇〇〇
「…あっ…あれ…?」
目が覚めると、そこは自動販売機の前だった。
お茶もちゃんと、ある。
夢…だったのかな。
ううん、夢じゃない。あのカンカクは、リアルすぎた。
わたしは立ち上がった。
手にしていたお茶はなんだか気持ちが悪く、中身は流して、ペットボトルだけ、捨てた。
あとがき
たぴおかだよ〜!
×××ってなにか分かりましたかー?
名前です!なんとなく、名前はヒミツにしておきました☆ たぴおかさん(選択なし・11さい)からの相談
とうこう日:2024年4月10日みんなの答え:1件
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狐面! 地の文も会話文もめちゃくちゃ良くて、読みやすかったです!
最後、お茶を大事に持ち帰ったりせずに捨てたところが、なんともいえない後味で好きです。
狐面の二人の口調もとっても好きでした!面白かったです! かに大福さん(選択なし・15さい)からの答え
とうこう日:2024年6月30日
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