いつだって、雨が降っていた。
────あれは、本当に奇跡だった。
土砂降りで始まった1日だった。私の気持ちも、まるで雨が降っている時のような空みたいに、澱(よど)んでいた。いや、それは、その日に限った話じゃない。私の心にはいつだって、激しく雨が降り注いでいた。
いつものように起きて、学校へ行く。そんな規則的な日常が続く中で、私はいつだって、いつか小さい頃に見たアニメに出てきたようなスーパーヒーローが現れ、私をこのつまらない世界から救い出してくれると思っていた。でも、ずっとそんなことは起こることはなく、私はもう高校生になる。
いつも通り、通学路の道にある公園を通り過ぎたときだった。傘も何もさしていない、セーラー服を身にまとった女の子が、下を見ながらブランコに乗っていた。その細い体と、濡れていても分かる艶やかな黒髪に、何故か吸い込まれるように目を奪われた。いつの間にか、私の足は公園に踏み出していた。
「…あの」
私の声に気づかなかったのだろうか、女の子はずっと下を向いたままだった。まあ、この土砂降りの中じゃ仕方ないと、もう一度声をかけようとした時だった。
「…う、ぅ」
女の子がそう、声を漏らした。泣いているような、声だった。私は、無意識に傘を女の子の上に動かしていた。
雨が降ってこないことに違和感を覚えたのか、女の子は上を向く。私の存在に気づいたとき、分かりやすくビクッとなっていた。
「…大丈夫ですか」
「だれ…?」
「あの高校に通ってる者です」
向こう側に小さく見える高校を指さし、答える。
女の子は小刻みに震えていた。寒いのだろうかと、羽織っていたカーディガンを女の子に羽織らせた。
「風邪をひきますよ。1回、どこかに入りましょう」
「でも、学校は…」
「大丈夫です…もとから、行きたくなかったですから。」
私はそう、微笑んだ。
結局私たちは、個別の部屋があるネットカフェに入った。場所があれかと思ったが、彼女はあまり気にしていないらしく、仕方なく入った。
「…名前は?」
「佐藤、理沙…」
「りさちゃん、ね。私は宮本美奈。」
「みな…ありがとう…」
「ううん。」
びしょびしょになった理沙は、仕方なく私の体操服に着替えた。
「ねえ…、あのさ、美奈。学校にいきたくないってどういうこと?」
「ああ…、私さ、なんかみんなと馴染めなくて。価値観の違いかな」
「…こんなに、いい人なのに。」
「っあはは、そうかな」
真剣な目で見つめられ、少し気まずくなった。
「ねえ、じゃあ今日さぼろうよ、一緒に。」
「いいね。それ」
あの雨の日──、あの出会いを、私は一生忘れない。
翌日は、昨日が嘘みたいに思えるくらいの晴天だった。あの公園に、理沙はいなかった。
「まあ、当たり前だよね」
その日はびっくりするくらいに長い一日だった。でも、いつもと違うことと言えば、何故か今日は一段とみんなの私に対するあたりが強かったこと。
「ねえ、あの子、変な女の子と一緒にネカフェ入ったらしい」
「えーきも!最低」
そんな声が教室に飛び交い、私は耳を塞ぎたくなった。
その約一週間後くらいだろうか。さらさらと小雨が降っていた。もう公園を覗く癖はなくなっていて、常に前を向いて歩いていた。
すると──、あのセーラー服が視界に入った。
「…理沙…?」
「…あ」
また、傘をささずにブランコをこいでいた理沙を見つけた。
「…さぼろっか」
二人で、笑いながらそう言った。
「ねえ、なんかあったでしょ」
いつものネットカフェの部屋に入るなり、理沙がそう聞いてくる。
「…なあに、それ。特に何も無いよ」
もう濡れることになれたのか、理沙はセーラー服姿のままだ。
「うそだ。絶対に、何かあった」
「…なんで、分かっちゃうの…」
その日は、ずっと理佐の腕の中で泣いた。
その日から、雨の日が待ち遠しくなった。だって、どれだけ辛い日が続いても、理沙と会うことで辛さが吹き飛ぶから。
そんな、不思議な日常が続いていた。私が求めていた、普通じゃない日々。理沙は、私のヒーローだった。
ある日、理沙はどこかを見据えて言った。
「…私ね、いつか死のうと思ってた。でも、美奈と会っちゃったから、もう死ねないな。」
その言葉を──、どう受け止めるべきかは分からない。でも、私は何も考えずに呟いた。
「じゃあ、一緒に死ぬ?」
雨が降り注ぐ川の傍らに、二人で手を繋いで立つ。
「なんで、死のうと思ってたの」
死ぬ前に、どうしても聞きたかった。
「──誰も、私に傘をさしてくれなかったから」
それは、比喩表現だと分かった。
「じゃあさ、これからは二人で雨に打たれようよ。二人なら、怖くない」
「…そうだね…美奈は、私のヒーローだね。」
それはいつか──、私が理沙に思っていたことと同じだった。
「…理沙と会えてよかった…」
もう、傘をささなくても怖くない。 うるさん(東京・15さい)からの相談
とうこう日:2024年5月5日みんなの答え:2件
土砂降りで始まった1日だった。私の気持ちも、まるで雨が降っている時のような空みたいに、澱(よど)んでいた。いや、それは、その日に限った話じゃない。私の心にはいつだって、激しく雨が降り注いでいた。
いつものように起きて、学校へ行く。そんな規則的な日常が続く中で、私はいつだって、いつか小さい頃に見たアニメに出てきたようなスーパーヒーローが現れ、私をこのつまらない世界から救い出してくれると思っていた。でも、ずっとそんなことは起こることはなく、私はもう高校生になる。
いつも通り、通学路の道にある公園を通り過ぎたときだった。傘も何もさしていない、セーラー服を身にまとった女の子が、下を見ながらブランコに乗っていた。その細い体と、濡れていても分かる艶やかな黒髪に、何故か吸い込まれるように目を奪われた。いつの間にか、私の足は公園に踏み出していた。
「…あの」
私の声に気づかなかったのだろうか、女の子はずっと下を向いたままだった。まあ、この土砂降りの中じゃ仕方ないと、もう一度声をかけようとした時だった。
「…う、ぅ」
女の子がそう、声を漏らした。泣いているような、声だった。私は、無意識に傘を女の子の上に動かしていた。
雨が降ってこないことに違和感を覚えたのか、女の子は上を向く。私の存在に気づいたとき、分かりやすくビクッとなっていた。
「…大丈夫ですか」
「だれ…?」
「あの高校に通ってる者です」
向こう側に小さく見える高校を指さし、答える。
女の子は小刻みに震えていた。寒いのだろうかと、羽織っていたカーディガンを女の子に羽織らせた。
「風邪をひきますよ。1回、どこかに入りましょう」
「でも、学校は…」
「大丈夫です…もとから、行きたくなかったですから。」
私はそう、微笑んだ。
結局私たちは、個別の部屋があるネットカフェに入った。場所があれかと思ったが、彼女はあまり気にしていないらしく、仕方なく入った。
「…名前は?」
「佐藤、理沙…」
「りさちゃん、ね。私は宮本美奈。」
「みな…ありがとう…」
「ううん。」
びしょびしょになった理沙は、仕方なく私の体操服に着替えた。
「ねえ…、あのさ、美奈。学校にいきたくないってどういうこと?」
「ああ…、私さ、なんかみんなと馴染めなくて。価値観の違いかな」
「…こんなに、いい人なのに。」
「っあはは、そうかな」
真剣な目で見つめられ、少し気まずくなった。
「ねえ、じゃあ今日さぼろうよ、一緒に。」
「いいね。それ」
あの雨の日──、あの出会いを、私は一生忘れない。
翌日は、昨日が嘘みたいに思えるくらいの晴天だった。あの公園に、理沙はいなかった。
「まあ、当たり前だよね」
その日はびっくりするくらいに長い一日だった。でも、いつもと違うことと言えば、何故か今日は一段とみんなの私に対するあたりが強かったこと。
「ねえ、あの子、変な女の子と一緒にネカフェ入ったらしい」
「えーきも!最低」
そんな声が教室に飛び交い、私は耳を塞ぎたくなった。
その約一週間後くらいだろうか。さらさらと小雨が降っていた。もう公園を覗く癖はなくなっていて、常に前を向いて歩いていた。
すると──、あのセーラー服が視界に入った。
「…理沙…?」
「…あ」
また、傘をささずにブランコをこいでいた理沙を見つけた。
「…さぼろっか」
二人で、笑いながらそう言った。
「ねえ、なんかあったでしょ」
いつものネットカフェの部屋に入るなり、理沙がそう聞いてくる。
「…なあに、それ。特に何も無いよ」
もう濡れることになれたのか、理沙はセーラー服姿のままだ。
「うそだ。絶対に、何かあった」
「…なんで、分かっちゃうの…」
その日は、ずっと理佐の腕の中で泣いた。
その日から、雨の日が待ち遠しくなった。だって、どれだけ辛い日が続いても、理沙と会うことで辛さが吹き飛ぶから。
そんな、不思議な日常が続いていた。私が求めていた、普通じゃない日々。理沙は、私のヒーローだった。
ある日、理沙はどこかを見据えて言った。
「…私ね、いつか死のうと思ってた。でも、美奈と会っちゃったから、もう死ねないな。」
その言葉を──、どう受け止めるべきかは分からない。でも、私は何も考えずに呟いた。
「じゃあ、一緒に死ぬ?」
雨が降り注ぐ川の傍らに、二人で手を繋いで立つ。
「なんで、死のうと思ってたの」
死ぬ前に、どうしても聞きたかった。
「──誰も、私に傘をさしてくれなかったから」
それは、比喩表現だと分かった。
「じゃあさ、これからは二人で雨に打たれようよ。二人なら、怖くない」
「…そうだね…美奈は、私のヒーローだね。」
それはいつか──、私が理沙に思っていたことと同じだった。
「…理沙と会えてよかった…」
もう、傘をささなくても怖くない。 うるさん(東京・15さい)からの相談
とうこう日:2024年5月5日みんなの答え:2件
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えっ…いい話に見せかけて… どうもー☆琴音です!名前を覚えてくれたら嬉しいです!
すごいい話ではあるんだけど、2人とも最終的には自殺してるよね…死んでほしくなかったな…。生きる希望を持ってほしかったな…感情的になれる話でした。 琴音さん(選択なし・11さい)からの答え
とうこう日:2024年8月13日 -
いい話! ヤッホー!!みんなにとって今日1日が良い日になりますように!虹色花火だよ!
本題
とてもいい話でした!ありがとうございました! 虹色花火(元花火君、レインボー君)さん(神奈川・11さい)からの答え
とうこう日:2024年8月9日
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