夜、灯火と消える
「なんで………、なんで、何も、何も言ってくれなかったの………」
目の前に横たわる、生気のない顔。全身から潮の香りがする親友を見て、私は声を振り絞った。
【夜、灯火と消える】
君は、いつの日か海月のブレスレッドをくれたね。そう言って、親友が渡してきたのは、海星をかたどった髪飾り。
一緒に食べたソフトクリーム。一緒に曲を聴いたあの日。宿題をやり忘れて一緒に立たされた日。夜更かしして、先生に怒られたけど、笑いが込み上げて来たあの日。くだらないことで大笑いした、昨日のこと。
そんな日々が、夜の海に消えた。
親友は自殺したらしい。冷たい、夜の海に身を投げて。
どんだけ苦しかったんだろうか、そう思って、海に、指先をつける。ぞっとするくらい、とても冷たい海だった。
なんで、親友はこの道を選んだんだろう。なんで、何も言ってくれなかったんだろう。なんで、海に身を投げたんだろう。
そんなことは、今となってはもうわからない。
なんで気づけなかった、なんで何もわからなかった、なんで、なんで、なんで!
食いしばった歯と歯の間から、嗚咽が漏れる。鼻がつんとする。目頭が熱くなる。頬を、涙がなでていく。
気がつくと、私は大声で泣いていた。
私の泣き声を夜空と、さざなみの立つ海が吸い込む。何も帰ってこない。
パンッ!
親友の頬を叩く。
「言ってよ、全部受け止めるから言ってよ!なんで、なんで私だけ残して、あんただけ逝ったのよ!私は、私は………エゴでも、私の自己満足でも、あんたを助けたかったんだよ!」
息途絶えている親友は何も言わない。わかっている。わかりきっていることだ。
ふと、親友のポッケを見る。そこに入っていたのは、防水加工の施された、小さな袋。小さく折りたたんだ手紙。あの日私が渡した、海月のブレスレット。
小さく、君らしい字で
「鈴宮海星ちゃんへ
何も、お別れも言えずに死んじゃってごめんね。
海星ちゃんは、私みたいな死に方はやめてね。
楽しい16年間をありがとう。
追伸
私がこうしたわけは、誰にも言わない。
私だけが知っていることにするよ。
氷室 海月」
手紙に黒いしみがつく。頼りない星の光が、あたりを照らす。
今日の夜空には、月が出ていない。代わりに、空一面に小さな無数の星屑が散らばっている。まるで、星の海だ。
そっか、だから君は、この日を選んだんだ。私には自殺した理由はわからない。でも、君がなんでこの日を選んだかがわかったよ。
「『命の灯火』が消える日で、『海の月』が消える日。そして、『星が輝く』日。だから、この日を選んだのかな……。そうだよね、海月」
優しい風が吹き抜ける。空に浮かぶ星が揺れる。
どこか遠くで、鯨が跳ねた音がした。
〈注釈〉
海月……くらげ、転じて、海に浮かぶ月。
海星……ひとで
[登場人物]
・氷室海月(ひむろ みつき)
・鈴宮海星(すずみや みせい)
FIN 秋葉+あきは+さん(静岡・12さい)からの相談
とうこう日:2024年4月24日みんなの答え:2件
目の前に横たわる、生気のない顔。全身から潮の香りがする親友を見て、私は声を振り絞った。
【夜、灯火と消える】
君は、いつの日か海月のブレスレッドをくれたね。そう言って、親友が渡してきたのは、海星をかたどった髪飾り。
一緒に食べたソフトクリーム。一緒に曲を聴いたあの日。宿題をやり忘れて一緒に立たされた日。夜更かしして、先生に怒られたけど、笑いが込み上げて来たあの日。くだらないことで大笑いした、昨日のこと。
そんな日々が、夜の海に消えた。
親友は自殺したらしい。冷たい、夜の海に身を投げて。
どんだけ苦しかったんだろうか、そう思って、海に、指先をつける。ぞっとするくらい、とても冷たい海だった。
なんで、親友はこの道を選んだんだろう。なんで、何も言ってくれなかったんだろう。なんで、海に身を投げたんだろう。
そんなことは、今となってはもうわからない。
なんで気づけなかった、なんで何もわからなかった、なんで、なんで、なんで!
食いしばった歯と歯の間から、嗚咽が漏れる。鼻がつんとする。目頭が熱くなる。頬を、涙がなでていく。
気がつくと、私は大声で泣いていた。
私の泣き声を夜空と、さざなみの立つ海が吸い込む。何も帰ってこない。
パンッ!
親友の頬を叩く。
「言ってよ、全部受け止めるから言ってよ!なんで、なんで私だけ残して、あんただけ逝ったのよ!私は、私は………エゴでも、私の自己満足でも、あんたを助けたかったんだよ!」
息途絶えている親友は何も言わない。わかっている。わかりきっていることだ。
ふと、親友のポッケを見る。そこに入っていたのは、防水加工の施された、小さな袋。小さく折りたたんだ手紙。あの日私が渡した、海月のブレスレット。
小さく、君らしい字で
「鈴宮海星ちゃんへ
何も、お別れも言えずに死んじゃってごめんね。
海星ちゃんは、私みたいな死に方はやめてね。
楽しい16年間をありがとう。
追伸
私がこうしたわけは、誰にも言わない。
私だけが知っていることにするよ。
氷室 海月」
手紙に黒いしみがつく。頼りない星の光が、あたりを照らす。
今日の夜空には、月が出ていない。代わりに、空一面に小さな無数の星屑が散らばっている。まるで、星の海だ。
そっか、だから君は、この日を選んだんだ。私には自殺した理由はわからない。でも、君がなんでこの日を選んだかがわかったよ。
「『命の灯火』が消える日で、『海の月』が消える日。そして、『星が輝く』日。だから、この日を選んだのかな……。そうだよね、海月」
優しい風が吹き抜ける。空に浮かぶ星が揺れる。
どこか遠くで、鯨が跳ねた音がした。
〈注釈〉
海月……くらげ、転じて、海に浮かぶ月。
海星……ひとで
[登場人物]
・氷室海月(ひむろ みつき)
・鈴宮海星(すずみや みせい)
FIN 秋葉+あきは+さん(静岡・12さい)からの相談
とうこう日:2024年4月24日みんなの答え:2件
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感動! はじめまして、パフです。
情景、本人の気持ちがすっと入ってきました。
文章の書き方、描写がとてもよく、読みやすかったです!
パフさん(神奈川・13さい)からの答え
とうこう日:2024年7月22日 -
とても奇麗な作品 はじめまして。ひややっこです。
作品拝見しました。選んだ言葉遣いとかとても奇麗で、哀しくて、切なくて、この作品にピッタリだと思いました。
読んでいて面白かったです。海と星が背景になっているのもこのふたりの世界観にあっていて良かったです。 ひややっこさん(福島・13さい)からの答え
とうこう日:2024年7月22日
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