恋愛対象外
私が恋に落ちたのは、晴れた夏の日だ。読書感想文という敵を倒すために市立図書館へ来ていた。
どうしようか悩んでいた時、彼が話しかけてくれた。
「何か探し物ですか?」
恐らく天然パーマらしい黒髪は、まるでわたあめのようだった。
「読書感想文の自由図書を……」
数分後には彼が何冊か候補を持ってきてくれた。
「助かります!これで課題が出来そうです」
「いえ、お役に立てて何よりです」
夏だと思った。
それから予定のない日は図書館に入り浸った。
「黒木さんのおすすめの本どれも面白かったです」
「知ってる人が少ないから、気に入ってくれて僕も嬉しいよ」
黒木柚という名前はぴったりだと思った。
「相生さんと会えて良かった」
「私こそ黒木さんに会えてなかったら、課題も終わってないですしこんなに面白い世界知らなかった」
「そう言ってくれると嬉しいな」
彼が笑うと私も嬉しくなって、自然と笑顔になれる。二人の時間はとても穏やかだった。
彼と出会って三ヶ月が過ぎた頃、お互い学校が始まり顔を合わせることも少なくなっていたが、私は本を読むことが好きになっていて、例え彼がいなくても図書館で過ごしていた。
「あれ?相生さん、久しぶり」
今一番聞きたかった声に勢いよく振り返ると、黒木さんともう一人知らない男性がいた。
「相生桜です」
「柚から聞いてます、川西瞬です」
「瞬は僕の幼馴染なんだ」
私にも異性だが幼馴染はいる。
けれど少し違和感を覚えた。
川西さんは無表情で無愛想に見えても、話せば良い人で…黒木さんの笑顔が輝いてみえたのには気付かないことにした。
出会って半年近く経ったある日。
久々の二人きりのチャンスに今しかないと思って、私は持てる限りの勇気を握りしめた。
「あの黒木さんって好きな人とかいますか」
もしかしたら一瞬だったかもしれないその沈黙は、私にはとても長く感じた。
「うん、いるよ」
「え」
聞かなければ良かったと、心の底から後悔した。
「最近ようやく恋人になれたんだよね」
はにかむ貴方はとても可愛くて大好きなのに、私の心は締めつけられる。
「そうだったんですね……じゃあ、私と会うの相手の方に悪いんじゃ」
「大丈夫だよ、君も会ったことのある人だし」
「ある…?」
悪い予感はどうしてこうも当たってしまうのだろうか。
「僕の恋人は」
お願いだから、その先を言わないでください。
「瞬だもの」
そばにいるだけで幸せなのだと言いたげなあの表情を見て気付かないほど鈍感ではいられなかった。
「引いた……かな?」
顔を上げると、不安そうにこちらを伺う彼の顔があった。
「引いてないですよ、そうじゃないかなって思っていたので!」
上手く笑えているかな
気づかれていないかな
「…あれ?私おじゃま虫ですね!」
「そんなことない、女の子は恋愛対象じゃないんだ…!!本当に…だから、友達ができて嬉しくて、えっと……」
私は友達になんてなりたくなかったです
あなたにとって唯一無二の……たった一人の人になりたかっただけで、あなたの視界に映ってすらいなかった…
私は課題があると告げ、逃げるようにその場を去った。いつの間にか家の前に着いていて、隣の家から誰かがでてきた。
「お前帰ったなら早く入れよ」
「……つかさ」
「私さ、頑張ったんだよ」
バイトをしてお金を貯めて自分に似合う服を探してどんなメイクがいいか研究した。今まで無頓着だったスキンケアだって欠かさなかった。勉強だって頑張ったのだ。
「何ひとつ……届いてなかったっっ」
「初めからなんにも始まってなくて、私が一人で勝手に盛り上がって」
「だってあんな顔されて……むりだよ」
ただでさえ変えられないのに、あんな太陽みたいな笑顔を向けられて宣戦布告なんて出来るわけないんだから。
「もう図書館いけない……まだシリーズ読み終えてないのに」
「じゃあ俺が一緒に行ってやるよ」
「躾のなってない弟って思われたらどうすんのよ」
「そこは俺が兄だろ、小さいくせに」
告白さえ出来なかった。
彼を傷つけずに済んだのだからしなくて良かった、と言えるかもしれないが。
「で、諦めるの?」
「それは……まだ今は無理だけど」
いつかは諦めなければならないだろう。
私は彼の恋愛対象外なのだから。
「どうせなら落としちゃえば?強制的に恋愛対象になる」
「そんなこと出来ないわ」
「だろうな」
「分かってるなら言わないでよ」
沈黙が数秒続いたが、司が体を翻したことに「しっかり聞いているのか」と抗議の視線を向けた、しかしあろう事か笑みを浮かべていたのだ。
「お前は恋愛対象外で恋人がいて奪う気も告白する気もない、答え出てんじゃん」
「明日なんか奢れよ」
司は幼馴染といえど異性だが、今更恋愛対象にならなかった。それはきっと向こうも同じ。
「やっぱり……アイツだけは無いわ」 viaさん(選択なし・18さい)からの相談
とうこう日:2024年5月21日みんなの答え:0件
どうしようか悩んでいた時、彼が話しかけてくれた。
「何か探し物ですか?」
恐らく天然パーマらしい黒髪は、まるでわたあめのようだった。
「読書感想文の自由図書を……」
数分後には彼が何冊か候補を持ってきてくれた。
「助かります!これで課題が出来そうです」
「いえ、お役に立てて何よりです」
夏だと思った。
それから予定のない日は図書館に入り浸った。
「黒木さんのおすすめの本どれも面白かったです」
「知ってる人が少ないから、気に入ってくれて僕も嬉しいよ」
黒木柚という名前はぴったりだと思った。
「相生さんと会えて良かった」
「私こそ黒木さんに会えてなかったら、課題も終わってないですしこんなに面白い世界知らなかった」
「そう言ってくれると嬉しいな」
彼が笑うと私も嬉しくなって、自然と笑顔になれる。二人の時間はとても穏やかだった。
彼と出会って三ヶ月が過ぎた頃、お互い学校が始まり顔を合わせることも少なくなっていたが、私は本を読むことが好きになっていて、例え彼がいなくても図書館で過ごしていた。
「あれ?相生さん、久しぶり」
今一番聞きたかった声に勢いよく振り返ると、黒木さんともう一人知らない男性がいた。
「相生桜です」
「柚から聞いてます、川西瞬です」
「瞬は僕の幼馴染なんだ」
私にも異性だが幼馴染はいる。
けれど少し違和感を覚えた。
川西さんは無表情で無愛想に見えても、話せば良い人で…黒木さんの笑顔が輝いてみえたのには気付かないことにした。
出会って半年近く経ったある日。
久々の二人きりのチャンスに今しかないと思って、私は持てる限りの勇気を握りしめた。
「あの黒木さんって好きな人とかいますか」
もしかしたら一瞬だったかもしれないその沈黙は、私にはとても長く感じた。
「うん、いるよ」
「え」
聞かなければ良かったと、心の底から後悔した。
「最近ようやく恋人になれたんだよね」
はにかむ貴方はとても可愛くて大好きなのに、私の心は締めつけられる。
「そうだったんですね……じゃあ、私と会うの相手の方に悪いんじゃ」
「大丈夫だよ、君も会ったことのある人だし」
「ある…?」
悪い予感はどうしてこうも当たってしまうのだろうか。
「僕の恋人は」
お願いだから、その先を言わないでください。
「瞬だもの」
そばにいるだけで幸せなのだと言いたげなあの表情を見て気付かないほど鈍感ではいられなかった。
「引いた……かな?」
顔を上げると、不安そうにこちらを伺う彼の顔があった。
「引いてないですよ、そうじゃないかなって思っていたので!」
上手く笑えているかな
気づかれていないかな
「…あれ?私おじゃま虫ですね!」
「そんなことない、女の子は恋愛対象じゃないんだ…!!本当に…だから、友達ができて嬉しくて、えっと……」
私は友達になんてなりたくなかったです
あなたにとって唯一無二の……たった一人の人になりたかっただけで、あなたの視界に映ってすらいなかった…
私は課題があると告げ、逃げるようにその場を去った。いつの間にか家の前に着いていて、隣の家から誰かがでてきた。
「お前帰ったなら早く入れよ」
「……つかさ」
「私さ、頑張ったんだよ」
バイトをしてお金を貯めて自分に似合う服を探してどんなメイクがいいか研究した。今まで無頓着だったスキンケアだって欠かさなかった。勉強だって頑張ったのだ。
「何ひとつ……届いてなかったっっ」
「初めからなんにも始まってなくて、私が一人で勝手に盛り上がって」
「だってあんな顔されて……むりだよ」
ただでさえ変えられないのに、あんな太陽みたいな笑顔を向けられて宣戦布告なんて出来るわけないんだから。
「もう図書館いけない……まだシリーズ読み終えてないのに」
「じゃあ俺が一緒に行ってやるよ」
「躾のなってない弟って思われたらどうすんのよ」
「そこは俺が兄だろ、小さいくせに」
告白さえ出来なかった。
彼を傷つけずに済んだのだからしなくて良かった、と言えるかもしれないが。
「で、諦めるの?」
「それは……まだ今は無理だけど」
いつかは諦めなければならないだろう。
私は彼の恋愛対象外なのだから。
「どうせなら落としちゃえば?強制的に恋愛対象になる」
「そんなこと出来ないわ」
「だろうな」
「分かってるなら言わないでよ」
沈黙が数秒続いたが、司が体を翻したことに「しっかり聞いているのか」と抗議の視線を向けた、しかしあろう事か笑みを浮かべていたのだ。
「お前は恋愛対象外で恋人がいて奪う気も告白する気もない、答え出てんじゃん」
「明日なんか奢れよ」
司は幼馴染といえど異性だが、今更恋愛対象にならなかった。それはきっと向こうも同じ。
「やっぱり……アイツだけは無いわ」 viaさん(選択なし・18さい)からの相談
とうこう日:2024年5月21日みんなの答え:0件
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