コーヒーの香り
その日は土砂降りだった。
人生への絶望
未来への不安
現状への不満
もう何もしたくない────
数々の悩みを抱え、身も心もずぶ濡れの私が見つけたのは、一件のカフェだった。
ドアを開けたらカウンター席と、その横にテーブル席。
コーヒーがふんわりと香る。
「素敵な雰囲気のカフェだなあ」
そうぼんやりと思っていたら、奥から若い男性がでてきた。
あ、コーヒーのいいにおいだ
「貴方、どうしたんですか!?びちょびちょじゃないですか!!ちょっと待っててください、今タオル持ってきますね」
私をまるごと包むような柔らかい声。なんだか心がじゅわっと暖まるように感じた。
戻ってきたあの人は、ふわふわのタオルで私の髪をわしゃわしゃとふく。
あ、やっぱりコーヒーのにおい
「もう、何があったんですか!!見たところ傘も持っていないし!!こんなに濡れて!自分のこともっと大事にしてあげないとだめでしょう!」
怒ってる?なんでだろう
「どうしてこんなところに?」
「…」
私は答えなかった。
あの人は困ったように微笑んで、
「今コーヒーをいれますから。座っていてください。」
と、私をカウンター席まで連れていった。目の前で作られるコーヒーを私はじいっと見つめていた。
数分後、私の目の前にコーヒーが置かれた。
いいにおいだ
「どうぞ。飲んでみてください。コーヒーをいれるのだけはうまいんですよ、私」
誇ったような顔をしたあの人を横目に、私はコーヒーに手を伸ばした。一口飲んだ瞬間、
「あちっ」
予想以上に熱かった。舌を火傷してしまった。
「ふふ」
笑い声?ふと顔をあげると、笑い声のもとはあの人なのだとすぐに理解した。
屈託ない笑顔。今までの紳士っぷりからは思いもよらないな、と思った。
「くく、ふふ…」
声を殺して笑っているようだが、しっかりとばれている。そんなに舌を火傷したのが面白かったのかな。
…ツボが浅い人らしい。その後もずっと笑っていた。でも、悪い気はしなかった。
「また来てよ。いつでも待っているから。」
急にタメ口だな、この人。
「…はい」
驚いた。私が初対面の人と話せるなんて。
「あの、お代…」
「いーっていーって!!またきてくれればそれでさ。」
あの人はまた屈託ない笑顔を私に向けた。
その後もたくさん通い、私は常連客と化していた。客は常連が2、3人いる程度。お店としては少ないが、私にとってはちょうどよく、居心地のいい場所だった。
「俺はコーヒーをいれるのは得意だけど、そのほかはてんでだめなんだ。まあ、そんな俺も大好きだけどな。」
この人、この期間でキャラ変わりすぎじゃないか?
「お前、好きな食べ物とかないのか」
「…オムライス」
「オムライス!?案外かわいいとこもあんだな」
「うるさい」
「二週間後、テストがあるんだ、私。絶対いい点とって見せにくるね。」
「ああ、楽しみにしてるよ。お前に取れればの話だけどな。」
「はあ!?」
「どんな点数でも慰めてやっから。頑張ってこいよ。」
「…うん」
「明日は最後の大会があるんだ。もうこのメンバーでは出来ない。ぜっったい、勝ち進んでやる」
「おーおー気合い入ってんな。頑張れよ。お前ならできるさ。」
「うん!」
その日は土砂降りだった。
また、身も心もずぶ濡れだ。私は。
カランカラン…
ふんわりと香るコーヒー。
ずぶ濡れの私にあの人は一瞬びっくりして、その後優しい笑顔で微笑んでくれた。
「待ってろよ。今タオル持ってくっから。」
ふきかたは変わってない。
「…負けちまったか」
「…」
私は答えなかった。あの人は困ったように微笑んで、私をカウンター席まで連れて行った。
「今日は特別メニューがあるぞ。」
と言って、私の目の前にお皿を置いた。
今日は私の隣に座ってくれるらしい。
それを見た瞬間、私は泣き出してしまった。ぼろぼろぼろぼろ止まらない。それは、
オムライスだった。卵がすこしボロボロだけど。ケチャップで、『おつかれさま』と書いてある。こんなん、元気出るに決まってるわ、ばか。
私は思いっきり、あの人に抱きついた。
「大好きだよ、ありがとう」
声が震えてしまった。でもどうしても、どうしても今伝えたかった。
あの人は私の背中に手を回して、
「ああ。おつかれさま。」
と、優しく声をかけてくれた。
優しいコーヒーの香りがした。
欧亜さん(選択なし・14さい)からの相談
とうこう日:2024年6月26日みんなの答え:2件
人生への絶望
未来への不安
現状への不満
もう何もしたくない────
数々の悩みを抱え、身も心もずぶ濡れの私が見つけたのは、一件のカフェだった。
ドアを開けたらカウンター席と、その横にテーブル席。
コーヒーがふんわりと香る。
「素敵な雰囲気のカフェだなあ」
そうぼんやりと思っていたら、奥から若い男性がでてきた。
あ、コーヒーのいいにおいだ
「貴方、どうしたんですか!?びちょびちょじゃないですか!!ちょっと待っててください、今タオル持ってきますね」
私をまるごと包むような柔らかい声。なんだか心がじゅわっと暖まるように感じた。
戻ってきたあの人は、ふわふわのタオルで私の髪をわしゃわしゃとふく。
あ、やっぱりコーヒーのにおい
「もう、何があったんですか!!見たところ傘も持っていないし!!こんなに濡れて!自分のこともっと大事にしてあげないとだめでしょう!」
怒ってる?なんでだろう
「どうしてこんなところに?」
「…」
私は答えなかった。
あの人は困ったように微笑んで、
「今コーヒーをいれますから。座っていてください。」
と、私をカウンター席まで連れていった。目の前で作られるコーヒーを私はじいっと見つめていた。
数分後、私の目の前にコーヒーが置かれた。
いいにおいだ
「どうぞ。飲んでみてください。コーヒーをいれるのだけはうまいんですよ、私」
誇ったような顔をしたあの人を横目に、私はコーヒーに手を伸ばした。一口飲んだ瞬間、
「あちっ」
予想以上に熱かった。舌を火傷してしまった。
「ふふ」
笑い声?ふと顔をあげると、笑い声のもとはあの人なのだとすぐに理解した。
屈託ない笑顔。今までの紳士っぷりからは思いもよらないな、と思った。
「くく、ふふ…」
声を殺して笑っているようだが、しっかりとばれている。そんなに舌を火傷したのが面白かったのかな。
…ツボが浅い人らしい。その後もずっと笑っていた。でも、悪い気はしなかった。
「また来てよ。いつでも待っているから。」
急にタメ口だな、この人。
「…はい」
驚いた。私が初対面の人と話せるなんて。
「あの、お代…」
「いーっていーって!!またきてくれればそれでさ。」
あの人はまた屈託ない笑顔を私に向けた。
その後もたくさん通い、私は常連客と化していた。客は常連が2、3人いる程度。お店としては少ないが、私にとってはちょうどよく、居心地のいい場所だった。
「俺はコーヒーをいれるのは得意だけど、そのほかはてんでだめなんだ。まあ、そんな俺も大好きだけどな。」
この人、この期間でキャラ変わりすぎじゃないか?
「お前、好きな食べ物とかないのか」
「…オムライス」
「オムライス!?案外かわいいとこもあんだな」
「うるさい」
「二週間後、テストがあるんだ、私。絶対いい点とって見せにくるね。」
「ああ、楽しみにしてるよ。お前に取れればの話だけどな。」
「はあ!?」
「どんな点数でも慰めてやっから。頑張ってこいよ。」
「…うん」
「明日は最後の大会があるんだ。もうこのメンバーでは出来ない。ぜっったい、勝ち進んでやる」
「おーおー気合い入ってんな。頑張れよ。お前ならできるさ。」
「うん!」
その日は土砂降りだった。
また、身も心もずぶ濡れだ。私は。
カランカラン…
ふんわりと香るコーヒー。
ずぶ濡れの私にあの人は一瞬びっくりして、その後優しい笑顔で微笑んでくれた。
「待ってろよ。今タオル持ってくっから。」
ふきかたは変わってない。
「…負けちまったか」
「…」
私は答えなかった。あの人は困ったように微笑んで、私をカウンター席まで連れて行った。
「今日は特別メニューがあるぞ。」
と言って、私の目の前にお皿を置いた。
今日は私の隣に座ってくれるらしい。
それを見た瞬間、私は泣き出してしまった。ぼろぼろぼろぼろ止まらない。それは、
オムライスだった。卵がすこしボロボロだけど。ケチャップで、『おつかれさま』と書いてある。こんなん、元気出るに決まってるわ、ばか。
私は思いっきり、あの人に抱きついた。
「大好きだよ、ありがとう」
声が震えてしまった。でもどうしても、どうしても今伝えたかった。
あの人は私の背中に手を回して、
「ああ。おつかれさま。」
と、優しく声をかけてくれた。
優しいコーヒーの香りがした。
欧亜さん(選択なし・14さい)からの相談
とうこう日:2024年6月26日みんなの答え:2件
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いい話! どうも緑猫だよ(=・ω・=)
お話に少しだけ「コーヒーの香り」っていうのが書かれて素敵な感じがします
それじゃあにゃ〜(=・ω・=) 緑猫さん(静岡・11さい)からの答え
とうこう日:2024年10月7日 -
とっても素敵!! 読んでて涙腺脈打ちました…
こんな小説をかけるなんて欧亜さんはすごいですね!!
私ももっとおもしろい小説がかけるようになるといいなあ ちゅんちゅんさん(静岡・12さい)からの答え
とうこう日:2024年10月7日
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