最後のプレゼント
舞い散る桜も、公園の噴水も、綺麗な雪ちゃんも、小さな枠の中に収まっている。
「ほーら、雪ちゃん笑ってよ」
画面の中の雪ちゃんに言うと、雪ちゃんの頬にえくぼができた。優しい春の風が、雪ちゃんの髪を揺らす。シャッターを切り、カメラを下ろした。
目の前では相変わらず、桜の花びらが地面に落ち、噴水が水を噴き上げ、ボブカットの雪ちゃんが笑っている。さっきまで小さな枠に収まっていた世界は、とてもとても大きなものなのだ。
「見せて! 上手に撮れた?」
駆け寄ってくる雪ちゃんにカメラを操作して写真を見せる。雪ちゃんの満足そうな笑顔が目に映った。
「さすが美玲(みれい)!桜綺麗だし私も可愛い」
冗談交じりに言う雪ちゃんに、思わず笑みがこぼれる。
「雪ちゃんは確かに可愛いけど、自分で言ったら台無しだよ」
いつものように言ったのに、可愛い顔からは笑顔が消えて、顔を俯かせたまま動かない。
「雪ちゃん……?」
そっと覗き込むと、雪ちゃんの目から涙がこぼれた。地面にできる涙のシミが、だんだんと増えていく。
雪ちゃんが顔を上げて、手で顔をこする。私に向き直ると、いつになく真剣な表情で言った。
「転校することになったの」
冷たい風に、木々が揺れた。私の長い髪が、雪ちゃんを隠す。足元に何かが当たった。
「あ、すいません! ボールが……」
まだ声変わりしていない、幼い男の子の声だ。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
雪ちゃんと男の子の声が、遠くから聞こえる。
同じクラスの、七瀬ちゃんは転校する。春休み前、確かに先生が言っていた。みんな寂しそうにしていた。
だけど雪ちゃんのことは、誰も言っていなかったはずだ。誰も、寂しそうにはしていなかった。雪ちゃんが私の長い髪を撫でる。
「明日、遠い所に引っ越すの。言ってももう会えないから、ずっと黙ってた」
噛んで含ませるように、私に話す。頬を撫でる生ぬるいものを否定するように、口を開いた。
「大人になったらなんでもできるようになるんだよ。もう会えないなんて、そんなことない」
「ごめん、美玲……」
──雪ちゃんのこんなに震えた声は、聞いたことがなかった。
目が覚めると、時計は10時を指していた。この針が12時を指した時、雪ちゃんはこの町からいなくなっている。そう思ったら、朝ごはんを食べる気なんて起きなかった。デジカメを手に、ベッドに再び身を預ける。
昨日の写真。夏休みに撮った、プールの写真。中学校の入学式の写真。その全てに、雪ちゃんが写っている。
小学校で仲良くなってから、ずっと一緒に過ごしてきた。修学旅行も同じ部屋になれて、雪ちゃんのおかげで毎日が楽しかったんだ。
ボタンを押すたびに、思い出があふれて鼻の奥が痛くなる。
──え?
ボタンを押す手が止まった。雪ちゃんと仲良くなった日、家の前で撮った写真がなかったのだ。桜が咲く春、仲良くなった記念にと、早々と帰ろうとする雪ちゃんを止めて、写真を撮ったのに。あの日の会話も、雪ちゃんの表情も、覚えているのに。
次の日もその次の日も一緒に遊んだのに、写真がない。何度見ても、あるのは家族で撮ったお花見の写真だけ。
時計を見ると、いつの間にか11時30分になっていた。ここから雪ちゃんの家までは、歩いて30分ほどかかる。
私はパジャマのまま走った。足の遅い私では、着替えていては間に合わない。──そう思ったのだけど、同い年くらいの子の視線が、痛いほど刺さる。笑っているのもわかる。
思わず止めそうになった足を、懸命に動かした。今止めたら、必ず後悔する。
「雪ちゃん!」
玄関の扉には、鍵がかかっていなかった。廊下は明るく、ダンボールなど一つもない。
「美玲ちゃん、どうしたの?」
雪ちゃんのお母さんが、パジャマ姿の私をいぶかしげに見つめた。
「おじゃまします」
雪ちゃんの部屋は2階にある。靴を脱いで、階段を上がった。
「雪ちゃん……」
雪ちゃんの部屋にあった大きな鏡が、青白い光を放っている。雪ちゃんは、ほうきを片手に持って、鏡の前に立っていた。
「ごめんね。美玲の記憶だけは、書き換えたくなかったの」
とても悔しそうに、悲しそうに、雪ちゃんが言った。
「魔女はね、子供のうちに、人間界で暮らすの。2年間だけ」
雪ちゃんと友達になったのは、3年前。小学5年生の時だ。4年生までも、違うクラスにいたはずだ。
「美玲と仲良くなりたくて、記憶を書き換えたんだ。あの1年は、嘘なんだよ」
「嘘でもいいよ、雪ちゃん。仲良くなれて嬉しかった」
雪ちゃんが青白く光る鏡に入っていく。
──どうしてここにいるんだろう。
気づけば雪の結晶が描かれた見たことのないワンピースを着て、知らない人の家に立っていた。 千月留さん(選択なし・15さい)からの相談
とうこう日:2020年12月19日みんなの答え:4件
「ほーら、雪ちゃん笑ってよ」
画面の中の雪ちゃんに言うと、雪ちゃんの頬にえくぼができた。優しい春の風が、雪ちゃんの髪を揺らす。シャッターを切り、カメラを下ろした。
目の前では相変わらず、桜の花びらが地面に落ち、噴水が水を噴き上げ、ボブカットの雪ちゃんが笑っている。さっきまで小さな枠に収まっていた世界は、とてもとても大きなものなのだ。
「見せて! 上手に撮れた?」
駆け寄ってくる雪ちゃんにカメラを操作して写真を見せる。雪ちゃんの満足そうな笑顔が目に映った。
「さすが美玲(みれい)!桜綺麗だし私も可愛い」
冗談交じりに言う雪ちゃんに、思わず笑みがこぼれる。
「雪ちゃんは確かに可愛いけど、自分で言ったら台無しだよ」
いつものように言ったのに、可愛い顔からは笑顔が消えて、顔を俯かせたまま動かない。
「雪ちゃん……?」
そっと覗き込むと、雪ちゃんの目から涙がこぼれた。地面にできる涙のシミが、だんだんと増えていく。
雪ちゃんが顔を上げて、手で顔をこする。私に向き直ると、いつになく真剣な表情で言った。
「転校することになったの」
冷たい風に、木々が揺れた。私の長い髪が、雪ちゃんを隠す。足元に何かが当たった。
「あ、すいません! ボールが……」
まだ声変わりしていない、幼い男の子の声だ。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
雪ちゃんと男の子の声が、遠くから聞こえる。
同じクラスの、七瀬ちゃんは転校する。春休み前、確かに先生が言っていた。みんな寂しそうにしていた。
だけど雪ちゃんのことは、誰も言っていなかったはずだ。誰も、寂しそうにはしていなかった。雪ちゃんが私の長い髪を撫でる。
「明日、遠い所に引っ越すの。言ってももう会えないから、ずっと黙ってた」
噛んで含ませるように、私に話す。頬を撫でる生ぬるいものを否定するように、口を開いた。
「大人になったらなんでもできるようになるんだよ。もう会えないなんて、そんなことない」
「ごめん、美玲……」
──雪ちゃんのこんなに震えた声は、聞いたことがなかった。
目が覚めると、時計は10時を指していた。この針が12時を指した時、雪ちゃんはこの町からいなくなっている。そう思ったら、朝ごはんを食べる気なんて起きなかった。デジカメを手に、ベッドに再び身を預ける。
昨日の写真。夏休みに撮った、プールの写真。中学校の入学式の写真。その全てに、雪ちゃんが写っている。
小学校で仲良くなってから、ずっと一緒に過ごしてきた。修学旅行も同じ部屋になれて、雪ちゃんのおかげで毎日が楽しかったんだ。
ボタンを押すたびに、思い出があふれて鼻の奥が痛くなる。
──え?
ボタンを押す手が止まった。雪ちゃんと仲良くなった日、家の前で撮った写真がなかったのだ。桜が咲く春、仲良くなった記念にと、早々と帰ろうとする雪ちゃんを止めて、写真を撮ったのに。あの日の会話も、雪ちゃんの表情も、覚えているのに。
次の日もその次の日も一緒に遊んだのに、写真がない。何度見ても、あるのは家族で撮ったお花見の写真だけ。
時計を見ると、いつの間にか11時30分になっていた。ここから雪ちゃんの家までは、歩いて30分ほどかかる。
私はパジャマのまま走った。足の遅い私では、着替えていては間に合わない。──そう思ったのだけど、同い年くらいの子の視線が、痛いほど刺さる。笑っているのもわかる。
思わず止めそうになった足を、懸命に動かした。今止めたら、必ず後悔する。
「雪ちゃん!」
玄関の扉には、鍵がかかっていなかった。廊下は明るく、ダンボールなど一つもない。
「美玲ちゃん、どうしたの?」
雪ちゃんのお母さんが、パジャマ姿の私をいぶかしげに見つめた。
「おじゃまします」
雪ちゃんの部屋は2階にある。靴を脱いで、階段を上がった。
「雪ちゃん……」
雪ちゃんの部屋にあった大きな鏡が、青白い光を放っている。雪ちゃんは、ほうきを片手に持って、鏡の前に立っていた。
「ごめんね。美玲の記憶だけは、書き換えたくなかったの」
とても悔しそうに、悲しそうに、雪ちゃんが言った。
「魔女はね、子供のうちに、人間界で暮らすの。2年間だけ」
雪ちゃんと友達になったのは、3年前。小学5年生の時だ。4年生までも、違うクラスにいたはずだ。
「美玲と仲良くなりたくて、記憶を書き換えたんだ。あの1年は、嘘なんだよ」
「嘘でもいいよ、雪ちゃん。仲良くなれて嬉しかった」
雪ちゃんが青白く光る鏡に入っていく。
──どうしてここにいるんだろう。
気づけば雪の結晶が描かれた見たことのないワンピースを着て、知らない人の家に立っていた。 千月留さん(選択なし・15さい)からの相談
とうこう日:2020年12月19日みんなの答え:4件
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素敵なお話…(*´▽`*) のおっ!こんちゃ☆秋菜だよー♪
こんばんは♪秋菜です(*´▽`*)
初めまして!秋菜と申します(*^^*)
千月留さんのお話がとても素敵でした♪
私にはこんな儚くて、それでも描写が綺麗で、最初から最後まで素敵でした♪
コメント遅くなってすいませんでした!
素敵なお話ありがとうございました♪
お体に気をつけてくださいね!
秋菜(元ゆーな☆)@ゆの花嫁志望!さん(北海道・13さい)からの答え
とうこう日:2020年12月22日 -
素敵(*´`) ストーリーや設定から、儚げで素敵なお話だなぁと思いました。それに加えて描写がとても綺麗で、読んでいて心地よかったです(*´▽`*)
自分語りになるんですが、私は小説に五感の情報を入れるのが大の苦手で。だから千月留さんの小説、とっても憧れます(*´`)また読みたくなるような、癖になっちゃう感じがしました(笑)
素敵なお話、ありがとうございました♪ 臣 さん(長野・14さい)からの答え
とうこう日:2020年12月20日 -
すごい! 笑顔がモットーです!
一つ一つの表現がすごく上手です!
次の作品も期待してますね! 笑顔がモットーさん(選択なし・13さい)からの答え
とうこう日:2020年12月20日 -
うわーーー!すごい! こんちゃ!あまゆだよっ!
めっちゃ凄い!好きな小説でした!
最初から最後まで
言葉のひとつひとつが綺麗でした!
なんて言ったらいいのか
わかんないけど本当に凄い!!
素敵な小説どうもありがとーです! あまゆさん(選択なし・14さい)からの答え
とうこう日:2020年12月20日
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